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植物の抵抗性とは、植物が害虫や病原体の攻撃を防いだり、被害を小さく抑えたりするために持っている性質のことです。植物は、虫を「寄せつけない」「食べた虫を弱らせる」「食べられても立ち直る」という3つのしくみに加え、食べられたときに香りを出して天敵を呼び寄せるなど、何重もの防御を組み合わせて身を守っています。こうした植物本来の力を活かした品種づくりは、農薬への依存を減らす持続可能な害虫対策の柱として、研究が急速に進んでいます。
本記事では、アメリカのオクラホマ州立大学とアメリカ農務省農業研究局(USDA-ARS)の研究者が2026年に発表した総説論文「Plant resistance: scientific basis and latest research progress(植物の抵抗性:科学的基盤と最新の研究の進展)」をもとに、植物の抵抗性のしくみから、虫に強い品種の作り方、ゲノム編集やAIといった最新技術、そして家庭菜園で活かせるヒントまでを、専門用語をかみ砕いてわかりやすく解説します。
植物の抵抗性とは?
植物の抵抗性とは、一言でいえば「植物が生まれつき、あるいは攻撃を受けたときに発揮する、害虫や病気への防御力」のことです。
植物は、動物のように逃げたり隠れたりすることができません。畑のトマトやキュウリは、アブラムシに吸汁されても、イモムシに葉をかじられても、病原菌の胞子が飛んできても、その場で受け止めるしかありません。そのため植物は、何百万年という長い進化の中で、動かずに身を守るためのさまざまな仕組みを発達させてきました。
論文では、植物の防御を支える主な要素として、次のようなものが挙げられています。
- 物理的な障壁:葉や茎の表面の毛(トライコーム)、とげ、厚く硬い葉、表面を覆うろう質の層(クチクラ)など
- 化学的な防御:虫にとって毒になる物質、嫌なにおいや苦みで寄せつけない物質、消化をじゃまするタンパク質など
- 免疫のしくみ:病原体や害虫の侵入を見つけて、防御反応のスイッチを入れる受容体やシグナルの伝達網
- 生き物どうしのつながり:香りで天敵を呼び寄せたり、根のまわりの微生物の力を借りたりすること
植物の抵抗性は、これらのうちどれか1つで成り立っているのではなく、いくつもの防御が重なり合って働いている点が大きな特徴です。論文でも、抵抗性は単一のしくみではなく、恒常的な防御と誘導的な防御、遺伝的な要因、生化学的な経路、生き物どうしの関係が複雑に絡み合ったものだと説明されています。
なぜ今、植物の抵抗性が注目されているの?
植物の抵抗性がいま改めて注目されている背景には、化学農薬に頼った害虫対策の限界があります。
合成農薬は、これまで害虫を抑え、収量を守るうえで大きな役割を果たしてきました。一方で論文は、農薬の広い使用が生態系への被害を引き起こし、人の健康や自然環境、生物多様性にもリスクをもたらしてきたと指摘しています。さらに、同じ系統の農薬を使い続けると、その農薬が効かない害虫(抵抗性を獲得した害虫)が増えるという問題もあります。
そこで重要になるのが、植物がもともと持っている抵抗性を活かす「寄主植物抵抗性(HPR)」という考え方です。論文では、HPRについて次のような利点が挙げられています。
- 害虫による被害をもともと受けにくいため、農薬の使用量や散布回数を減らせる
- 環境への負荷が小さく、天敵などの有益な生き物を守れる
- 害虫の変化に応じて反応できる動的なしくみなので、農薬に抵抗性を持つようになった害虫にも効果が期待できる
- 長期的で、環境に配慮した方法で農業の生産性を守れる
こうした抵抗性品種は、農薬だけに頼らず、予防・観察・防除を組み合わせて病害虫を管理する「総合的病害虫管理(IPM)」の基本的な構成要素とされています。日本でも、農林水産省が総合防除(IPM)の推進を掲げ、予防と予察(発生の予測)に重点を置いた防除の考え方を広めています。
微生物由来の天然の成分を使って農薬への依存を減らそうとする研究については、海洋微生物由来の天然農薬を解説した記事でも紹介しています。
植物の抵抗性にはどんな種類があるの?

