
ファイトプラズマとは、植物の篩部(しぶ:養分の通り道)にだけ住み、ヨコバイなどの虫に運ばれる、細胞壁をもたない小さな細菌です。2025年に発表された総説では、このファイトプラズマが、ウイルスやほかの細菌、さらにはカビと一緒に1本の植物へ同時に感染する「複合感染」が、世界各地で報告されていることが整理されました。複合感染では症状が重なり合うため、見た目だけで原因を突き止めるのが難しく、ひとつの病原体だけを狙った対策では不十分になるおそれがあると指摘されています。
この記事では、中国熱帯農業科学院ココナッツ研究所とアメリカ農務省(USDA)の研究者による総説「Beyond Single-Pathogen Models(単一病原体モデルを超えて)」(学術誌Plants、2025年)の内容をもとに、ファイトプラズマの基本から、複合感染の実例、家庭菜園でできる対策までを順番に解説します。
ファイトプラズマとは?どんな病気を起こすの?
ファイトプラズマとは、細胞壁をもたず、植物の篩部組織の中でだけ生きる細菌のグループです。分類上は、マイコプラズマなどと同じ「モリキューテス綱」という仲間に入ります。
日本で発見された「変わり者」の細菌
ファイトプラズマは、1967年に東京大学の土居らの研究グループによって、世界に先がけて発見されました。当初は、動物の病原体であるマイコプラズマに似ていることから「マイコプラズマ様微生物(MLO)」と呼ばれていました。その後、1994年に「ファイトプラズマ」という名称が正式に採用され、現在は「カンジダトゥス・ファイトプラズマ(’Candidatus Phytoplasma’)」という暫定的な属名のもとで分類されています。
発見から現在までの研究の歩みは、東京大学の特集記事「怠け者細菌」ファイトプラズマの謎を解くでも紹介されています。
論文によると、ファイトプラズマが影響を与える植物は1000種近くにのぼり、世界各地で大きな経済的損失を生んでいます。
ほかの細菌とどこが違うの?
ファイトプラズマには、一般的な病原細菌とは異なる、いくつもの特徴があります。
| 特徴 | 内容 | 何が困るのか |
|---|---|---|
| 細胞壁がない | 硬い殻をもたず、形が一定しない | 顕微鏡で見分けにくい |
| 篩部だけに住む | 植物の養分の通り道の中でしか生きられない | 植物の栄養の流れが直接乱される |
| 培養できない | 試験管やシャーレで増やすことができない | 実験や性質の解明が非常に難しい |
| 虫に運ばれる | ヨコバイやウンカなど、篩部の汁を吸う虫が媒介する | 虫の移動とともに病気が広がる |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(本文の記述をもとに作成)
植物の中で養分や水がどのように運ばれているのかは、維管束のしくみを解説した記事で詳しく紹介しています。ファイトプラズマは、この維管束のうち、葉で作られた糖などを運ぶ篩管の中に住みつくのが特徴です。
ファイトプラズマに感染するとどうなるの?
植物に入り込んだファイトプラズマは、「エフェクタータンパク質」と呼ばれる物質を分泌します。エフェクターとは、病原体が宿主の働きを自分に都合よく操作するために出すタンパク質のことです。論文では、ファイトプラズマのエフェクターが次のような機能をかく乱すると説明されています。
- 植物ホルモンによる情報伝達
- 成長点など、細胞分裂が盛んな部分(分裂組織)の発達
- 光合成を担う葉緑体の健全性
その結果、ファイトプラズマに感染した植物には、次のような独特の症状が現れます。
| 症状の名前 | どんな状態か |
|---|---|
| 天狗巣(てんぐす)症状 | 細い枝や芽が異常にたくさん出て、ほうきや鳥の巣のように密生する |
| 葉化(ようか) | 花びらやおしべなど、花の器官が葉のような形に変わる |
| 緑化(りょくか) | 本来色づくはずの花びらが緑色になる |
| 黄化・萎縮 | 葉が黄色くなり、株全体の生育が悪くなる |
| 光合成能力の低下 | 葉緑体が傷み、植物が作れる養分が減る |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(本文の記述をもとに作成)
花の器官が葉のようになるという症状は、植物の体づくりを決める仕組みそのものが乱されていることを示しています。植物ホルモンが成長や開花をどうコントロールしているのかは、植物ホルモンの働きをまとめた記事が参考になります。また、花びらのように見える器官が実は別の器官だった、という植物の不思議については、花弁状器官を解説した記事でも取り上げています。
日本にもあるファイトプラズマの病気
ファイトプラズマは、決して遠い国だけの話ではありません。日本でも、アジサイの花が緑色の葉のようになってしまう「アジサイ葉化病」や、キリ(桐)の枝が密生する「キリてんぐ巣病」などが、ファイトプラズマによる病気として知られています。アジサイの花のつくりや色の変化については、アジサイの花の色が変わる理由を解説した記事もあわせてご覧ください。
ファイトプラズマ病の被害や検出方法については、農林水産省植物防疫所の病害虫情報「ファイトプラズマの被害と検出方法」でも解説されています。

複合感染とは?なぜ今注目されているの?
