
ウリハムシの腸内細菌は、何を食べて暮らしているかによって、構成も多様さも大きく変わることが研究で報告されています。2026年に発表された論文では、いろいろな野菜を食べるウリハムシと、ヘチマをほぼ専門に食べる近縁のハムシを比べたところ、培養できる細菌はウリハムシのほうが多い一方、DNAで調べた細菌全体の多様さはヘチマ専門のハムシのほうが高いという、逆転した結果が出ました。研究チームは、この違いが将来の「腸内細菌に働きかける害虫対策」のヒントになりうると考えています。
キュウリやカボチャ、メロンを育てていると、必ずといっていいほど出会うのがウリハムシです。葉に丸い穴をあける、オレンジ色の小さな甲虫といえば、思い当たる人も多いでしょう。
この記事では、中国・井岡山大学の研究グループが学術誌Biologyに発表した論文「Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range」をもとに、ウリハムシのお腹の中にすむ細菌の世界と、それが害虫対策にどうつながるのかを、専門用語をかみくだきながら紹介します。
ウリハムシとは?どんな被害を出す害虫なの?
ウリハムシとは、キュウリやカボチャなどウリ科の野菜の葉や花を食べる、体長7mm前後のオレンジ色の甲虫(コウチュウ目ハムシ科)です。学名はAulacophora indica(アウラコフォラ・インディカ)で、日本では本州から沖縄まで広く見られます。
家庭菜園でウリハムシが問題になる主な理由は、次のとおりです。
- 成虫が葉を円く囲むようにかじり、円形の穴や食べ跡を残す
- 植え付けたばかりの小さな苗が集中的に食べられると、生育が大きく遅れたり、枯れてしまったりすることがある
- 花や若い果実の表面を食べることもある
- 幼虫は土の中で根を食べるとされ、株の元気がなくなる原因になる
葉の食べ跡の特徴や、発生しやすい時期、基本的な対策については、ウリハムシの生態と発生する原因、対策を紹介した記事で詳しくまとめています。メロン栽培での被害については、メロンの大敵としてウリハムシを取り上げた記事もあわせて参考にしてください。
今回の論文は、このウリハムシを「お腹の中の細菌」という、これまであまり注目されてこなかった角度から調べたものです。
論文によると、ウリ類を加害するハムシの防除は、今も化学農薬が中心です。しかし、農薬には環境や健康へのリスクに加えて、使い続けるうちに害虫に効きにくくなる「薬剤抵抗性」の問題があります。そこで研究チームは、害虫の体の中の微生物に目を向け、新しい防除の手がかりを探そうとしました。
今回の研究で比べた2種のハムシは何が違うの?
今回の研究で比べられたのは、同じウリハムシ属(アウラコフォラ属)に属する、2種のハムシです。いちばん大きな違いは「食べる植物の幅」です。
1種目は、先ほど紹介したウリハムシ(Aulacophora indica)です。キュウリやカボチャなどのウリ類だけでなく、アブラナ科、ナス科、マメ科の野菜など、さまざまな植物を食べることが報告されています。このように、多くの科の植物を食べる性質を「多食性(たしょくせい)」と呼びます。
2種目は、アウラコフォラ・レウィシイ(Aulacophora lewisii)です。日本で定着した和名は確認できなかったため、この記事では「ヘチマ専門のハムシ」と呼びます。論文によると、このハムシは主にヘチマを食べます。このように、ごく限られた植物だけを食べる性質を「狭食性(きょうしょくせい)」と呼びます。
2種の違いを表にまとめると、次のようになります。
| 項目 | ウリハムシ(A. indica) | ヘチマ専門のハムシ(A. lewisii) |
|---|---|---|
| 分類 | コウチュウ目ハムシ科ウリハムシ属 | コウチュウ目ハムシ科ウリハムシ属 |
| 食性のタイプ | 多食性(いろいろな科の植物を食べる) | 狭食性(限られた植物だけを食べる) |
| 主なエサ | キュウリ・カボチャなどのウリ類のほか、アブラナ科・ナス科・マメ科の野菜 | 主にヘチマ |
| 共通点 | どちらも主にウリ科植物を加害し、ウリ類の野菜を好む | 同左 |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(本文の記述をもとに作成)
近い親戚どうしでありながら、食生活がこれほど違う。この組み合わせは、「食べる植物の幅が、お腹の細菌にどう影響するのか」を調べるための、自然がつくった理想的な比較実験のようなものだと論文では述べられています。
これまでの研究は、2種の食べ方や防除の方法が中心で、腸内細菌の構成や役割については、体系的な理解が不足していました。そこで研究チームは「食べる植物の幅が違うので、2種の腸内細菌は、群集の構造・多様さ・中心となる代謝の働きに、体系的な違いがあるはずだ」という仮説を立てて調べました。

昆虫の腸内細菌はどんな働きをしているの?
腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)とは、動物の腸の中にすみついている、さまざまな細菌の集まりのことです。人では「腸内フローラ」という呼び方でもよく知られています。実は、昆虫の腸の中にも、同じように細菌の集まりがすんでいます。
論文の序論では、昆虫の腸内細菌について、これまでの研究から次のような働きが知られていると紹介されています。
- 植物に含まれる、分解しにくい複雑な炭水化物の分解を助ける
- 昆虫が自分では作れない必須栄養素を合成する
- 成長・発育・繁殖に直接影響を与えることがある
- 昆虫が特定の植物をエサとして利用できるよう、植物への適応を調節する
- 抗菌物質を作り、宿主である昆虫を病原体や天敵から守ることがある
つまり、昆虫にとって腸内細菌は、食べ物とうまく付き合うための「相棒」のような存在です。昆虫は細菌に安定したすみかと栄養を提供し、細菌はその見返りとして、消化や栄養づくり、防御などで昆虫を助けています。
一方で、腸内細菌がいつも味方とは限りません。論文では、特定の条件のもとでは、腸内細菌が「日和見病原体(ふだんは無害だが、条件がそろうと宿主に病気を起こす微生物)」として振る舞うこともあると指摘されています。
甲虫(コウチュウ目)は昆虫の中で最も種類の多いグループで、その腸内細菌についても多くの研究があります。論文で紹介されている例を表にまとめます。
| 甲虫の例 | 食べ物 | 腸内細菌の役割として報告されていること |
|---|---|---|
| モンシデムシの一種(Nicrophorus vespilloides) | 動物の死体 | エサの腐敗を抑え、食料を保存するのに使われる |
| ツヤハダゴマダラカミキリ(Anoplophora glabripennis) | 木材 | 木の硬い成分(リグノセルロース)の分解を助ける |
| マツ類の苗木を加害するゾウムシの一種(Hylobius abietis) | 針葉樹 | 樹脂に含まれる防御物質(ジテルペン)の解毒に関わる細菌をもつ |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(序論・考察で引用されている先行研究の記述をもとに作成)
このように、腸内細菌は甲虫が食べ物を利用するうえでの重要な「接点」になっています。ただし、近縁でありながら食べる植物の幅が違う甲虫どうしで、腸内細菌の構造と働きを体系的に比べた研究は少なかった、と論文は指摘しています。今回の研究は、その空白を埋めようとするものです。
植物の側にも、微生物と手を組んで暮らす仕組みがあります。植物の体の中にすむ微生物については、エンドファイトと持続可能な農業を解説した記事で紹介しています。

研究チームはどうやって腸内細菌を調べたの?
