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トマトのコナジラミ対策として、殺虫剤に加えて「トマト自身がつくる天然の成分」を活かす研究が進んでいます。2026年に発表された総説論文によると、野生のトマトは葉の表面の毛(腺毛)から香り成分・フェノール化合物・アシル糖などを出してコナジラミを遠ざけており、栽培トマトは品種改良の過程でこの力の多くを失ってきたと報告されています。この記事では、その成分の種類と働き、マリーゴールドとの混植の効果、そして家庭菜園でできる対策までを、論文の内容に沿ってわかりやすく解説します。
- トマトのコナジラミ対策で注目される「二次代謝産物」とは?
- タバココナジラミとはどんな害虫なの?
- コナジラミはトマトにどんな被害を与えるの?
- なぜ殺虫剤だけではコナジラミを防ぎきれないの?
- 総合的病害虫管理(IPM)ではどんな方法が使われているの?
- 野生のトマトはなぜコナジラミに強いの?
- トマトの二次代謝産物にはどんな種類があるの?
- テルペン類(香り成分)はコナジラミにどう効くの?
- マリーゴールドのコンパニオンプランツはコナジラミ対策になるの?
- フェノール化合物・フラボノイドはどう働くの?
- トマトのアルカロイド(トマチン)はコナジラミに効くの?
- アシル糖とは?コナジラミをどうやって防ぐの?
- コナジラミはトマトの防御にどう対抗しているの?
- トマトの防御成分に弱点や課題はあるの?
- これからのトマトの品種づくりはどう変わるの?
- 家庭菜園でできるトマトのコナジラミ対策は?
- まとめ
- よくある質問(Q&A)
- 参考文献
トマトのコナジラミ対策で注目される「二次代謝産物」とは?
二次代謝産物とは、植物が生きるために直接は必要としないものの、害虫や病気から身を守ったり、周りの生き物とやりとりしたりするためにつくる化学成分の総称です。
植物は、光合成でつくった糖やアミノ酸などを使って体をつくり、生きていきます。これを「一次代謝」と呼びます。これに対して、香りの成分や苦みの成分、色素など、「なくてもすぐには枯れないけれど、あると生き残りに有利になる」成分をつくる働きが「二次代謝」です。トマトの葉をさわったときの青くさいにおいも、二次代謝産物によるものです。
今回紹介するのは、アメリカのオーバーン大学とブラジルのマリンガ州立大学の研究グループが、2026年1月に学術誌「Frontiers in Plant Science」に発表した総説論文です(論文本文はこちら(Frontiers in Plant Science))。総説とは、特定のテーマについて多くの研究結果を集め、整理してまとめた論文のことです。
この論文は、トマトの大敵であるタバココナジラミに対して、トマトの二次代謝産物がどのように働くのかを、次の2つの視点から整理しています。
- 非選好性(アンチゼノーシス):コナジラミがその株を「好まない」「寄りつかない」ようにする働き。忌避したり、卵を産むのを避けさせたりする
- 抗生性(アンチバイオシス):コナジラミがその株の汁を吸った結果、死んだり、育ちや繁殖が悪くなったりする働き
つまり、「近寄らせない」作戦と、「近寄ってきても弱らせる」作戦の2本立てです。論文では、この2つの作戦に関わる成分として、テルペン類、フェノール化合物、窒素を含む成分(アルカロイド)、アシル糖の4つのグループを取り上げています。
タバココナジラミとはどんな害虫なの?
タバココナジラミ(学名:ベミシア・タバキ〈Bemisia tabaci〉)は、体長1ミリほどの白い小さな虫で、植物の汁を吸うカメムシの仲間(カメムシ目コナジラミ科)です。英語では「sweetpotato whitefly(サツマイモのコナジラミ)」と呼ばれています。葉の裏にとまって汁を吸い、株をゆらすと白い粉のように舞い上がるのが特徴です。
論文によると、タバココナジラミには次のような特徴があります。
| 項目 | 論文で報告されている内容 |
|---|---|
| 寄生できる植物 | 少なくとも60の科にまたがる1,000種以上 |
| 主な被害作物 | キャッサバ、トマト、ナス、ウリ類、アブラナ科野菜、オクラ、ダイズ、ジャガイモ、ワタ、レタス、観賞植物など |
| 種の正体 | 見た目では区別できない40種以上が、11の遺伝的グループにまとまった「隠蔽種複合体」 |
| トマトで重要な系統 | 新世界系統(旧バイオタイプA)、MEAM1(旧バイオタイプB)、地中海系統(旧バイオタイプQ) |
| 増え方 | 1シーズンに何世代も重なって発生。交尾していない雌は雄だけを産む |
| 被害の大きさ | 激しく発生すると、トマトの収量が最大90%減ることがある |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
「隠蔽種複合体」とは、見た目はそっくりでも、遺伝的には別の種に分かれているグループのことです。同じ「タバココナジラミ」と呼ばれていても、系統によって薬の効き方やウイルスの運び方が違うことがあるため、防除を難しくしています。
中でもMEAM1系統は、1980年代に観賞植物とともに世界に広がり、現在ではヨーロッパ、アジア、アフリカ、南北アメリカなどに定着しています。トウモロコシのようにあまり好まない作物の上でも繁殖できるため、一年中どこかで生き延びて、近くの畑に再び入り込んでくるのも厄介な点です。
なお、家庭菜園や温室では、タバココナジラミのほかに「オンシツコナジラミ」もよく見られます。見た目がよく似ているため区別は難しいのですが、オンシツコナジラミの特徴や対策については、トマトのオンシツコナジラミの原因と対策で詳しく紹介しています。コナジラミ全般の生態や、家庭菜園で見つけたときの基本の対処については、コナジラミの生態と家庭菜園でできる対策もあわせてご覧ください。
コナジラミはトマトにどんな被害を与えるの?