複合感染とは、1つの植物(宿主)に、複数の病原体が同時に感染している状態のことです。論文では「mixed infection」や「co-infection(共感染)」という言葉で表現されています。
「1つの病気に1つの病原体」という考え方の限界
植物病理学では長い間、「1つの病原体が1つの病気を起こす(one pathogen, one disease)」という考え方が基本とされてきました。ある症状が出たら、その原因となる病原体を1つ特定し、それに合わせて対策を立てる、という流れです。
この考え方は、診断や防除の道しるべとして大きな役割を果たしてきました。しかし論文は、植物が実際には複数の病原体を同時に抱えていることが多く、それらが予測しにくい形で影響し合っているという事実を、このモデルでは説明しきれないと指摘しています。かつては珍しいと考えられていた複合感染も、今では自然環境と農業環境のどちらでもよく見られる現象だと認識されるようになりました。
複合感染が増えている4つの背景
論文では、複合感染が増えている背景として、次のような世界的な要因を挙げています。
- 気候の変化:気温や雨の降り方が変わり、病原体や虫の分布が広がっている
- 単一作物の集約的な栽培(モノカルチャー)の拡大:同じ作物が広い範囲に植えられ、病原体が広がりやすい
- 国際貿易の増加:苗や農産物とともに、病原体が国境を越えて運ばれる
- 媒介昆虫の地域をまたいだ移動:病原体を運ぶ虫が新しい地域に入り込む
これらの条件が重なることで、1つの宿主の中に多様な病原体が共存しやすい環境が生まれ、病気の診断、疫学(病気の広がり方の研究)、防除をいっそう難しくしているといいます。
同じ作物ばかりを植えることの弱点は、農業の現場でも以前から意識されてきました。複数の作物を組み合わせて育てることで病害虫を抑える工夫については、間作の効果を解説した記事で紹介しています。
複合感染がもたらす3つの問題
複合感染が厄介なのは、次のような問題を引き起こすからです。
- 典型的な症状がわかりにくくなり、正確な診断が遅れる
- ある病原体に対して育てた抵抗性品種が、別の病原体が加わると役に立たないことがある
- 農薬を使っても、原因となっている病原体のすべてには効かない場合がある
さらにファイトプラズマは培養できないため、ほかの病原体とどう影響し合っているのかを実験で確かめることが難しく、遺伝子を調べる高度な分子生物学的手法に頼らざるを得ない、という事情もあります。
ヒトや動物の世界にも共通する問題
論文は、共感染が植物だけの問題ではないことにも触れています。ヒトでは、体に住む常在菌と病原微生物の関係が、病気の重さや免疫の反応、治療の結果に影響することが知られています。また、魚などの水産養殖では、ウイルス・細菌・寄生虫が同時に感染すると被害が大きくなり、生き物の回復力が損なわれることが報告されています。
こうした共通点から、論文は、複数の病原体が絡み合う現象を理解するには、分野を横断した知見が必要だと述べています。
タイプの違うファイトプラズマ同士でも複合感染するの?
はい、論文では、遺伝的なタイプの異なるファイトプラズマ同士が、同じ植物に同時に感染している例が数多く紹介されています。
ファイトプラズマの「16Srグループ」とは?
ファイトプラズマは培養できないため、見た目や性質ではなく、遺伝子の配列で分類されます。そのときに使われるのが「16S rRNA遺伝子」という、細菌の分類によく使われる遺伝子です。この遺伝子の違いをもとに、ファイトプラズマは「16SrI」「16SrII」のような「16Srグループ」に分けられています。
論文によると、これまでに37の16Srグループと、100を超えるサブグループ(16SrI-Bのような細かい区分)が記載されています。グループごとに、感染しやすい植物、出やすい症状、分布する地域に特徴があります。
実際にどんな組み合わせが見つかっているの?
論文の表1には、異なる16Srグループのファイトプラズマによる複合感染が、世界各地のさまざまな植物で報告されていることがまとめられています。その一部を紹介します。
| 植物 | 見つかったファイトプラズマの組み合わせ | 主な症状 | 地域 |
|---|---|---|---|
| ナツメ | 16SrI + 16SrV | 天狗巣症状 | 韓国、中国・河南省 |
| ホルトノキ | 16SrI + 16SrXXXII | 衰退 | 韓国・済州島 |
| バラ | 16SrI-B + 16SrII-D | 葉化、花の奇形、小葉化 | インド |
| パパイヤ | 16SrI-X + 16SrII-N | 頂部の叢生(バンチートップ) | キューバ |
| ブドウ | 16SrI-B + 16SrI-C + 16SrVII-A + 16SrXII-A | 黄化 | チリ |
| ジャガイモ | 16SrI + 16SrVII | 葉の黄化、巻き上がり、葉縁の紫変 | コロンビア |
| ユリ | 16SrI-B + 16SrXII-A | 黄化、葉の壊死、奇形 | ポーランド |
| クローバー | 16SrI-C + 16SrIII-B | 葉化、矮化 | リトアニア |
| カキ | 16SrII-D + 16SrXXIX | 黄化、赤変、枝枯れ | イラン |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(Table 1をもとに一部を抜粋・日本語で再構成)
果樹、花、野菜、牧草と、身近な植物がずらりと並んでいるのがわかります。チリのブドウのように、4つものタイプが同時に見つかった例もあります。
ナツメとホルトノキの事例
複合感染の初期の詳しい記録の1つが、韓国のナツメです。天狗巣症状(葉の黄化、節と節の間が短くなる、葉が小さくなる、新しい枝が異常に増える)を示すナツメの木から、16SrIと16SrVの2つのグループのファイトプラズマが同時に検出されました。検出には、2段階で遺伝子を増やして感度を高める「ネステッドPCR」という方法が使われました。
中国の河南省でも、ナツメで同じ16SrIと16SrVの組み合わせが見つかっています。遠く離れた地域で同じ結果が得られたことから、論文は、ファイトプラズマの複合感染は例外的な出来事ではなく、感染した植物と、病原体を運ぶ虫がそろう場所ならどこでも起こりうると述べています。
韓国・済州島では、衰退症状を示すホルトノキから、16SrIと16SrXXXIIのファイトプラズマが見つかりました。この研究では、16S rRNA遺伝子だけでなく、ほかの複数の遺伝子もあわせて調べる「多遺伝子座配列解析(MLSA)」という方法が使われ、1本の木の中にいる複数の系統を高い精度で見分けることに成功しています。
なぜ普通の検査では見落とされやすいの?