論文では、植物の抵抗性を大きく3つのタイプに分けて説明しています。
| 種類 | どんなものか | 具体例 |
|---|---|---|
| 恒常的抵抗性 | 攻撃があってもなくても、いつも備わっている防御 | 毛(トライコーム)、とげ、厚い葉、ろう質の層、もともと含まれる苦み成分など |
| 誘導抵抗性 | 攻撃を受けたときにスイッチが入る防御 | 食害後に防御物質を増やす、細胞壁を強化する、香りを出して天敵を呼ぶなど |
| 遺伝的抵抗性 | 病原体を見分ける遺伝子にもとづく防御 | 抵抗性遺伝子(R遺伝子)による病原体の認識と、感染した細胞の自死による封じ込め |
いつも身につけている「恒常的抵抗性」
恒常的抵抗性は、いわば植物が普段から着ている「鎧(よろい)」です。葉や茎の毛、とげ、厚い葉などの物理的な障壁や、フェノール類、サポニン、グルコシノレートといった二次代謝物(生きるのに直接は必要ないが、防御などに使われる化合物)がこれにあたります。
論文によると、恒常的な防御は、成長がゆっくりでも防御に投資し続けることが生き残りに有利な、ストレスの多い環境に適応した植物によく見られるとされています。物理的な防御と化学的な防御が組み合わさることもあり、たとえば分泌物を出す毛(腺毛)は、毛そのものと、そこから出る粘着性や毒性のある液で、二重の守りになっています。
攻撃を受けてからスイッチが入る「誘導抵抗性」
誘導抵抗性は、害虫や病原体に攻撃されたときに初めて発揮される防御です。攻撃を受けると、植物は防御物質をつくったり、細胞壁を強くしたり、防御に関わるタンパク質を増やしたりします。
この反応を指揮しているのが、サリチル酸(SA)、ジャスモン酸(JA)、エチレン(ET)といった植物ホルモンです。反応は、攻撃された部分だけで起こることもあれば、植物全体に広がることもあります。植物全体に広がる防御には、「全身獲得抵抗性(SAR)」や「誘導全身抵抗性(ISR)」と呼ばれるものがあり、根のまわりにすむバチルス属やシュードモナス属などの有用な細菌が、ISRを引き起こすことも知られています。
誘導抵抗性には、「プライミング」と呼ばれる面白い性質もあります。プライミングとは、一度攻撃を受けたり、防御のきっかけになる物質(エリシター)にさらされたりした植物が、次に攻撃を受けたときに、より速く、より強く防御反応を起こせるよう「身構えた状態」になることです。ただし論文では、プライミングの効き方は品種によって大きく異なるため、よく反応する品種を選ぶことが重要だとされています。
病原体を見分ける「遺伝的抵抗性」
遺伝的抵抗性の中心にあるのが、抵抗性遺伝子(R遺伝子)です。R遺伝子は、病原体が植物の防御をかく乱するために送り込むタンパク質(エフェクター)を見つけ出し、防御のスイッチを入れる役割を持っています。
R遺伝子が病原体を見つけると、感染した細胞が自ら死ぬことで病原体の広がりを食い止める「過敏感反応(HR)」が起こることがあります。自分の体の一部を犠牲にして、被害を最小限に抑える作戦です。論文によると、R遺伝子はゲノムの中でまとまって存在していることが多く、絶えず変化する病原体に対応できるよう、速いスピードで進化しているとされています。
また、防御遺伝子の働きを統括する「転写因子(遺伝子のスイッチを入れたり切ったりするタンパク質)」も重要です。WRKY、NAC、MYB、bZIPといった転写因子のグループが、防御と成長のバランスをとりながら、免疫反応を細かく調整していることが紹介されています。
植物の防御のしくみの具体例として、触れると痛いとげで身を守る植物については、イラクサの防御システムを解説した記事でも紹介しています。
植物はどうやって敵を見分けているの?