タバココナジラミによる被害は、大きく「直接の被害」と「間接の被害」に分けられます。
| 被害の種類 | 内容 | 起こること |
|---|---|---|
| 直接の被害(吸汁) | 幼虫と成虫が葉の汁を吸う | 栄養が奪われ、光合成が低下。葉の黄化、早期落葉、株の衰弱 |
| 直接の被害(果実) | 幼虫が植物の生理を乱す物質を出す | 果実の色づきが不均一になる、内部の着色が妨げられる |
| 直接の被害(すす病) | 排せつ物の甘露に黒いカビが生える | 葉や実が黒く汚れ、光合成と品質が低下 |
| 間接の被害(ウイルス) | ウイルスを株から株へ運ぶ | トマト黄化葉巻病などが広がり、収量が大きく減る |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
とくに深刻なのが、ウイルスの運び屋としての被害です。論文によると、ベミシア属とトリアレウロデス属(オンシツコナジラミの仲間)のコナジラミは、およそ200種類の植物ウイルスの伝搬に関わっており、ウイルスによる作物の損失は20〜100%に及ぶことがあります。
トマトで最も恐れられているのが、タバココナジラミのMEAM1系統が運ぶ「トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)」です。感染すると、葉が黄色くなって縮れながら巻き込み、株の成長が止まり、実の数も品質も大きく落ちます。深刻な流行では、収穫がゼロになることもあると報告されています。トマト黄化葉巻病の症状の見分け方や、家庭菜園での対策については、トマト黄化葉巻病の原因と対策で詳しくまとめています。
このほか、葉脈の間が黄色くなる「トマト退緑ウイルス(ToCV)」もコナジラミによって運ばれます。経済的な損失の例として、論文では2016年に米国フロリダ州のトマト生産で1億2,500万ドルを超える損失が出たことが紹介されています。
なぜ殺虫剤だけではコナジラミを防ぎきれないの?
現在も、コナジラミ対策の中心は化学殺虫剤です。論文では、殺虫剤の作用のしかたを分類する国際的な組織「殺虫剤抵抗性対策委員会(IRAC)」の分類をもとに、次のような系統の薬剤が使われていると紹介されています(IRACの分類はIRACの作用機構分類の資料(英語)で確認できます)。
| 分類(IRACの番号) | 主な薬剤の例 | 働き方のイメージ |
|---|---|---|
| ネオニコチノイド系(4A) | イミダクロプリドなど | 神経に作用する |
| ブテノライド系(4D) | フルピラジフロン | 神経に作用する |
| ジアミド系(28) | シアントラニリプロール、クロラントラニリプロール | 筋肉に作用する |
| 昆虫成長制御剤(7C・16) | ピリプロキシフェン、ブプロフェジン | 脱皮や成長を妨げる |
| ケトエノール系(23) | スピロメシフェン、スピロテトラマト | 脂質の合成を妨げる |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成。「働き方のイメージ」は一般的な作用機構を補足したもの)
ところが、これらの薬剤が広く繰り返し使われてきた結果、コナジラミは有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、ネオニコチノイド系、ジアミド系、昆虫成長制御剤など、ほぼすべての系統の薬剤に「抵抗性」(薬が効きにくくなる性質)を身につけてきました。アメリカ南東部の主要なトマト産地では、スピロテトラマトに効きにくい集団が一部の地域で確認され、アフィドピロペンやシアントラニリプロールにも効きにくい集団が現れはじめています。ジョージア州では、多くの薬剤がまだ効いているものの、イミダクロプリドの効果の低下が報告されています。
コナジラミが抵抗性を身につけやすい理由として、論文では次の2点が挙げられています。
- 増えるスピードが速い:1回の栽培シーズンの中で世代を何度も重ねるため、薬に強い個体が選び出されて増えるまでの時間が短い
- 変わった増え方をする:交尾していない雌が産んだ卵からは、染色体を1セットしか持たない雄が生まれる。そのため、ふつうなら隠れてしまう「薬に強くなる遺伝子(劣性の遺伝子)」がすぐに性質として表に出る
この増え方は、殺虫剤だけでなく、RNA干渉(RNAi)のような新しい防除技術の効果も弱めてしまう可能性があると指摘されています。薬を変えても、また効かなくなる。この「いたちごっこ」から抜け出す手段として、作物自身の防御力に注目が集まっているのです。
総合的病害虫管理(IPM)ではどんな方法が使われているの?