論文によると、16S rRNA遺伝子だけを調べる通常のPCR検査では、次のような問題が起こることがあります。
- 数の少ないファイトプラズマ(少数派の系統)を見落とす
- 数の多い系統(優勢な系統)の信号に隠れて、結果がはっきりしない
MLSAのように複数の遺伝子を組み合わせて調べる方法は、こうした弱点を補い、近い仲間同士の系統も区別できるため、正確な診断や、病気の広がりを追跡する調査に欠かせないとされています。
虫と植物の「重なり」が複合感染を生む
複合感染が起こりやすいかどうかは、植物がどこに植えられているか、そして病原体を運ぶ虫がどう動くかに大きく左右されます。
中国のいくつかの地域では、16SrIファイトプラズマに感染しやすいキリと、16SrVファイトプラズマに感染しやすいナツメが、広く栽培されています。論文は、両方の植物の汁を吸うヨコバイが「橋渡し役」となり、ファイトプラズマを植物の種類をまたいで運んでいる可能性を指摘しています。その結果、16SrIがナツメに、あるいは逆にキリ側へ持ち込まれることが考えられます。
さらに、同じ虫の集団の中に複数のファイトプラズマがいると、伝染の効率が上がったり、病原体の多様性が高まったりして、より病原性の強い系統や、環境に適応しやすい系統が生まれるきっかけになるかもしれない、とも論じられています。
複合感染が病気の姿を変える可能性
論文では、異なるファイトプラズマによる複合感染が、次のような影響をもたらしうるとまとめています。
- 典型的でない症状や、重なり合った症状が出て、畑での診断が当てにならなくなる
- 1つの遺伝子だけを調べる検査では、分子レベルの検出も難しくなる
- ファイトプラズマ同士が相乗的に作用して、病気が重くなったり、植物の衰退が早まったりする可能性がある
- 同じ植物の中で遺伝子の組換えや受け渡しが起こり、新しい性質をもつ系統が生まれるリスクがある
ただし、最後の遺伝子の受け渡しについては、現時点ではファイトプラズマ同士で実際に起きているという証拠は乏しい、と論文ははっきり断っています。それでも、その可能性は見過ごすべきではないというのが著者たちの立場です。

カンキツグリーニング病とファイトプラズマは同時に感染するの?
はい、論文では、カンキツグリーニング病(HLB)の病原体とファイトプラズマが、同じ柑橘の木に同時に感染している例が、中国、イラン、ブラジル、メキシコ、カリブ海地域などから報告されていることが紹介されています。
カンキツグリーニング病(HLB)とは?
カンキツグリーニング病とは、「カンジダトゥス・リベリバクター・アジアティカス(’Candidatus Liberibacter asiaticus’)」という細菌などが原因で起こる柑橘の病気です。黄龍病とも呼ばれ、英語の頭文字からHLBと略されます。この細菌もファイトプラズマと同じく篩部に住み、培養が難しく、虫によって運ばれます。運び手となるのは、ミカンキジラミなどのキジラミ類です。
HLBはブンタン、スイートオレンジ、ライム、レモンなど多くの柑橘類に被害を与えます。広がるのが速く、有効な治療法がないことから、論文では世界で最も深刻な柑橘病害の1つとされています。
日本でも南西諸島で発生が確認されており、植物防疫法にもとづく緊急防除として、柑橘の苗木などの移動が規制されています。規制の具体的な内容は、植物防疫所のカンキツグリーニング病菌の緊急防除実施基準で確認できます。
ファイトプラズマとリベリバクターの共通点
論文は、ファイトプラズマとリベリバクター属の細菌には、次のような共通点があると整理しています。
| 比べる点 | ファイトプラズマ | リベリバクター属細菌 |
|---|---|---|
| 住む場所 | 篩部だけ | 篩部だけ |
| 培養 | できない | できない(難しい) |
| 運び手 | ヨコバイ、ウンカなど | キジラミ類 |
| 代表的な病気 | 天狗巣病、葉化病など | カンキツグリーニング病、ジャガイモのゼブラチップ病など |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(本文の記述をもとに作成)
住む場所も、増えにくさも、虫に運ばれる点も、そして引き起こす症状もよく似ています。そのため論文は、両者の共感染は「起こりうる」だけでなく、感受性のある植物と運び手の虫がそろう地域では「起こりやすい」と考えています。
海南島のブンタンで何が見つかったの?
中国南部の海南島では、葉が黄色くなる、縮れる、まだら模様になるといった、HLBによく似た症状を示すブンタンの木が見つかっていました。この地域では、ファイトプラズマによる病気もいくつか定着しており、両方が同時に感染している可能性が考えられていました。
そこで行われた調査(論文の著者Yuらによる研究)で、症状のあるブンタンの54検体を遺伝子検査した結果が、次の表です。
| 検出された病原体 | 陽性だった割合 |
|---|---|
| ファイトプラズマ(16SrIIグループ) | 22.2% |
| リベリバクター・アジアティカス(HLBの病原体) | 11.1% |
| ファイトプラズマ(16SrXXXIIグループ) | 3.7% |
| ファイトプラズマとHLB病原体の複合感染 | 7.4% |
| 症状のない木 | いずれの病原体も検出されず |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(本文の数値をもとに作成)
この結果から、次のことが読み取れます。
- 見た目はHLBにそっくりでも、HLBの病原体より、ファイトプラズマのほうが高い割合で見つかっていた
- 7.4%の検体では、ファイトプラズマとHLB病原体が同じ木に同時にいた
- 症状のない木からは何も出なかったことから、これらの病原体が症状と関係している可能性が高い
論文は、柑橘の衰退の原因は複雑で、症状の重さやばらつきは、1つの病原体ではなく病原体同士の相互作用から生じている可能性があると述べています。また、ファイトプラズマとHLB病原体の症状は重なり合っていて目では区別しにくいため、複合感染が診断の不確かさの原因にもなりうるとしています。
遺伝子を調べてわかったこと
さらに詳しい遺伝子解析では、ブンタンで見つかったファイトプラズマは「16SrII-V」と「16SrXXXII-D」というサブグループに属していました。これらは、アジアのほかの植物(マメ科のナンバンクサフジ、アオイ科のノジアオイ、アサ科のウラジロエノキなど)から以前に見つかっていた系統と、16S rRNA遺伝子の配列が100%一致していました。
一方、HLBの病原体は、基準となる系統と遺伝子配列が完全に一致しており、地域をまたいで遺伝的にとても安定していることがわかりました。論文は、ブンタンが遺伝的に異なる複数の病原体を受け入れやすい宿主であること、そして両者の同時発生は、虫の生態や環境条件の共通性を反映している可能性があると考察しています。
HLBを遺伝子レベルで素早く診断する技術の開発は日本でも進められており、農研機構のカンキツグリーニング病を迅速に診断する新しい技術のような研究成果が発表されています。

柑橘以外でもリベリバクターとの複合感染はあるの?