研究チームは、2024年9月に中国江西省吉安市の畑(標高57m)で、2種のハムシを採集しました。調べ方は大きく分けて2つあり、それぞれに得意なことと苦手なことがあります。
| 調べ方 | どんな方法か | 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|---|---|
| 培養法 | 腸の中身を栄養の入った寒天培地に広げ、生えてきた細菌を1種類ずつ育てて種類を調べる | 生きた細菌を実際に取り出して保存でき、後の研究に使える | 実験室の条件で育ちにくい細菌は見つけられない |
| DNA解析(16S rRNA全長シーケンシング) | 腸の中にある細菌のDNAをまとめて読み取り、どんな細菌がどんな割合でいるかを調べる | 培養できない細菌も含めて、群集全体を見渡せる | 細菌そのものは取り出せず、働きはDNAからの予測にとどまる |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(材料と方法の記述をもとに作成)
16S rRNA遺伝子とは、ほぼすべての細菌が持っている遺伝子で、細菌の種類ごとに配列が少しずつ異なるため、「細菌の名札」のように使われる遺伝子です。今回の研究では、この遺伝子の全長を、精度の高い長い配列を読める装置(PacBio Revio)で解読しています。読み取った配列データは、米国国立生物工学情報センター(NCBI)のデータベースに登録されています(BioProject PRJNA1365039)。
実験の具体的な手順は、次のとおりです。
- 採集したハムシを75%エタノールに5分間浸して体の表面を殺菌し、滅菌水で3回すすぐ
- 腸管全体を無菌的に取り出す
- 培養法では、すりつぶした腸の中身を10倍〜1万倍に薄めてLB培地(一般的な細菌培養用の培地)に広げ、37℃で12時間培養する
- 見た目の違うコロニー(細菌の集落)を選んで純粋に育て、16S rRNA遺伝子の配列から種類を特定する
- DNA解析では、各種16匹(オス8匹・メス8匹)の腸を1匹ずつ個別に調べる
細菌の種類を決める基準として、データベースの配列との一致率が97%以上なら「属」まで、99%以上なら「種」まで判定するという、この分野で一般的な基準が使われました。
また、実験中に外から細菌やDNAが紛れ込んでいないかを確かめるため、滅菌した液だけを同じように処理する「陰性対照」や、DNA抽出の試薬だけを処理する「抽出ブランク」も用意されています。
論文では、培養法の条件(LB培地・37℃・12時間)について、増殖の速い細菌が有利になりやすく、培養できた細菌がお腹の細菌全体を完全には表していない可能性があると、あらかじめ注意書きをしています。この点は、後で出てくる「結果の逆転」を理解するうえで大切なポイントになります。

培養法ではどんな結果が出たの?
まず、培養法の結果です。2種のハムシの腸から、合わせて131株の細菌が分離されました。配列を調べたところ、互いに異なる細菌は40種類で、4つの門・10の科・19の属に分類されました。
2種を比べると、培養できた細菌は、なんでも食べるウリハムシのほうがはっきりと多いという結果でした。
| 項目 | ウリハムシ | ヘチマ専門のハムシ |
|---|---|---|
| 培養できた細菌の種類 | 32種 | 16種 |
| 両種に共通する細菌 | 8種 | 8種 |
| 1匹あたりの細菌数(CFU) | 約1.05×10⁶(約105万) | 約8.6×10⁵(約86万) |
| 主な細菌のグループ(門) | プロテオバクテリア門、放線菌門 | プロテオバクテリア門、フィルミクテス門 |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(結果3.1の記述をもとに作成)
CFU(コロニー形成単位)とは、培地の上で1個の生きた細菌が増えてできたコロニーの数のことで、生きている細菌の数の目安になります。1匹あたりの細菌数は、統計的に意味のある差でウリハムシのほうが多くなっていました(マン・ホイットニーのU検定、p = 0.03)。
門のレベルでは、プロテオバクテリア門とフィルミクテス門が両種に共通して多く見られました。一方で、放線菌門(アクチノバクテリア門)の細菌が目立ったのはウリハムシだけで、バクテロイデス門の細菌もウリハムシからしか見つかりませんでした。
さらに細かく見ると、プロテオバクテリア門の中でも、ウリハムシでは腸内細菌科、シュードモナス科、アウランティモナス科など、いろいろな科の細菌が見つかりました。これに対してヘチマ専門のハムシでは、腸内細菌科だけでした。
属ごとの分離数は、次の表のとおりです。
| 細菌の属 | ウリハムシ | ヘチマ専門のハムシ |
|---|---|---|
| エンテロバクター属 | 27 | 30 |
| マンマリイコッカス属 | 1 | 18 |
| パントエア属 | 8 | 2 |
| クレブシエラ属 | 5 | 0 |
| シッキバクター属 | 0 | 5 |
| セラチア属 | 3 | 4 |
| スタフィロコッカス属 | 0 | 3 |
| クルトバクテリウム属 | 3 | 0 |
| ミクロバクテリウム属 | 3 | 1 |
| エンテロコッカス属 | 2 | 2 |
| ラクトコッカス属 | 2 | 2 |
| シュードモナス属 | 2 | 0 |
| スフィンゴモナス属 | 2 | 0 |
| その他(アウレイモナス属、ブラキバクテリウム属、ロイコバクター属、プリエスティア属、ロッセロモレア属、リシニバチルス属) | 各1または0(合計5) | 各1または0(合計1) |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(Table 1をもとに日本語で再構成)
全体で最も多く分離されたのはエンテロバクター属で、57株(全体の43.51%)でした。エンテロバクター属は、多くの昆虫の腸でよく見つかる、腸内細菌科の代表的な細菌です。2種どちらでもほぼ同じくらい分離されており、2種に共通する「主役」の細菌だといえます。
一方で、違いが際立っていたのがマンマリイコッカス属です。ウリハムシからは1株しか分離されなかったのに対し、ヘチマ専門のハムシからは18株も分離されました。反対に、パントエア属やクレブシエラ属はウリハムシで多く見られました。
このように、門という大きなくくりでは似ていても、種のレベルまで見ると、2種の腸内細菌の顔ぶれにははっきりとした違いがありました。ここまでの結果だけを見ると、「いろいろな植物を食べる虫は、お腹の細菌もいろいろ」と、直感どおりの結論になりそうです。
DNA解析ではどんな結果が出たの?