総合的病害虫管理(IPM)とは、化学農薬だけに頼らず、物理的・生物的・化学的な方法などを組み合わせて、環境や害虫以外の生き物への影響を抑えながら害虫を管理する考え方です。論文では、コナジラミに対するIPMの方法として、次のようなものが紹介されています。
| 方法の種類 | 具体例 | 論文で紹介されているポイント |
|---|---|---|
| 物理的・機械的な方法 | 紫外線を反射するマルチ、畝を覆う被覆資材、収穫後の片付け | 銀色のマルチでコナジラミの数とウイルスの発生が減り、トマトの収量と品質が向上した例がある |
| 生物的防除 | 天敵の導入・放飼、天敵がすみやすい環境づくり | 化学資材への依存を減らし、生態系の安定につながる |
| 寄主植物抵抗性 | 虫に強い品種の利用 | 長期的な害虫抑制に役立つ。品種づくりには、抵抗性の性質を選び出す信頼できる方法が必要 |
| 化学的防除 | 殺虫剤 | ほかの方法と組み合わせ、抵抗性の発達を防ぐ・遅らせる |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
反射マルチが効くのは、コナジラミが光の波長に反応して飛ぶ方向を決める性質(走光性)を持っているためです。足元からの反射光によって、コナジラミは株に降りにくくなると考えられています。
生物的防除については、外国から天敵を導入する方法、天敵を大量に増やして定期的に放す方法、畑の周りの環境を整えてもともといる天敵を増やす方法の3つが紹介されています。天敵や植物の香りを利用した害虫対策の考え方は、植物が香りでSOSを出すメチルサリチル酸のしくみでも紹介しています。
そして、この記事の主役である「寄主植物抵抗性」も、IPMの柱の一つです。寄主植物抵抗性とは、作物が遺伝的に持っている、害虫の被害を減らす性質のことです。一度その性質を持つ品種ができれば、毎回薬をまかなくても効果が続くため、気候変動や人口増加、環境の悪化といった世界の農業の課題に向き合ううえでも重要だと論文は述べています。
農薬への依存を減らし、環境への負担を小さくしようという考え方は、野菜を買って食べる側にもつながっています。農薬や化学肥料にできるだけ頼らない野菜づくりに関心がある方は、次のような野菜の定期宅配を試してみるのも一つの方法です。
化学合成農薬・化学肥料不使用。環境負荷の小さい農法で育てられたお野菜

野生のトマトはなぜコナジラミに強いの?
トマトの祖先は、南米大陸の西部に自生する野生種です。論文によると、野生のトマトは栽培トマトよりもコナジラミに強く、その理由として多くの研究が注目してきたのが、葉や茎に生える小さな毛「トライコーム(毛状体)」です。
トライコームとは、植物の表皮が変化してできた毛のような突起のことです。大きさや形、並び方はさまざまで、トマトでは形の違いから8つのタイプ(I〜VIII型)に分けられています。さらに、働きの違いから大きく2種類に分けられます。
| 毛の種類 | 主な働き | コナジラミへの影響 |
|---|---|---|
| 非腺毛(化学物質をつくらない毛) | 物理的な「柵」 | 歩く、口針を刺す、卵を産むといった行動をじゃまする |
| 腺毛(化学物質をつくる毛) | 物理的な柵+成分をつくってためる「小さな工場」 | 代謝・繁殖・行動を乱す成分を出す |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
腺毛は、先端などで二次代謝産物をつくり、ためておくことができます。そのため、物理的な障壁と化学的な防御の両方を担う、いわば「二刀流」の毛です。毛の種類や、植物が毛を使って乾燥や害虫から身を守るしくみについては、植物の毛状体(トライコーム)の種類と役割で詳しく解説しています。触れると痛いイラクサの毛も、化学物質を使って身を守る毛の一例です(イラクサの毛が持つ防御のしくみ)。
論文で紹介されている、野生トマトと栽培トマトを比べた研究の主な結果は次のとおりです。
- 野生の遺伝子型は腺毛、とくにIV型の腺毛の密度が高く、そのぶんコナジラミに強かった
- 自由に株を選ばせる産卵試験でも、選ばせない産卵試験でも、野生の系統のほうが非選好性と抗生性の両方で強い抵抗性を示した
- I型、IV型、VI型の腺毛が害虫への抵抗性に役立っており、その効果は物理的な障壁と、虫を遠ざける成分の分泌の組み合わせによるものと考えられた
- さまざまなトマトの種を広く調べた研究では、IV型とVI型の腺毛が多いほど、コナジラミの幼虫・若虫・成虫の数が少なかった
葉の形や成分にも違いがありました。インド東部のトマトを調べた研究では、次のような傾向が報告されています。
| 葉の特徴 | コナジラミの数との関係 |
|---|---|
| 葉が細く薄い、毛が多い | コナジラミが少ない(負の相関) |
| 葉の面積が広く厚い | 幼虫・成虫ともに多い(正の相関)。食べやすいためと考えられる |
| 総フェノール量が多い | コナジラミが少ない(負の相関) |
| タンパク質・還元糖・総糖が多い | コナジラミが多い(正の相関) |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文で紹介されているPal et al. 2021の結果をもとに作成)
では、なぜ栽培トマトは弱くなってしまったのでしょうか。論文によると、近代の品種改良は、主に収量を増やすことと、実の品質をよくすることを目標にしてきました。その過程で、虫を防ぐ形や成分といった性質は見過ごされがちになり、多くが失われてしまったと考えられています。そのため、野生種が持つ抵抗性の性質を栽培トマトに再び取り入れることが、タバココナジラミ対策の有効な戦略になりうると論文は述べています。

トマトの二次代謝産物にはどんな種類があるの?