あります。リベリバクター・アジアティカスの近い仲間である「リベリバクター・ソラナセアルム(’Ca. Liberibacter solanacearum’)」は、ジャガイモ、ニンジン、セロリなど、ナス科やセリ科の作物の重要な病原体です。ニュージーランドでジャガイモのゼブラチップ病(イモを切ると縞模様が出る病気)の原因として最初に報告され、その後ヨーロッパや北アメリカでも見つかっています。
ヨーロッパのニンジン(品種コルドバ)では、葉が巻く、黄色くなる、葉柄がねじれる、根や新芽の育ちが悪くなるといった症状が出ていました。調べたところ、16SrIグループのファイトプラズマとリベリバクター・ソラナセアルムの共感染が確認されました。論文は、この例からも、ファイトプラズマとリベリバクターの複合感染が柑橘だけの問題ではなく、熱帯から温帯まで、さまざまな植物に関わる農業上の課題であると述べています。
ウイルスとファイトプラズマの複合感染では何が起こるの?
ウイルスとファイトプラズマの複合感染では、症状が重くなったり、複雑になったりして、どちらが原因なのかを見た目で判断するのが難しくなります。論文は、インドやキューバ、エジプト、メキシコなど、熱帯・亜熱帯の多くの作物で実例を挙げています。
なぜウイルスとファイトプラズマは一緒に感染しやすいの?
植物ウイルスの多くは、ヨコバイなどの虫によって運ばれます。ファイトプラズマを運ぶ虫と同じ仲間です。つまり、同じ「乗り物」を使う病原体どうしは、同じ植物で出会いやすいのです。
論文によると、ウイルスとファイトプラズマの共感染は、次のような影響をもたらしえます。
- 相乗効果:2つが合わさることで、それぞれ単独の場合を上回る被害が出る
- 相加効果:それぞれの被害が単純に足し合わされる
- 植物の生理的なストレスが強まり、病気の進行が早まる
- 葉巻き、まだら模様、黄化、矮化、実つきの低下といった症状が1つの病原体に結びつけにくく、診断が難しくなる
虫が植物のウイルス病にどう関わっているのかは、イネが出す香りのSOSとウイルスの攻防を解説した記事でも詳しく紹介しています。
作物ごとの複合感染の例
論文の表3から、主な例をまとめました。
| 作物 | ウイルス | ファイトプラズマ | 主な症状 | 地域 |
|---|---|---|---|---|
| ナス | キュウリモザイクウイルス | 16SrII | モザイク、まだら模様、葉の小型化 | インド |
| ナス | ジャガイモXウイルス、ジャガイモYウイルス | 16SrVI | 葉の小型化、黄化、奇形 | インド |
| バナナ | バナナバンチートップウイルス、バナナストリークMYウイルス | 16SrI-D | 頂部の叢生、葉の小型化、壊死、生育不良 | インド |
| サトウキビ | サトウキビ黄葉ウイルス | 16SrI、16SrXI | 黄化、細い芽の叢生 | インド、エジプト、キューバ |
| パパイヤ | パパイヤ輪点ウイルス | 16SrII | モザイク、黄化、縮れ | キューバ |
| ヒャクニチソウ | ベゴモウイルス | 16SrI-B | 葉巻き、天狗巣症状 | インド |
| トウガラシ | アゲラタムエネーションウイルス | 16SrI-B | 黄化、葉巻き、葉の小型化 | インド |
| ピーマン類 | ベゴモウイルス | 16SrIII | 黄化型の病気 | メキシコ |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(Table 3をもとに一部を抜粋・日本語で再構成)
ベゴモウイルスとは、主にコナジラミによって運ばれるウイルスのグループで、トマト黄化葉巻病の原因ウイルスなどもこの仲間です。
注目したい3つのポイント
- ナスでは、キュウリモザイクウイルスとの組み合わせでモザイク模様が出ていました。モザイク症状はウイルス病の典型的なサインなので、ウイルスだけを疑ってしまいがちですが、実際にはファイトプラズマも同時にいた、ということになります。モザイク病がどのように広がるのかは、モザイク病の原因と広がり方を解説した記事で詳しく紹介しています
- サトウキビでは、ウイルスとファイトプラズマの組み合わせで、黄化、節間の短縮に加えて、搾った汁の品質低下まで起きていました。砂糖の原料としての価値に直結する被害です
- トウガラシでは、アゲラタムエネーションウイルスと16SrIファイトプラズマの共感染で、強い黄化、葉の変形に加えて、実の収量の減少が報告されています
メキシコのピーマン類では、ベゴモウイルスと16SrIIIファイトプラズマの組み合わせによる「黄化型」の病気が、ウイルス単独やファイトプラズマ単独の場合とよく似た症状を示していました。見た目が似ているからこそ、片方だけの感染だと思い込んでしまう危険があるわけです。
論文は、これらの研究から、ウイルスとファイトプラズマの複合感染は広く存在し、作物ごとに特徴をもちながら、熱帯・亜熱帯地域の一年生作物にも多年生作物にも悪影響を与えているとまとめています。
スピロプラズマやほかの細菌とも複合感染するの?
はい。論文では、ファイトプラズマの「親戚」にあたるスピロプラズマや、篩部に住むほかの細菌、さらにリケッチアとの複合感染も報告されています。
スピロプラズマとは?