次に、DNA解析の結果です。こちらは、培養できない細菌も含めて、お腹の中の細菌をまるごと見渡した結果です。すべてのサンプルで、読み取る配列を増やしても新しい細菌がほとんど見つからない状態(レアファクション曲線の頭打ち)に達しており、データ量は十分だったと報告されています。
結果は、培養法とは正反対でした。お腹の細菌の種類が多く、多様だったのは、ヘチマ専門のハムシのほうだったのです。
| 指標 | 何を表すか | ウリハムシ | ヘチマ専門のハムシ |
|---|---|---|---|
| Sobs | 実際に見つかった細菌の種類の数 | 51.00 ± 5.87 | 76.44 ± 8.79 |
| ACE | 見逃しも含めて推定した細菌の種類の数 | 58.76 ± 9.03 | 84.00 ± 9.44 |
| Chao | 見逃しも含めて推定した細菌の種類の数(別の計算方法) | 57.66 ± 7.99 | 82.89 ± 9.62 |
| Shannon | 多様さ(種類の多さと均等さ。大きいほど多様) | 2.35 ± 0.19 | 3.41 ± 0.17 |
| Simpson | 偏りの大きさ(この論文の用法では小さいほど多様) | 0.25 ± 0.05 | 0.07 ± 0.01 |
| Coverage | 検出の網羅率 | 0.99 | 0.99 |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(Table 2をもとに日本語で再構成)
Coverage以外のすべての指標で、2種の間に統計的に意味のある差がありました。ヘチマ専門のハムシは、細菌の種類が約1.5倍多いだけでなく、特定の細菌ばかりに偏らず、いろいろな細菌がバランスよくすんでいる、より複雑な群集をもっていたことになります。
さらに、細菌の顔ぶれ全体をサンプルどうしで比べる解析(主座標分析〈PCoA〉と非計量多次元尺度法〈NMDS〉)でも、2種のサンプルははっきりと2つのまとまりに分かれました。統計的な検定(ANOSIM)でも、種の間の違いは種の中のばらつきより有意に大きいことが確かめられています。つまり、2種は細菌の「数」だけでなく、「組み合わせ」そのものが違っていたのです。

なぜ調べ方によって結果が逆になったの?
同じお腹を調べているのに、培養法ではウリハムシ、DNA解析ではヘチマ専門のハムシのほうが多様。この一見矛盾する結果について、論文は「2つの方法が互いを補い合う関係にあることを示すとともに、2種の生態的な適応戦略が異なることを示している」と考察しています。ここからは著者たちの解釈であり、実験で直接確かめられた段階ではない点に注意してください。
ヘチマ専門のハムシ:安定した食事が「多様なすみか」をつくる
ヘチマ専門のハムシは、毎日ほぼ同じヘチマを食べています。論文では、この安定した食生活が腸の中に比較的一定した環境をつくり、より多くの種類の細菌がすみつけるようになっている可能性があると考えています。
その中には、実験室では育てにくい細菌や、特別な栄養がないと増えない細菌、宿主との共生に特化した細菌が多く含まれている可能性があります。こうした細菌は一般的なLB培地ではうまく育たないため、DNA解析では多様に見えても、培養法ではあまり見つからなかった、という説明です。論文は、このような多様な群集が、腸内の生態系に高い回復力と機能の安定性をもたらしているのかもしれないと述べています。
ウリハムシ:変わりやすい食事が「器用な細菌」をふるい分ける
一方のウリハムシは、複数の科の植物を食べます。食べ物が変わると、腸内細菌の構成も急速に変わりうることが知られています。
論文では、こうした変わりやすい腸の環境が「生態的なふるい」として働き、さまざまな植物由来の成分にすぐ対応できる、増殖の速い「日和見的」「万能型」の細菌を選び出しているのではないかと考えています。そして、この手の細菌は実験室の一般的な培地でも育ちやすいため、培養法ではウリハムシのほうが多くの細菌が見つかった、というわけです。
細菌の「出入り」のデータも、この説明と合っている
研究チームは、お腹の細菌を、サンプルの中で見つかる頻度によって3つのタイプに分けて比べました。
| 細菌のタイプ | 意味 | ウリハムシ(相対存在量) | ヘチマ専門のハムシ(相対存在量) |
|---|---|---|---|