腺毛などでつくられるトマトの防御成分は、論文では次の4つのグループに整理されています。
| グループ | 代表的な成分 | 主な働き | 研究の進みぐあい |
|---|---|---|---|
| テルペン類(香り成分) | ジンギベレン、クルクメン、リモネン、カリオフィレン | 香りで寄せつけない、神経に作用する | 忌避効果や混植・散布の試験がある |
| フェノール化合物 | ルチン、ケルセチン、タンニン | 消化をじゃまする、吸汁を妨げる、防御を高める | 種子処理やゲノム編集を使った研究まで進んでいる |
| 窒素を含む成分(アルカロイド) | トマチン | ほかの虫では神経毒性・脱皮の阻害など | コナジラミでの検証はまだ少ない |
| アシル糖 | アシルスクロース、アシルグルコース | ベタベタで動きを封じる、窒息させる | 品種の交配や畑での試験まで進んでいる |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
また、これらの成分は、つくられるタイミングによって2つに分けることもできます。
- 構成性の成分:いつもつくられて、食べられやすい部分にためられている。虫が来たらすぐに効く
- 誘導性の成分:虫の唾液や産卵のときの分泌物などを植物が感じ取ったときにつくられる。反応に時間はかかるが、相手に合わせて調整できる
論文では、生育の早い時期に虫に食べられるストレスを受けたトマトは、腺毛とアシル糖を多くつくるようになり、抵抗性が高まったという研究も紹介されています。植物は、一度攻撃されると、次に備えて守りを固めるのです。
テルペン類(香り成分)はコナジラミにどう効くの?
テルペン類とは、「イソプレン」という炭素5個の単位がいくつかつながってできた成分のグループで、植物の香りの多くがこの仲間です。ミカンの皮の香りのリモネンや、ハーブの香り成分なども含まれます。つながる単位の数によって、モノテルペン(2単位)、セスキテルペン(3単位)などに分けられます。
論文で紹介されている、トマトのテルペン類とコナジラミに関する主な研究は次のとおりです。
| 成分 | 分類 | 報告されている働き |
|---|---|---|
| ジンギベレン、クルクメン | セスキテルペン | 忌避剤として働き、コナジラミが株に口針を刺して探るのを思いとどまらせる |
| 7-エピ-ジンギベレン、R-クルクメン | セスキテルペン | 顕著な忌避作用。「この株は毒がある」という合図になる |
| 7-エピ-ジンギベレンの誘導体(系統LA216の葉の分泌物) | セスキテルペノイド | 濃度が高いほどコナジラミの生存率が低い |
| p-シメン、α-テルピネン、α-フェランドレン | モノテルペン | 忌避作用があり、トマトの魅力を下げる |
| カリオフィレン | テルペノイド | トマトの香り成分の合成を促し、防御を誘導する。25mmol/Lで12時間処理したときに最も強い抵抗性 |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
ジンギベレンは、ショウガの香りの成分の一つとして知られる物質です。自由に株を選べる条件では、コナジラミの成虫はこれらの香りを出すトマトに寄りつきにくくなりました。香りによって、虫の「どの株にとまるか」という判断そのものが変わっていたのです。
さらに、テルペン類の働きは香りだけではありません。論文によると、一部のテルペン類は植物に苦みを与えて食べる気をなくさせたり、タンパク質を変性させて栄養価を下げたりします。また、虫の神経に関わる酵素や受容体(アセチルコリンエステラーゼ、GABA、オクトパミン受容体、ナトリウムチャネルなど)を標的として、神経に作用することも知られています。
害虫に傷つけられたときにトマトが出すテルペン類を、害虫の天敵を呼び寄せる誘引剤として活かす研究も紹介されています。
マリーゴールドのコンパニオンプランツはコナジラミ対策になるの?
テルペン類の働きを畑づくりに応用した例として、論文ではマリーゴールドとの混植(コンパニオンプランツ)の研究が紹介されています。コンパニオンプランツとは、一緒に植えることで害虫を減らしたり生育を助けたりする効果が期待される植物のことです。
この研究(Conboy et al., 2019)は、温室でよく発生する「オンシツコナジラミ」を対象に、トマトとフレンチ・マリーゴールドを一緒に植えた試験です。マリーゴールドはコナジラミが寄生しない植物で、香りの成分をたくさん出します。商業栽培の条件を再現した2回の大規模な温室試験の結果は、次のとおりでした(マリーゴールド混植の研究論文(PLOS ONE、英語))。
| 試験の内容 | 結果 |
|---|---|
| 栽培のはじめからマリーゴールドを一緒に植える | コナジラミの数が大きく減った |
| 大発生してから応急的にマリーゴールドを植える | ほとんど効果がなかった |
| マリーゴールドの主な香り成分リモネンを散布(続く研究) | 害虫が多い条件でも収量が向上。リモネン単独で収量が32%増加 |
| リモネンとサリチル酸メチルを組み合わせて散布(続く研究) | 収量が向上 |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文で紹介されているConboy et al. 2019・2020の結果をもとに作成)
この結果から読み取れるのは、コンパニオンプランツは「予防」の手段であって、「発生後の特効薬」ではないということです。マリーゴールドを試すなら、トマトの苗を植え付けるときに一緒に植えておくのがよいでしょう。
ただし、注意したい点もあります。この試験はタバココナジラミではなくオンシツコナジラミを対象にした温室での試験であり、露地の家庭菜園で同じ効果が出るとは限りません。また、リモネンの散布は研究として行われたもので、日本で農薬として登録された使い方ではないため、家庭でまねをするのは控えましょう。

フェノール化合物・フラボノイドはどう働くの?