スピロプラズマとは、ファイトプラズマと同じモリキューテス綱に属する細菌で、らせん状の形をしていて、自分で動くことができるのが特徴です。ファイトプラズマと同じく細胞壁をもたず、植物の篩部に住み、ヨコバイなどの虫に運ばれます。トウモロコシのコーンスタント病や、柑橘のスタボーン病の原因として知られています。
住む場所も運び手も共通しているため、論文は、両者の複合感染は圃場(畑)の条件で起こる可能性が高いと考えています。
スピロプラズマとの複合感染の実例
| 作物 | 見つかった組み合わせ | わかったこと | 地域 |
|---|---|---|---|
| トウモロコシ | ファイトプラズマ + スピロプラズマ | ヨコバイの一種が両方を同時に運べることが示された。両方に感染した株は、激しい矮化、黄化、葉の赤変を示し、単独感染より症状が強かった | ブラジル |
| トウモロコシ | ファイトプラズマ + スピロプラズマ | 矮化症状の株から両方が見つかり、単独感染の株より症状が明らかに重かった | ブラジル |
| ヤシ類 | 16SrIVファイトプラズマ + スピロプラズマ | 致死黄化病のヤシから両方を確認。衰退は二重感染による可能性があり、それぞれの寄与は植物や環境で変わりうる | メキシコ |
| ゴマ | 4タイプのファイトプラズマ + スピロプラズマ・シトリ | 葉化、緑化、花の奇形を示す株から、合計5種類の病原体が同時に見つかった | イラン |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(Table 4と本文の記述をもとに作成)
中でも論文が「おそらく最も複雑な事例」として挙げているのが、イランのゴマです。1本のゴマから、16SrII-C、16SrII-D、16SrVI-A、16SrIX-Cという4つの異なるサブグループのファイトプラズマと、スピロプラズマ・シトリが同時に見つかりました。畑の中で、植物と病原体の関係がいかに多様で動的かをよく表しています。
フレオモバクターやアルセノフォヌスとの複合感染
ファイトプラズマは、ほかにも培養できない篩部の細菌と一緒に見つかることがあります。論文で紹介されているのは次のような例です。
- テンサイの「バス・リシェス症候群」(フランス、1991年に報告):フランス語で「低い糖分」を意味する名前のとおり、テンサイの糖度が下がる病気です。ストルバー・ファイトプラズマ(16SrXII)と、フレオモバクター・フラガリアエという細菌の複合感染と関連していました
- イチゴの葉縁黄化病(フランス):30年以上にわたってフランスのイチゴ栽培に影響してきた病気で、ファイトプラズマとフレオモバクター・フラガリアエの組み合わせが原因とされています。単独感染と複合感染の見た目が区別できず、遺伝子検査でしか両方の存在を確認できませんでした
- テンサイとジャガイモ(ドイツ):ファイトプラズマの一種「ファイトプラズマ・ソラニ」と、アルセノフォヌス・フィトパトゲニクスという細菌の共感染が報告され、矮化、黄化、維管束の崩壊が見られました
興味深いのは、見た目は似ていても、植物の組織の中で起きていることは病原体ごとに違う、という点です。論文によると、ファイトプラズマは細胞の壊死や、細胞壁が硬くなる「木化」と関係していたのに対し、フレオモバクターは篩部の管の中にフェノール化合物(植物の防御に関わる物質)を異常にためこませていました。こうした違いは、顕微鏡での観察や遺伝子レベルの詳しい調査をしなければわからないため、論文は、病気の症状や重さをどの病原体に帰属させるかを正確に判断することが大きな課題だと述べています。
パパイヤで見つかったリケッチア
キューバのパパイヤでは、ファイトプラズマ(16SrIと16SrII)とリケッチアという細菌が、2種類の「頂部が束のように茂る病気」の畑から同時に見つかりました。ファイトプラズマは両方の病気と一貫して関連していましたが、リケッチアとの複合感染も確認されたことから、論文はこれらの病気の監視と防除に新たな課題が生じたとしています。

細菌とカビの複合感染はなぜ厄介なの?
細菌とカビ(糸状菌)という、まったく異なる生き物が同時に感染すると、片方だけを狙った対策ではもう片方が止められず、被害が大きくなりやすいからです。論文は、テンサイの事例をもとにこの問題を詳しく論じています。
テンサイで起きた「連携プレー」
ヨーロッパのテンサイ(砂糖の原料になる作物)では、ファイトプラズマ・ソラニと、土の中にいるカビ「マクロフォミナ・ファセオリナ(炭腐病菌)」が同時に感染する例が報告されています。論文では、次のような流れで被害が進むと説明されています。
- ファイトプラズマが感染し、テンサイの太い根(主根)がゴムのように柔らかくなる「ラバリー・タップルート症候群」が起こる
- 根の構造がもろくなり、土の中の日和見的なカビ(弱った植物に取りつくカビ)に侵入されやすくなる
- 炭腐病菌が感染し、根の組織が黒く変色し、維管束が壊死し、組織が崩れていく
論文によると、この二重感染では、どちらか一方だけの感染と比べて収量の損失が大きくなり、植物の衰えも早まることがあり、2つの病原体の間に相乗効果があることがはっきり示されているといいます。
対策がかみ合わない理由
細菌とカビの複合感染では、対策そのものがかみ合わなくなるおそれがあります。
| 対策 | 効く相手 | 効かない相手 |
|---|---|---|
| 殺菌剤や土壌処理(カビ向け) | 炭腐病菌などのカビ | ファイトプラズマによる維管束のダメージ |
| 運び手の虫の防除(ファイトプラズマ向け) | これからのファイトプラズマの感染 | すでに根に入り込んだカビ |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(本文の記述をもとに作成)
さらに論文は、最初にファイトプラズマに感染したことで植物の防御が弱まり、カビが入り込む「すき間」ができている可能性も指摘しています。
細菌もカビもまとめて調べる検査が必要
従来の検査は、カビか細菌のどちらか一方だけを対象にすることが多く、複合感染では診断が不完全になったり、間違ったりすることがあります。論文は、次のような分子生物学的な手法が、生物の種類をまたいだ複合感染を見つけるためにますます必要になっていると述べています。
- マルチプレックスPCR:複数の病原体の遺伝子を一度に増やして調べる方法
- qPCR(定量PCR):遺伝子の量まで測れるPCR
- CRISPRを使った診断:ゲノム編集の技術を応用して、特定の遺伝子を素早く見つける方法
- メタゲノムシーケンシング:試料に含まれる生き物の遺伝子をまとめて読み取る方法
論文は、ファイトプラズマとカビの複合感染はまだ多くの作物で報告されているわけではないものの、テンサイの例から、特にストレスを受けやすい畑では、現在考えられているより一般的である可能性があると述べています。今後の研究課題として、ファイトプラズマが植物の免疫を抑えてカビを入り込みやすくしているのか、逆にカビの感染がファイトプラズマの生存や広がりを助けているのか、といった問いが挙げられています。
同じ植物でも症状が違うのはなぜ?