| 一時的なタイプ | まれにしか検出されない | 29.28% | 18.78% |
| 中間的なタイプ | ほどほどの頻度で検出される | 64.00% | 72.88% |
| 持続的なタイプ | いつも存在する「常連」 | 6.71% | 8.34% |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(結果3.3の記述をもとに作成)
ウリハムシのお腹では、入れ替わりの激しい一時的な細菌の割合が高く、ヘチマ専門のハムシでは中間的・持続的な細菌の割合がやや高くなっていました。なお、細菌の種類の数でみると、どちらの種でも一時的なタイプが最も多く(ウリハムシ58.59%、ヘチマ専門のハムシ51.76%)、いつもいる常連の細菌は、どちらもわずか1.2〜1.3%程度でした。
「食べ物が変わりやすいと、お腹の細菌の顔ぶれも落ち着かない」という考え方と、よく合うデータだといえます。
ほかの昆虫と比べると
論文では、ほかの昆虫の例とも比較しています。たとえば、クワの葉だけを食べるカイコ(単食性)は、フィルミクテス門とプロテオバクテリア門が優占する、単純だが安定した腸内細菌叢をもち、それが消化や発育に欠かせないことが知られています。食べ物が一定で、安定した細菌の仲間に頼るという点では、ヘチマ専門のハムシと共通する部分があります。
一方で、木材を食べるカミキリムシや、死体を利用するシデムシのように、特殊な食生活をもつ甲虫では、その食生活に合わせた独特の働きをもつ細菌が見つかっています。今回の研究は、同じ属の近縁種どうしでも、食べる植物の幅によって腸内細菌の構成が根本的に変わりうることを示した、と論文は位置づけています。
どんな種類の細菌がそれぞれに多かったの?
DNA解析で、属のレベルまで細菌の構成を比べた結果を見てみましょう。
両種に共通して多かったのは、エンテロバクター属とデスルフォトマクルム属でした。エンテロバクター属の割合は2種でほぼ同じで、培養法で最も多く分離された属とも一致しています。2つの方法で同じ結果が出たことで、エンテロバクター属を含む腸内細菌科が、2種の腸で中心的な地位を占めていることがはっきりしました。
一方で、2種で割合が大きく違う細菌もありました。
| 細菌の属 | 多かった種 | 備考 |
|---|---|---|
| デスルフォトマクルム属 | ヘチマ専門のハムシ | 両種で優占するが、ウリハムシでは明らかに少ない |
| エリスロバクター属 | ウリハムシ | 群集の棒グラフで目立って多い |
| アロマトレウム属 | ウリハムシ | 群集の棒グラフで目立って多い |
| シュードモナス属 | ヘチマ専門のハムシ | 統計的に有意(補正後p < 0.001) |
| ラクトコッカス属 | ヘチマ専門のハムシ | 統計的に有意(補正後p < 0.001) |
| セラチア属 | ヘチマ専門のハムシ | 統計的に有意(補正後p < 0.001) |
| ステノトロホモナス属 | ヘチマ専門のハムシ | 統計的に有意(補正後p < 0.001) |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(結果3.3の記述をもとに作成)
さらに、グループごとに特徴的な細菌を探し出す解析(LEfSe)では、次のような結果が報告されています。
- ウリハムシで特徴的だった細菌:主にプロテオバクテリア門に属するグループで、バークホルデリア目、シュードモナス目、シュードモナス科、シュードモナス属などが含まれる
- ヘチマ専門のハムシで特徴的だった細菌:乳酸菌の仲間(乳酸菌目、フィルミクテス門)や、バクテロイデス門・放線菌門の特定のグループ
なお、シュードモナス属については、属ごとの差を調べた検定ではヘチマ専門のハムシで多かったと書かれている一方、LEfSeの結果ではウリハムシに特徴的な細菌として挙げられており、論文の中で記述が食い違っています。解析の方法や分類の階層の違いによるものかもしれませんが、論文からは判断できないため、この記事ではどちらの記述もそのまま紹介するにとどめます。
乳酸菌というと、人の健康の話題でよく耳にしますが、ここで扱っているのはあくまでハムシの腸内にすむ細菌の話です。人の腸内細菌や健康にそのまま当てはまるものではない点に注意してください。
腸内細菌の「働き」にも違いはあるの?