フェノール化合物とは、ベンゼン環にヒドロキシ基(-OH)が結びついた構造を持つ成分の総称で、ポリフェノールと呼ばれる成分もこの仲間です。渋みのもとになるタンニンや、フラボノイドと呼ばれる色素成分などが含まれます。すべての植物に広く存在し、植物の防御で重要な役割を果たしています。
論文によると、フェノール化合物は次のような方法で虫に作用します。
- 触れた虫に毒として働く
- 酸化されて活性酸素などの有害な物質に変わり、虫の成長や発育に影響する
- タンニンのように多くのヒドロキシ基を持つ成分は、虫の腸内のタンパク質とくっついて消化をじゃまし、腸内細菌のバランスも変える
トマトでの主な研究結果は次のとおりです。
| 研究の内容 | 主な結果 |
|---|---|
| フェノールとタンニンの濃度の比較 | 濃度が高いトマトほどコナジラミに強かった |
| コナジラミに寄生されたトマトの成分の変化 | ルチンやケルセチンなどのフラボノイドが減り、後から来るコナジラミの好みに影響した |
| ハダニに食べられたトマト | ルチンとケルセチンが大きく減り、コナジラミにとって魅力的な株になった |
| ルチンまたはケルセチン(10mM)を外から与えた | 量が食害を受けていない株と同じ程度に戻り、コナジラミが口針を刺す時間・唾液を出す時間・汁を吸う時間が短くなった |
| 種子をルチン液(1〜20mM)で処理 | 発芽や生育はほぼ損なわれず、成虫の産卵数と幼虫の発育速度が低下。10mMと20mMでは根の伸びに悪影響 |
| ルチンによる種子プライミング | ジャスモン酸が増え、コナジラミを含む植食者への長く続く幅広い抵抗性が得られた |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
ハダニに食べられたトマトがコナジラミを呼び寄せやすくなる、という結果は、害虫どうしがつながっていることを示していて興味深いところです。トマトのハダニの特徴や対策は、トマトのハダニ類の原因と対策で紹介しています。
ルチンは、そばに多く含まれることで知られるフラボノイドです。「プライミング」とは、植物の防御システムを「待機状態」にしておき、虫が来たときにすばやく強く反応できるよう準備させることを指します。
フラボノイドの量だけが違うようにそろえたトマトの系統(準同質遺伝子系統)を使った研究では、さらに詳しいしくみもわかってきています。
- フラボノイドの多い系統は、少ない系統に比べてコナジラミに選ばれにくく、トマト黄化葉巻ウイルスの広がりも抑えた
- フラボノイドの多い系統では、コナジラミが口針を刺して探る時間と汁を吸う時間が短くなった
- コナジラミが寄生すると、フラボノイドの多い系統では活性酸素が多くつくられ、汁の通り道(師管)に「カロース」という物質が沈着して通り道がふさがれた
- ケルセチンとルチンは、コナジラミが唾液に含ませてトマトの防御を弱めるタンパク質(BtE3)の働きを抑えた。この結果は、ゲノム編集(CRISPR/Cas9)でフラボノールをつくる酵素の遺伝子を働かなくしたトマトを使った実験でも裏づけられた
師管をカロースでふさぐのは、ストローの先を詰めて汁を吸えなくするようなものです。トマトは「寄せつけない」だけでなく、「吸わせない」作戦も持っていたことになります。
トマトのアルカロイド(トマチン)はコナジラミに効くの?
アルカロイドとは、窒素を含む植物の成分の総称です。トマト、とくに青い未熟な実には、「ステロイドアルカロイド」という種類のアルカロイドと、それに糖が結びついた成分(グリコアルカロイド)が多く含まれています。その代表が、青いトマトの苦みのもとになる「トマチン」です。
アルカロイドは、ほかの虫に対しては次のような働きが報告されています。
- 神経に作用する
- 産卵数を減らす
- ホルモンの働きを乱し、脱皮や変態をじゃまする
- キイロショウジョウバエ、コクヌストモドキ、ココクゾウムシ、ミカンキイロアザミウマなどに対して生物活性が報告されている
ところが論文によると、トマトのアルカロイドとタバココナジラミとの関係を直接調べた研究は、とても少ないのが現状です。1987年の数少ない研究では、コナジラミに強いトマトの実のトマチンなどが測定されましたが、その目的は「人が食べても安全か」を確かめることで、コナジラミへの効果は調べられていませんでした。
一方で、遺伝子の研究からは、アルカロイドの合成を調節するしくみが次々と明らかになっています。
| 研究の内容 | わかったこと |
|---|---|
| 転写因子JRE4の変異 | アルカロイドが大きく減り、ハスモンヨトウの幼虫の食害に弱くなった |
| 光に反応する因子SlHY5 | アルカロイドを増やし、カビの感染への抵抗性を高めた |
| 遺伝子のスイッチ役「GE1」 | 栽培化の過程で、有毒なアルカロイドを減らす方向にこの部分が選ばれてきた |
| 酵素GAME8 | アルカロイドの立体的な形を決め、その働きの強さに影響する |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
食べやすさを求めて毒になりうる成分を減らしてきた結果、守りの力も少し手放してきたのかもしれません。論文は、トマトのアルカロイドにはコナジラミ対策として「まだ手つかずの可能性がある」とし、今後の研究に期待を寄せています。ちなみに、同じくトマトの害虫であるアザミウマ(ミカンキイロアザミウマ)では、アルカロイドの生物活性が報告されています。アザミウマの生態や対策は、アザミウマの生態と対策で紹介しています。
アシル糖とは?コナジラミをどうやって防ぐの?