同じ植物でも、感染したファイトプラズマのタイプによって症状が変わることがあり、逆に、違うタイプでも同じ症状になることがあるからです。論文は、中国南部の海南島を例に、この問題を詳しく紹介しています。
複合感染の「ホットスポット」海南島
論文によると、複合感染は、病原体の多様性が高く、感染する植物の範囲が重なり合う地域で起こりやすくなります。熱帯の島である海南島はその代表例で、症状のある植物から、数多くのファイトプラズマや篩部の病原体が見つかっており、それらは症状が似ていて、運び手の虫も共通していることが多いといいます。
感染したタイプで症状が変わる例
| 植物 | ファイトプラズマのタイプ | 現れた症状 |
|---|---|---|
| ニチニチソウ | 16SrI-B | 小葉化、緑化、葉化 |
| ニチニチソウ | 16SrV | 黄化 |
| ノジアオイ | 16SrI-B | 葉化 |
| ノジアオイ | 16SrII-A | 天狗巣症状 |
| パパイヤ | 16SrI-AP/16SrI-B/16SrII-U | 葉の奇形/黄化/小葉化 |
| プラクセリス(キク科の雑草) | 16SrII-A/16SrII-V | 天狗巣症状/葉化 |
| パラゴムノキ | 16SrI、16SrII(単独でも組み合わせでも) | いつも茎の帯化(茎が平たく帯状になる) |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(本文の記述をもとに作成)
ニチニチソウは、ファイトプラズマの研究で症状を観察するための植物としてもよく使われています。身近な花壇の花としてのニチニチソウの性質は、ニチニチソウの繁殖力と防御のしくみを解説した記事で紹介しています。
この表からわかるのは、「症状を見れば犯人がわかる」とは限らない、ということです。同じニチニチソウでも、犯人が違えば「葉化」と「黄化」に分かれますし、パラゴムノキのように、どのタイプに感染しても同じ症状になる植物もあります。論文は、このような多様性が診断を難しくしており、ファイトプラズマ病の原因を正確に見分けるには分子生物学的な手法が必要だと強調しています。
地域によって病気の原因が変わる
地域による違いもあります。中国では、サトウキビで最も経済的な被害が大きい病気の1つである「サトウキビ白葉病」が、海南省では16SrIIグループ、雲南省では16SrXIグループのファイトプラズマによって起きていました。同じ病名でも、場所が違えば原因のタイプが違うのです。
論文は、特に同じ病気が異なる気候や環境のもとで現れる場合には、病原体の種類と症状が厳密には一致しないことがあると指摘しています。そして、海南島のブンタンで3種類の病原体が同時に見つかった例を挙げ、病原体の多様性が高く、宿主が重なり合う地域では、複数の病原体を対象とした診断の考え方が必要だとしています。
アジアで広がる16SrXXXIIグループ
論文では、アジアで急速に分布を広げているファイトプラズマとして、16SrXXXIIグループが取り上げられています。
- マレーシア:サブグループ16SrXXXII-A、-B、-Cが記載されている
- 中国、韓国、日本:サブグループ16SrXXXII-D、-E、-Fが確認されている
このグループは、中国のウラジロエノキの天狗巣病、ブンタンの黄葉、カンレンボクの天狗巣病、ホルトノキの衰退、マレーシアのココヤシの黄化萎縮病、日本のコバンモチ(ホルトノキ科の樹木)の萎黄病など、さまざまな植物の病気に関わっています。
16SrXXXIIとほかのグループとの複合感染が確認されているのは、現時点では韓国・済州島のホルトノキの例だけです。しかし論文は、このグループの感染する植物の範囲の広さと分布の広さを考えると、特に限られた範囲に多くの宿主が集まる地域では、さらに複合感染が起こる可能性は高いと述べています。
雑草や野生植物は病気の広がりにどう関わるの?
論文によると、雑草や野生植物は、ファイトプラズマなどの病原体をため込んでおく「保毒宿主(リザーバー)」として働き、病原体が生き残り、広がるのを助けていることがあります。
雑草が病原体の「隠れ家」になる
中国のサトウキビ畑によく生えているアカネ科の雑草(リチャーディア・スカブラ)から、サトウキビ白葉病のファイトプラズマと遺伝子配列が99.7%一致するファイトプラズマが見つかりました。論文は、作物が植えられていない時期や、運び手の虫が活動しない時期にも、雑草がファイトプラズマを持ち続け、次の作付けのときの感染源になっている可能性を指摘しています。
植物の種類をこえて行き来するファイトプラズマ
さらに、遺伝子の比較から、よく似たファイトプラズマが、まったく違う種類の植物の間で共有されている可能性も示されています。
| 比べたファイトプラズマ | 遺伝子配列の一致率 | 読み取れること |
|---|---|---|
| サトウキビ畑の雑草 と サトウキビ白葉病 | 99.7% | 雑草が作物の病原体をため込んでいる可能性 |
| 中国・ベトナム・タイのキャッサバの系統どうし | 99%超 | 国をまたいだ伝染や、共通の保毒宿主の可能性 |
| コショウ と 海南島のほかの植物(パパイヤ、センダン、トウガラシ、ニチニチソウなど) | 99.8%以上 | 種類の違う植物の間を、よく似たファイトプラズマが行き来している可能性 |
出典:Beyond Single-Pathogen Models: Understanding Mixed Infections Involving Phytoplasmas and Other Plant Pathogens(本文の数値をもとに作成)
論文は、これらの結果が、系統的にも生態的にも異なる植物の間で、よく似たファイトプラズマが広がりうるという仮説を支持していると述べています。特に、感染しやすい植物が何種類も共存している地域で、その可能性が高いとされています。
検疫と監視への提言
こうした状況をふまえ、論文は植物防疫とバイオセキュリティ(生物学的な安全対策)について、次のような提言をしています。
- ビンロウやブンタンのように、複数のファイトプラズマやリベリバクターに感染しやすい植物は、国境をまたぐ輸送や取引の際に、それらをまとめて同時に検査・検疫すべき
- 遺伝子診断、運び手の虫のモニタリング、感染する植物の範囲の調査を組み合わせた、包括的な監視体制が必要
- 症状の出ていない野生植物や雑草を含めて保毒宿主を特定することが、早期警戒と総合的な病害虫管理を強化する

複合感染への対策はこれからどう変わるの?