研究チームは、DNAの情報から、お腹の細菌たちがどのような働きを持っていそうかも予測しました。使われたのは、PICRUSt2(ピクラストツー)というソフトウェアです。これは、見つかった細菌の16S rRNA配列を、すでにゲノム(全遺伝情報)がわかっている細菌と照らし合わせて、その細菌群がどんな遺伝子を持っていそうかを推定するものです。推定された遺伝子は、代謝の経路をまとめたデータベースKEGG(京都遺伝子ゲノム百科事典)の分類に当てはめて整理されました。
その結果、2種の腸内細菌はいずれも、次のような多様な代謝の働きを持っていると予測されました。
- 炭水化物の代謝(糖などの分解・利用)
- アミノ酸の代謝
- エネルギーの代謝
- 補因子とビタミンの代謝
- 脂質の代謝
- ヌクレオチドの代謝
- 糖鎖(グリカン)の代謝
そして、これらの中心的な代謝経路の多くで、関連する遺伝子の量がヘチマ専門のハムシよりウリハムシのほうが高い傾向が見られました。
論文では、この結果について、次のように考察しています。
- ウリハムシでは腸内細菌科の割合がやや高く、腸内細菌科の細菌は、栄養豊富で変化に富んだ植物のエサにより適応している可能性がある
- プロテオバクテリア門やフィルミクテス門の一部の細菌は、ほかの昆虫で成長や栄養の獲得を助けることが知られており、今回見つかった主な細菌も、ハムシが寄主植物を利用するのを助けているのかもしれない
- ウリハムシで多いシュードモナス属などは、植物が身を守るために作るさまざまな成分(二次代謝産物)の分解に関わっている可能性がある
- ヘチマ専門のハムシで乳酸菌の仲間が多いことは、唯一のエサであるヘチマへの高度な適応と関係しているかもしれない
植物は、虫に食べられないように、苦味成分や毒となる成分など、さまざまな防御物質を作っています。その仕組みは植物の抵抗性とは何かを解説した記事で詳しく紹介しています。いろいろな植物を食べるウリハムシは、それぞれの植物の防御物質に対応しなければならないため、腸内細菌がその手助けをしている可能性がある、というのが論文の見立てです。
ただし、ここで紹介した働きは、すべてDNA配列からの「予測」です。論文自身も、PICRUSt2の予測は参照ゲノムにもとづく推定であり、機能を直接測定したものではないと明記しています。実際にその細菌がその働きをしているかどうかは、今後の実験で確かめる必要があります。
腸内細菌の研究は害虫対策にどうつながるの?