アシル糖とは、ブドウ糖(グルコース)や砂糖(スクロース)などの糖に、脂肪酸の鎖(アシル鎖)がいくつも結びついた成分で、トマトなどナス科植物の腺毛でつくられるベタベタした防御物質です。
論文によると、アシル糖はトマトの害虫抵抗性に関わる成分の中でも、最も重要なものの一つとされています。材料は糖と脂肪酸という単純なものですが、糖の種類、鎖の長さ、枝分かれのしかた、鎖がつく位置の違いによって、非常に多くの種類があります。また、産地の異なる野生種では、アシル糖の量や組成がそれぞれの土や気候に合わせて変わっていると考えられています。
アシル糖の働きは、大きく2つあります。
- 直接の防御:小さな虫の体にまとわりついて動けなくしたり、呼吸できない状態(窒息)にしたりする
- 間接の防御:植物・害虫・天敵の三者の関係に影響を与え、害虫が増えにくくする
論文で紹介されている、アシル糖とコナジラミに関する主な研究は次のとおりです。
| 研究の内容 | 主な結果 |
|---|---|
| 抵抗性系統ABL 14-8と感受性品種の比較 | ABL 14-8はIV型腺毛が多くアシルスクロースも多いため、コナジラミが定着と吸汁を避けた |
| 葉の表と裏の好み | 品種マネーメーカーではコナジラミは葉の裏を好んだが、ABL 14-8では表裏の好みの差がなくなった |
| 野生種由来の系統LA716 | コナジラミの死亡率が高く、口針の差し込みが制限され、ウイルス(トマト重症縮葉ウイルス)の接種効率も下がった |
| 交配でできた後代(F3世代など) | 腺毛とアシル糖が多い株ほど、コナジラミの産卵が少なかった |
| アシル糖の少ない後代と多い後代の比較 | 少ない株では産卵数と若虫の数が多く、多い株では定着が妨げられた |
| 野生種由来の試験系統(畑と温室) | 市販品種よりコナジラミの卵・若虫・成虫が減った。効果は温室でより顕著 |
| アシル糖の性質を導入した畑のトマト | 卵と若虫が大きく減り、トマト黄化葉巻病の発生が51日間抑えられた |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
アシル糖の効き目は、その「中身」によっても変わります。いくつかのトマト系統から取り出したアシル糖を比べた研究では、どのアシル糖でもコナジラミの産卵は減ったものの、効果の強さに次のような差がありました。
| アシル糖の取り出し元 | 特徴 | 産卵を抑える効果 |
|---|---|---|
| CU071026 | 砂糖(スクロース)タイプが中心、i-C5の鎖が多い | 最も弱い |
| LA716、LA1732 | ブドウ糖(グルコース)タイプが中心、i-C4の鎖が多い | 中くらい |
| LA2560、LA1376 | 砂糖タイプとブドウ糖タイプの両方、i-C5の鎖が多い | 最も強い |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文で紹介されているLeckie et al. 2016の結果をもとに作成。i-C4・i-C5は、炭素が4個・5個の枝分かれした脂肪酸の鎖を表す)
さらに、機械学習(ランダムフォレスト)を使って多くのトマトの成分を解析した研究では、コナジラミやアザミウマへの抵抗性は、毛の「数」よりも成分の「中身」とより強く関係していることが示されました。VI型の腺毛の数は害虫の生存率と関係がなかった一方、I型とIV型の腺毛は生存率を下げる方向に関係していました。さらに、「S3:15」「S3:21」という2種類のアシルスクロース(3本の脂肪酸の鎖を持つ砂糖タイプのアシル糖)が、コナジラミの生存率を下げる成分の候補として挙げられています。
同じベタベタでも、糖の種類や鎖の形によって実力が違う。アシル糖を活かした品種づくりでは、量だけでなく、どんな種類のアシル糖をつくるかも大切になりそうです。

コナジラミはトマトの防御にどう対抗しているの?
ここまで読むと、トマトの防御成分さえあればコナジラミに勝てそうに思えるかもしれません。しかし論文は、コナジラミもまた、植物の防御に対抗する手段を持っていることを紹介しています。
1つ目は、植物から取り込んだ「解毒の遺伝子」です。ある研究では、タバココナジラミが「BtPMaT1」という遺伝子を持っていることがわかりました。この遺伝子はもともと植物由来で、親から子へではなく、別の生き物から遺伝子を取り込む「遺伝子の水平伝播」によってコナジラミが手に入れたものと考えられています。
BtPMaT1がつくる酵素は、植物のフェノール系の防御成分(フェノール配糖体)を無毒化する働きを持っています。実験では、ケンフェロールの配糖体やフロリジンなどの成分にさらされたコナジラミの死亡率が上がりましたが、BtPMaT1の働きを抑えると、これらの成分がさらに効くようになりました。植物の武器を無力化する道具を、植物そのものから手に入れていたことになります。
2つ目は、唾液に含まれるタンパク質です。コナジラミは、吸汁のときに「BtE3」というタンパク質を送り込みます。BtE3は、トマトのジャスモン酸を中心とした防御の働きを弱め、トマトをコナジラミにとって都合のよい状態にします。一方で、フラボノイドの多いトマトはBtE3の働きを抑えることが示されており、攻めと守りが入れ替わりながら続いている様子がうかがえます。
| コナジラミの対抗手段 | しくみ | トマト側の対抗 |
|---|---|---|
| 解毒遺伝子BtPMaT1 | 植物由来の遺伝子で、フェノール系の防御成分を無毒化する | この遺伝子の働きを抑えると防御成分がよく効く(研究段階) |
| 唾液のタンパク質BtE3 | トマトのジャスモン酸系の防御を弱める | ケルセチンやルチンがBtE3の働きを抑える |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
論文は、ここから大切な教訓を導いています。殺虫剤に対して次々と抵抗性を身につけてきたコナジラミのことですから、トマトの防御でも、1種類の成分のグループだけに頼れば、いずれ適応されてしまうおそれがある、ということです。持続可能な防除には、何層にも重ね、状況に応じて変えていける対策が必要だとしています。

トマトの防御成分に弱点や課題はあるの?