論文の考察にあたる章では、ファイトプラズマが関わる複合感染をどう監視し、どう管理していくべきかについて、いくつかの方向性が示されています。
1. 検査の対象にファイトプラズマを必ず含める
ファイトプラズマは培養できないため、標準的な病害の検査や管理の手順では見落とされやすい存在です。論文は、特にファイトプラズマがほかの病原体と共存している地域では、検査で調べる病原体の一覧(検査パネル)にファイトプラズマを含めるべきだと述べています。ファイトプラズマや共感染している病原体を見逃すと、誤った診断や不適切な対策につながるからです。
2. 病原体同士の関係を解き明かす
海南島のブンタンでは、ファイトプラズマとHLB病原体の同時感染は確認されたものの、黄化や葉のまだら模様といった症状に、それぞれがどれだけ関わっているのかはまだわかっていません。論文は、次のような点が今後の研究課題だとしています。
- 病原体同士が、篩部の栄養をめぐって競い合っているのか
- 互いの活動を抑え合っているのか、それとも強め合っているのか
- 一緒になって植物の反応を変え、病気を悪化させているのか
3. 運び手の虫ごとに対策を考える
ファイトプラズマは、ほかの病原体と同じ虫に運ばれることもあれば、まったく別の虫に運ばれることもあります。たとえば、ファイトプラズマの主な運び手はヨコバイですが、リベリバクター属の細菌を運ぶのはキジラミです。そのため論文は、虫の防除策は、その地域でどの虫がどの病原体を運んでいるのかという全体像をふまえて、慎重に設計する必要があるとしています。
4. ファイトプラズマを「ほかの病気の入り口」として見る
ファイトプラズマは、エフェクタータンパク質を分泌し、植物ホルモンのバランスを変え、防御反応を弱めることで、植物の発育をかく乱します。論文は、こうした変化が、その後にウイルスやカビ、ほかの細菌が入り込みやすい状態をつくり出す可能性があると指摘しています。ファイトプラズマの感染を、ほかの病気を招きやすくする要因として捉えれば、早めに手を打つべき対策の優先順位も変わってくるかもしれません。
5. 複合感染を前提にした品種づくり
ファイトプラズマに強い品種づくりは、検出の難しさや、人工的に確実に感染させる方法がないことから、これまで限られてきました。しかし、遺伝子診断の進歩によって、柑橘、パパイヤ、サトウキビ、ゴマ、キャッサバなど多くの重要作物が、複数のタイプのファイトプラズマに、ときには同時に感染していることが明らかになってきました。
論文は、品種づくりについて次のような方向性を示しています。
- 1つの系統だけへの抵抗性をめざす従来の方法は、複合感染が多い畑では効果を発揮しにくい
- あるタイプのファイトプラズマへの抵抗性が、別のタイプや、HLB病原体、ウイルスには効かない場合がある
- 複数年・複数地点での試験に、ファイトプラズマの遺伝子検査を組み込み、長く続く抵抗性を確かめるべき
- ファイトプラズマのエフェクターに乗っ取られる植物側の共通の仕組みを標的にしたり、維管束の基礎的な免疫を高めたりして、幅広い病原体に強い品種をめざすべき
- ゲノム解析、遺伝子の働きを網羅的に調べる解析、ゲノム編集などの技術を組み合わせることで、開発が進む可能性がある
6. 監視体制と検疫をアップデートする
論文は、病気を早く見つけて管理するために、植物の健康を見守る監視体制そのものを変えていく必要があるとしています。
- さまざまなタイプのファイトプラズマの遺伝子検査を、定期的な監視に組み込む
- 虫のモニタリングや、病原体の集団の追跡もあわせて行う
- マルチプレックスPCRやメタゲノム解析のような、大量の試料を一度に調べられる方法を活用し、症状のない植物や病気の初期段階でも複合感染を見つけられるようにする
- 雑草や観賞植物など、ファイトプラズマをため込んで再感染源になりうる植物も、地域の監視の対象に含める
- 虫の移動や、症状のない感染植物の役割をふまえ、地域全体(景観レベル)での病気の広がりをモデル化する
検疫については、複数のタイプのファイトプラズマが共存する東南アジアのような地域では、植物や苗などの繁殖材料について、その地域で知られているすべてのファイトプラズマのタイプを同時に検査すべきだとしています。特に、ブンタン、ビンロウ、ホルトノキのような高リスクの植物が対象として挙げられています。
家庭菜園でできる対策は?