「虫のお腹の細菌がわかって、何の役に立つのか」と感じた人もいるかもしれません。論文の著者たちは、この研究を、将来の新しい害虫防除法の土台にしたいと考えています。
近年、昆虫の腸内細菌を操作して害虫の数を抑えるという考え方が注目されています。論文では、ほかの昆虫で知られている例として、次のようなものが紹介されています。
- カスミカメムシの一種(Apolygus lucorum)の体内にセラチア・マルセッセンスという細菌を注入すると、強い病原性を示す
- キイロショウジョウバエでは、アセトバクター属の細菌やラクチプランティバチルス・プランタルムという乳酸菌が、ホルモンの情報伝達を通じて、ハエの産卵や発育を抑えることがある
腸内細菌が、害虫の数を調節する「体の中のスイッチ」になりうるということです。細菌を使った害虫対策については、アブラムシを殺す細菌を紹介した記事でも、別の角度から詳しく取り上げています。
今回の2種の違いをふまえて、論文では次のような戦略のアイデアが示されています。
| 対象 | 腸内細菌の特徴 | 考えられる戦略(論文の提案) |
|---|---|---|
| ウリハムシ(多食性) | 培養しやすく、代謝の用途が広い細菌が主役 | 主役の細菌を、特定の抗菌物質や改変した微生物で狙い撃ちし、腸内のバランスを崩す |
| ヘチマ専門のハムシ(狭食性) | より多様で安定した細菌の群集 | 腸内の条件を変えたり、人工的に組み合わせた微生物を導入したりして、安定性そのものを崩す |
出典:Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range(考察の記述をもとに作成)
著者たちは、こうした微生物叢を利用した戦略を、既存の総合的病害虫管理(IPM:農薬だけに頼らず、さまざまな方法を組み合わせて害虫を管理する考え方)と組み合わせることで、化学農薬への依存を減らす持続可能な道が開けると述べています。また、今回培養して保存した細菌株は、新しい微生物農薬の開発や、相乗効果のある細菌株を選ぶための「微生物資源」になると位置づけています。
もちろん、これらはまだアイデアの段階です。どの細菌がハムシの生存や繁殖にどのくらい影響するのかという因果関係を確かめるには、細菌を実際にハムシに与える「接種実験」が欠かせないと、論文自身も強調しています。化学農薬に代わる天然由来の防除資材の研究については、海洋微生物由来の天然農薬を解説した記事も参考になります。

家庭菜園でできるウリハムシ対策は?
今回の研究は基礎研究であり、腸内細菌を使ったウリハムシ対策が、すぐに家庭菜園で使えるようになるわけではありません。ここでは論文の内容から少し離れ、現在一般に行われているウリハムシ対策を整理しておきます。
| 対策 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 防虫ネットで覆う | 植え付け直後から苗をネットやトンネルで覆い、成虫を近づけない | 被害を受けやすい苗の時期に特に有効とされる。受粉が必要な時期は、ネットを外すか人工授粉を検討する |
| 苗のまわりを囲う | 肥料袋や筒状の資材で苗を囲む「行灯(あんどん)」をつくる | 小さな苗が集中的に食べられるのを防ぐ昔ながらの方法 |
| シルバーマルチを使う | 光を反射する銀色のマルチを畝に敷く | ウリハムシは反射光を嫌うといわれ、飛来を減らす目的で使われる |
| 見つけたら捕まえる | 朝の涼しい時間帯など、動きが鈍いうちに捕殺する | 近づくとすぐ飛んで逃げるため、動きが鈍い時間帯がねらい目 |
| 畑のまわりを整える | 周辺の雑草や、前年の残さを片づける | 成虫は冬を越して翌春に出てくるため、越冬場所を減らす |
| 農薬を使う場合 | 登録のある薬剤を、ラベルに従って使う | 必ず適用作物・使用方法を確認する |
※上の表は、今回の論文ではなく、一般的に紹介されている方法をまとめたものです。効果は栽培環境によって異なります。
今回の研究をふまえると、ウリハムシが「いろいろな野菜を食べられる」という性質は、腸内細菌の助けとも関係している可能性があります。キュウリやカボチャだけでなく、周辺の野菜でもウリハムシを見かけることがあるのは、こうした多食性のあらわれといえるでしょう。畑全体を見回して、ウリ類以外の野菜にも目を配ることが、早期発見につながります。
土の中の微生物と植物の関係に興味がある方は、菌根菌の効果と増やし方を紹介した記事もあわせて読んでみてください。虫のお腹の中と同じように、畑の土の中でも、目に見えない微生物が植物の暮らしを支えています。

この研究から言えること・言えないことは?