トマトの防御成分を活かす方法には期待が集まる一方で、論文ではいくつかの課題も指摘されています。
1つ目は、天敵への影響です。コナジラミを食べてくれる天敵にとっても、トマトの防御成分が「効いて」しまうことがあります。
| トマトの特徴 | 影響を受けた天敵 | 報告された影響 |
|---|---|---|
| フラボノイドが多い系統 | ナミヒメハナカメムシ(捕食性のカメムシ) | 餌を与えても、産卵・若虫の生存率・発育が大きく低下。産卵場所としてフラボノイドの少ない系統を選んだ |
| アシル糖が多い系統 | スワルスキーカブリダニ(捕食性のダニ) | 増殖や餌探しが妨げられた |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
虫に強いトマトをつくったら、味方の天敵まで住みにくくなってしまう。天敵の利用と防御成分の利用は、どちらもIPMの柱ですが、組み合わせるときには相性を確かめる必要があるということです。
2つ目は、試験の環境です。コナジラミへの抵抗性に関するデータの多くは、温室や実験室で得られたものです。実際の畑では、気温、湿度、土の肥沃度、トマトの生育段階、そしてコナジラミの種類(隠蔽種)の違いなどによって、効果が変わる可能性があります。実際に、アシル糖を持つ試験系統のコナジラミへの強さは、露地の畑よりも温室のほうが高かったと報告されています。
3つ目は、研究の偏りです。これまでの研究の多くは、1つのグループの成分だけの効果を調べたもので、複数のグループの成分が互いに効果を高め合うのか、打ち消し合うのかについての研究はまだ限られています。また、トマトのアルカロイドについては、コナジラミでの検証自体がほとんど進んでいません。
これからのトマトの品種づくりはどう変わるの?
論文は、今後の方向性として次のような点を挙げています。
| 方向性 | 内容 |
|---|---|
| 野生種の性質を取り戻す | 野生トマトの遺伝子を交配で栽培トマトに導入し、失われた抵抗性を回復させる |
| 成分を指標にした品種選び | 防御成分の組成を測りながら、よりよい系統を選ぶ(メタボライト支援選抜) |
| ゲノム編集の活用 | CRISPRなどで成分の合成経路や調節のスイッチ(GAMEエンハンサーなど)を細かく調整し、実の品質を保ちながら防御を高める |
| 畑での検証 | 温室や実験室だけでなく、さまざまな環境の露地で効果を確かめる |
| 既存の技術との組み合わせ | 生育初期に軽いストレスを与えて腺毛を増やす方法と、マリーゴールドなどとの混植を組み合わせる |
| 成分どうしの組み合わせ | テルペン類とアシル糖、テルペン類とフェノール化合物などを重ねたときの相乗効果を調べる |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに作成)
ここで注目したいのは、「おいしさや収量と、虫への強さの両立」という視点です。これまでの品種改良では、虫を防ぐ成分が実の味や食べやすさと引きかえに減らされてきた面があります。成分を狙いどおりに調整できる技術が進めば、実のおいしさは保ちながら、葉の防御だけを高めるといった品種づくりが現実的になっていくかもしれません。
家庭菜園でできるトマトのコナジラミ対策は?
今回の論文は、主に品種づくりや防除の研究者に向けた内容で、家庭菜園での具体的な方法を検証したものではありません。ここでは、論文で紹介されているIPMの考え方を、家庭菜園に応用する場合のヒントとしてまとめます(論文で検証された方法そのものではなく、考え方の応用です)。
| 対策 | ポイント | 論文との関係 |
|---|---|---|
| 植え付け時にマリーゴールドを混植する | 発生してからではなく、最初から一緒に植える | 栽培のはじめから植えたときに効果があった(オンシツコナジラミの温室試験) |
| シルバーマルチを敷く | 反射光でコナジラミを株に寄せつけにくくする | 銀色のマルチでコナジラミとウイルスの発生が減った例がある |
| 苗の段階からよく観察する | 葉の裏を定期的に見て、早めに見つける | 発生後の応急対策は効きにくいという結果と共通する |
| 収穫後に株や残さを片付ける | 次の作への持ち越しを防ぐ | 収穫後の圃場衛生がIPMの方法として紹介されている |
| 薬剤は系統を変えて使う | 同じ系統の薬ばかり使わない | ほぼすべての系統で抵抗性が報告されている |
| 天敵の住みかを残す | 周りに花や草を適度に残す | 保全的生物的防除の考え方 |
出典:Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects(本文の記載をもとに、家庭菜園向けに再構成)
薬剤を使う場合は、必ずラベルで「適用作物(トマト・ミニトマト)」と「適用病害虫(コナジラミ類)」を確認し、使用回数や収穫前の使用日数を守ることが大切です。たとえば、家庭菜園向けのスプレー剤「ベニカXファインスプレー」は、農林水産省の農薬登録情報でトマトのコナジラミ類に登録があり、原液を散布して、収穫前日まで・3回以内(ミニトマトは1回)という使い方が定められています(2026年9月29日に農林水産省の農薬登録情報提供システムで確認)。
ただし、この製品にはネオニコチノイド系とピレスロイド系の殺虫成分が含まれています。論文によると、コナジラミはこれらの系統にも抵抗性を身につけてきた例があるため、効きが悪いと感じたら同じ系統の薬を繰り返さないことが大切です。薬剤はあくまで対策の一つと考え、マルチや混植、観察と組み合わせて使いましょう。効果の出方は、コナジラミの種類や発生の程度、使い方によって変わります。
また、論文に登場するルチンの種子処理やリモネン、カリオフィレンの散布は、研究として条件をそろえて行われたもので、日本で農薬として登録された使い方ではありません。家庭で同じように試すのは控えてください。