この総説は、農業の現場や国レベルの検疫に向けた提言が中心で、家庭菜園での具体的な方法を検証したものではありません。ただ、論文の考え方から、家庭菜園でも意識しておきたいポイントを整理することはできます。
1. 症状だけで原因を決めつけない
論文が繰り返し強調しているのは、見た目の症状だけでは原因を見分けられないことがある、という点です。葉の黄ばみ、まだら模様、葉巻き、生育不良といった症状は、ウイルス、細菌、ファイトプラズマ、カビ、さらには栄養不足や環境ストレスなど、さまざまな原因で起こります。
原因がわからないまま薬を使っても、効果が得られないことがあります。症状が広がっている、毎年同じ症状が出る、といった場合は、都道府県の病害虫防除所や農業改良普及センター、購入した園芸店などに相談するのも一つの方法です。
2. 汁を吸う虫に目を向ける
ヨコバイ、ウンカ、キジラミ、コナジラミ、アブラムシなど、植物の汁を吸う虫は、ファイトプラズマやウイルスの運び手になることがあります。論文で紹介されたトウモロコシの例のように、1種類の虫が複数の病原体を同時に運ぶこともあります。
家庭菜園では、防虫ネットで苗を覆う、黄色の粘着シートで虫の発生を確認する、といった物理的な方法が、虫の侵入を減らす選択肢になります。アブラムシの生態や対策の基本は、アブラムシの生態と対策を紹介した記事にまとめています。
3. 畑や庭のまわりの雑草を放置しすぎない
論文では、雑草がファイトプラズマの「隠れ家」になり、作物がない時期にも病原体を持ち続けている可能性が示されていました。作物のすぐそばの雑草を伸び放題にしないことは、運び手の虫のすみかを減らすことにもつながります。
一方で、雑草を完全になくすことが常によいとは限らず、天敵や送粉昆虫のすみかになる面もあります。作物の近くは手入れをし、少し離れた場所は様子を見る、といったメリハリをつけるとよいでしょう。
4. 苗・挿し穂・接ぎ木の材料は信頼できるものを選ぶ
論文は、苗や植物材料を通じて病原体が地域をまたいで広がることに強い注意を促しています。また、ファイトプラズマは一般に、虫だけでなく、感染した株から取った挿し木や接ぎ木など、栄養繁殖によっても次の株に受け継がれるとされています。
- 信頼できる園芸店や生産者から、健全な苗を購入する
- 症状のある株から、挿し木や株分けで増やさない
- 旅行先などから植物を持ち帰る場合は、法律による移動規制がないかを確認する
特に柑橘類は、日本国内でもカンキツグリーニング病の発生地域から苗木などを持ち出すことが規制されています。
5. 天狗巣症状や葉化が出た株は早めに判断する
ファイトプラズマによる病気には、現在のところ、感染した植物を治す実用的な薬はありません。そのため一般には、天狗巣症状や葉化などの典型的な症状が出た株は、周りの株への広がりを防ぐために、早めに抜き取って処分することがすすめられています。抜き取った株は、畑の近くに放置しないようにしましょう。

この総説から言えること・言えないことは?
最後に、この論文の内容を正しく受け取るために、言えることと、まだ言えないことを整理しておきます。
言えること
- ファイトプラズマは、異なるタイプのファイトプラズマ、HLBの病原体を含むリベリバクター属細菌、ウイルス、スピロプラズマ、ほかの篩部細菌、カビと、同じ植物に同時に感染している例が世界各地で報告されている
- 複合感染では症状が重なり合い、見た目だけで原因を特定するのは難しい
- 1つの遺伝子や1種類の病原体だけを調べる検査では、複合感染を見落とすおそれがある
- テンサイやトウモロコシなどでは、複合感染の株のほうが単独感染より症状が重い例が報告されている
- 雑草や野生植物が、ファイトプラズマの保毒宿主になっている可能性がある
まだ言えないこと・注意点
- この論文は、既存の研究をまとめた総説であり、新たな実験を行ったものではない
- 複合感染で症状が重くなる仕組み(相乗効果の中身)は、多くの場合まだ解明されていない
- 複合感染が、どの地域・どの作物でどれくらいの頻度で起きているのかは、十分にはわかっていない
- ファイトプラズマ同士の遺伝子のやり取りは、可能性として議論されているものの、現時点で証拠は乏しい
- 論文の提言は主に農業現場や検疫向けであり、家庭菜園での具体的な効果が検証されたわけではない
まとめ
ファイトプラズマとは、植物の篩部に住み、ヨコバイなどの虫に運ばれる、細胞壁のない小さな細菌です。2025年の総説では、このファイトプラズマが、ほかのファイトプラズマ、カンキツグリーニング病の病原体、ウイルス、スピロプラズマ、カビなどと同時に感染する「複合感染」の実例が、数多く整理されました。
この記事のポイントを振り返ります。
- 「1つの病気に1つの病原体」という考え方だけでは、複合感染を説明しきれない
- 海南島のブンタンでは、症状のある木の7.4%で、ファイトプラズマとHLB病原体が同時に見つかった
- イランのゴマでは、1本から5種類の病原体が見つかった
- テンサイでは、ファイトプラズマとカビの二重感染で、被害が単独感染より大きくなる例があった
- 同じ植物でも感染したタイプで症状が変わり、見た目だけでは原因を見分けられない
- 雑草が病原体の隠れ家になっている可能性があり、監視や検疫の対象に含めるべきだとされている
- 今後は、複数の病原体をまとめて調べる検査、虫の監視、複合感染を前提にした品種づくりが重要になる
家庭菜園でも、「犯人はひとりとは限らない」という視点をもって、症状だけで決めつけず、汁を吸う虫、周りの雑草、苗の持ち込みに目を向けることが、植物を守る第一歩になりそうです。
よくある質問(Q&A)
Q1. ファイトプラズマに感染した植物は治せますか?
論文では治療法についての具体的な記述はありませんが、一般に、ファイトプラズマ病には、感染した植物を治す実用的な薬が現在のところないとされています。そのため、症状が出た株を早めに抜き取ること、運び手となる虫を寄せつけないこと、健全な苗を使うことなど、予防と広がりの抑制が対策の中心になります。
Q2. ファイトプラズマは人やペットに感染しますか?
ファイトプラズマは植物の篩部と、運び手となる虫の体内で増える細菌で、植物の病原体として研究されています。論文でも、人や動物への感染についての記述はなく、植物の病気として扱われています。
Q3. 複合感染しているかどうかは、見た目でわかりますか?
論文によると、見た目だけで複合感染を判断するのは難しいとされています。複数の病原体の症状は重なり合い、同じ植物でも感染したタイプによって症状が変わるためです。複合感染かどうかを確かめるには、遺伝子検査などの専門的な手法が必要になります。
Q4. 日本の家庭菜園でも気をつけたほうがよいですか?
論文で紹介されている事例の多くは熱帯・亜熱帯地域のものですが、日本でもアジサイ葉化病などのファイトプラズマ病は知られており、南西諸島ではカンキツグリーニング病も発生しています。汁を吸う虫の対策、周りの雑草の手入れ、信頼できる苗の利用といった基本的な管理は、家庭菜園でも取り入れやすい予防策です。
この研究のように、国内外の植物・園芸・農業ニュースをXで毎日紹介しています。畑や庭で起きている「なぜ?」を論文から読み解く情報を、いち早く受け取りたい方はぜひフォローしてください。
→ edge farm(@EdgeFarm83417)https://x.com/EdgeFarm83417


コメント