論文の内容を正しく受け止めるために、この研究から言えることと、まだ言えないことを整理します。
言えること:
- 近縁の2種のハムシで、腸内細菌の構成・多様さ・予測される働きに、統計的に意味のある違いがあった
- 培養法ではウリハムシ、DNA解析ではヘチマ専門のハムシのほうが多様という、調べ方によって逆転する結果が得られた
- 2種のどちらでも、エンテロバクター属を含む腸内細菌科が中心的な細菌だった
- 培養法とDNA解析は、互いに補い合う関係にある
まだ言えないこと:
- 腸内細菌の違いが、食べる植物の幅の「原因」なのか「結果」なのか
- 予測された代謝の働きを、細菌が実際に果たしているかどうか
- 腸内細菌を使った方法で、実際にウリハムシを防除できるかどうか
論文では、研究の限界として次の点も挙げられています。
- 調べたのは成虫だけで、幼虫など、ほかの発育段階の腸内細菌は調べていない
- 16S rRNAの解析は、細菌の働きを直接確かめるものではない
- ハムシはすべて野外で採集しており、採集前にどの植物を食べていたかは記録していない。そのため、違いが種としての長期的な食性によるものなのか、直前に食べたものの影響も含むのかは、はっきりしない
- 無菌的な操作をしていても、環境や試薬からの汚染の可能性を完全には否定できない
著者たちは今後、エサを管理した実験室での飼育実験や、群集全体の遺伝子や代謝物を網羅的に調べる手法(メタゲノミクス・メタボロミクス)、特定の細菌をハムシに戻す再導入試験などによって、腸内細菌の役割を実験的に確かめていく必要があるとしています。
1回の研究で何もかもがわかるわけではありません。それでも、身近な害虫のお腹の中に、食生活によって姿を変える細菌の世界があることを示した点で、興味深い一歩といえるでしょう。
まとめ
- ウリハムシ(多食性)と、ヘチマを主に食べる近縁のハムシ(狭食性)の腸内細菌を、培養法とDNA解析の2つの方法で比べた研究
- 培養法では、ウリハムシのほうが培養できた細菌の種類(32種と16種)も数も多かった
- DNA解析では逆に、ヘチマ専門のハムシのほうが細菌の種類が約1.5倍多く、多様さの指標も高かった
- 著者たちは、安定した食生活は多様な細菌がすみつける環境をつくり、変わりやすい食生活は培養しやすい「器用な細菌」を残しやすいと考えている
- 2種ともエンテロバクター属を含む腸内細菌科が中心で、代謝に関わる遺伝子はウリハムシの腸内細菌で多い傾向が予測された
- 腸内細菌の違いは、将来の「腸内細菌に働きかける害虫対策」のヒントになる可能性があるが、実用化には接種実験などによる検証が必要
ウリハムシは、家庭菜園ではただの厄介者として見られがちです。しかし、そのお腹の中には、食生活に合わせて姿を変える細菌の世界が広がっていました。今すぐできる対策は防虫ネットや早期発見といった基本的な方法ですが、研究が進めば、いつか「腸内細菌」という新しい角度からの対策が加わるかもしれません。
よくある質問(Q&A)
Q1. ウリハムシの腸内細菌を調べると、何がわかるのですか?
ウリハムシがどのようにしていろいろな植物を食べられるのか、その仕組みの一端がわかる可能性があります。昆虫の腸内細菌は、植物の成分の分解や栄養づくりを助けることが知られており、今回の研究では、ウリハムシの腸内細菌で炭水化物やアミノ酸の代謝に関わる遺伝子が多い傾向が予測されました。こうした知見は、将来、腸内細菌を標的にした害虫防除法を開発するための基礎になると考えられています。
Q2. なぜ培養法とDNA解析で、多様さの結果が逆になったのですか?
培養法では、実験室の培地で育ちやすい細菌しか見つけられないためです。論文では、いろいろな植物を食べるウリハムシのお腹には培養しやすい「器用な細菌」が多く、ヘチマだけを食べるハムシのお腹には、培養しにくい細菌も含めて多様な細菌がすんでいる可能性があると考察されています。2つの方法は、どちらかが正しいのではなく、互いに補い合う関係にあります。
Q3. 腸内細菌を使ったウリハムシ対策は、もう家庭菜園で使えますか?
いいえ、まだ研究の段階です。今回の研究は、2種のハムシの腸内細菌の違いを明らかにした基礎研究であり、どの細菌がハムシの生存や繁殖に影響するかを確かめる実験はこれからです。現時点では、防虫ネットで苗を守る、シルバーマルチを敷く、見つけたら捕まえるといった、一般的な方法で対策するのが現実的です。
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参考文献
- Li, H., Liu, L., Lin, G., Zhao, F., Sun, R., He, B. & Huang, Z. (2026). Comparative Analysis of Gut Microbiota in Two Cucurbit Leaf Beetles Reveals Divergent Adaptation Strategies Linked to Host Plant Range. Biology, 15(4), 314. https://doi.org/10.3390/biology15040314
- 論文PDF:論文PDF/biology-15-00314.pdf
- 関連ファイル:20260927_翻訳_ウリハムシ2種の腸内細菌叢比較.md
- 配列データ:NCBI BioProject PRJNA1365039(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/bioproject/PRJNA1365039)


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