トマト黄化葉巻病が心配な地域では、コナジラミの数を減らすことに加えて、ウイルスに強い(耐病性の)品種を選ぶことも有効な選択肢です。種苗店やカタログで「黄化葉巻病耐病性」などと書かれた品種を探してみるとよいでしょう。

まとめ
- タバココナジラミは1,000種以上の植物に寄生し、トマト黄化葉巻ウイルスなどを運ぶ害虫で、激しく発生するとトマトの収量が最大90%減ることがある
- コナジラミは、ほぼすべての系統の殺虫剤に抵抗性を身につけてきており、殺虫剤だけに頼る対策には限界がある
- 野生のトマトは、葉の腺毛(とくにIV型)でつくる二次代謝産物によってコナジラミを遠ざけたり弱らせたりしている。栽培トマトは品種改良の過程でこの力の多くを失ってきた
- 主な防御成分は、テルペン類(香り)、フェノール化合物(フラボノイドなど)、アルカロイド(トマチンなど)、アシル糖(ベタベタの糖)の4グループ
- マリーゴールドとの混植は、栽培のはじめから植えたときにコナジラミを大きく減らした一方、大発生後に植えてもほとんど効果がなかった(オンシツコナジラミの温室試験)
- アシル糖の性質を導入したトマトでは、畑でもコナジラミの卵と若虫が減り、トマト黄化葉巻病の発生が51日間抑えられた
- コナジラミは植物由来の解毒遺伝子を持つなど、トマトの防御にも適応しつつあるため、1種類の成分だけに頼らない多層的な対策が必要
- 天敵への影響や、温室と畑での効果の違いなど、実用化に向けた課題も残されている
トマトの葉の毛やにおいには、野生の祖先から受け継いだ守りの工夫が詰まっています。家庭菜園では、マリーゴールドの混植、シルバーマルチ、こまめな観察、薬剤の系統を変えた使用など、いくつもの方法を重ねることが、コナジラミ対策の基本になりそうです。
よくある質問(Q&A)
Q1. マリーゴールドを植えればトマトのコナジラミは防げますか?
A. 論文で紹介されている研究では、トマトの栽培のはじめからフレンチ・マリーゴールドを一緒に植えると、コナジラミの数が大きく減ったと報告されています。ただし、大発生してから植えてもほとんど効果はありませんでした。また、この試験は温室でオンシツコナジラミを対象に行われたもので、露地の家庭菜園やタバココナジラミで同じ効果が出るとは限りません。マリーゴールドだけに頼らず、シルバーマルチや観察と組み合わせるのがおすすめです。
Q2. トマトの葉のベタベタは病気ですか?
A. トマトの茎や葉には細かな毛(トライコーム)が生えており、その一部の腺毛は、においのある成分やベタつく成分を出しています。脇芽かきのあとに手が緑色にベタつくのは、こうした分泌物によるものと考えられ、それ自体は病気ではありません。ただし、葉や実の表面がテカテカと光るようにベタつき、黒いすすのような汚れが広がっている場合は、コナジラミやアブラムシの排せつ物(甘露)と、そこに生えたすす病の可能性があります。葉の裏に白い小さな虫がいないか確認してみましょう。
Q3. コナジラミに強いトマトの品種はありますか?
A. 論文によると、野生のトマトやその性質を受け継いだ試験系統には、腺毛やアシル糖が多く、コナジラミに強いものがあります。ただし、その多くは研究段階で、一般に流通している品種ではありません。家庭菜園で手に入る品種の中では、コナジラミが運ぶ「トマト黄化葉巻ウイルス」に強い耐病性品種が販売されています。これはコナジラミそのものを防ぐ品種ではありませんが、ウイルスの被害を減らすのに役立ちます。種苗店やカタログの表示を確認してみてください。
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参考文献
- Maldonado Machado da Cruz, V. H., Rutz da Silva, T., Gimenez Cremonez, P., Biscaia Ribeiro da Silva, A. L., Vergilio Visentainer, J. & Rodrigues, C. (2026). Tomato secondary metabolites as natural regulators of Bemisia tabaci behavior and performance: current applicability and prospects. Frontiers in Plant Science, 16, 1704832. https://doi.org/10.3389/fpls.2025.1704832
- 論文PDF:fpls-16-1704832.pdf(関連する翻訳ファイル:20260929_翻訳_トマトの二次代謝産物によるタバココナジラミ抵抗性.md)
- Conboy, N. J. A., McDaniel, T., Ormerod, A., George, D., Gatehouse, A. M. R., Wharton, E., et al. (2019). Companion planting with French marigolds protects tomato plants from glasshouse whiteflies through the emission of airborne limonene. PLoS One, 14, e0213071. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0213071(上記論文の引用文献)
- IRAC (2024). Mode of action classification. https://irac-online.org/documents/moa-brochure/(上記論文の引用文献)
- 農林水産省 農薬登録情報提供システム「ベニカXファインスプレー(登録番号22506)」https://pesticide.maff.go.jp/agricultural-chemicals/details/22506(2026年9月29日確認)


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