植物には、動物のような白血球や抗体はありませんが、「自然免疫」と呼ばれる、敵を見分けて防御反応を起こすしくみが備わっています。論文では、植物の免疫は2段構えの防御システムで成り立っていると説明されています。
| 段階 | 名前 | しくみ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | パターン誘導免疫(PTI) | 細胞の表面にある受容体が、病原体や害虫に共通する「目印」を見つけて反応する | 幅広い相手に効く。見つける目印は病原体の生存に欠かせないため、変わりにくい |
| 第2段階 | エフェクター誘導免疫(ETI) | 細胞の中にあるR遺伝子由来のタンパク質が、特定の病原体が送り込むエフェクターを見つけて反応する | より強力で持続的。感染した細胞を犠牲にする過敏感反応につながることが多い |
第1段階のPTIでは、細胞表面の受容体が、病原体に由来する目印(PAMPs)、植物が傷ついたときに出る目印(DAMPs)、植食者に由来する目印(HAMPs)などを感知します。すると、活性酸素の発生や、情報を伝えるタンパク質の連鎖反応がすばやく起こり、細胞壁を補強する物質(カロース)がたまるなどの防御が進みます。
ところが、病原体の側も黙ってはいません。病原体はPTIを抑え込むためのエフェクターを送り込んできます。これに対抗するのが第2段階のETIで、R遺伝子を持つ植物は、そのエフェクターそのものを見つけ出して、より強い防御を発動します。植物と病原体は、まさに「攻撃と防御のいたちごっこ」を続けているわけです。
植物はどんな化学物質で身を守っているの?
植物の防御で中心的な役割を果たしているのが、化学的な防御です。論文では、植物がつくる多様な物質が、害虫や病原体を寄せつけない、食べる気をなくさせる、毒として作用するといった形で働いていると紹介されています。
主な防御物質を整理すると、次のようになります。
| 防御物質のグループ | 主な働き | 例 |
|---|---|---|
| 二次代謝物(フラボノイド、テルペノイド、フェノール類、アルカロイドなど) | 毒性、摂食の阻害、忌避、防御に役立つ香りの放出 | 食害を受けると蓄積し、昆虫の成長・生存・繁殖を妨げる |
| グルコシノレート | 辛みや苦みのもとになり、虫を遠ざける | アブラナ科の植物がゾウムシなどを寄せつけない |
| プロテアーゼ阻害物質 | 虫がタンパク質を消化する酵素のはたらきを妨げる | ダイズのボウマン・バーク型阻害物質 |
| レクチン | 糖と結合するタンパク質で、虫に毒として作用する | マメ類由来のレクチンがアブラムシやイモムシに毒性を示す |
| ファイトアレキシンなどの抗菌物質 | 病原体の増殖を抑える | 感染に応じてつくられ、病気の広がりを防ぐ |
| サポニン、テルペノイド | 幅広い菌類や線虫に対する防御 | 土の中の病原体や線虫への抵抗性に関わる |
面白いのは、植物が「虫にかじられた傷」と「単なる機械的な傷」を区別できることです。論文によると、植物は昆虫の口から出る分泌物に含まれる成分を感知して、食害だと判断し、防御反応を始めます。同じ傷でも、はさみで切っただけの傷と虫の食害とでは、植物の反応が違うのです。
また、これらの化学防御は、植物ホルモンどうしの「クロストーク(相互作用)」によって調整されています。たとえばハダニに寄生されると、トウガラシではJAとSAの両方が関わる防御が動き出し、ナスではSAが関わる全身的な防御が抵抗性に寄与していると紹介されています。植物は、攻撃してくる相手に応じて、どの防御を優先するかを使い分けているのです。
食べられた植物が香りで天敵を呼ぶって本当?

本当です。これは植物の抵抗性の中でも、特に研究が盛んな分野の一つです。
植物は害虫に食べられると、ふだんとは違う香りの混合物を空気中に放出します。この香りは「植食誘導性植物揮発性物質(HIPVs)」と呼ばれ、テルペノイドや脂肪酸の仲間などからできています。論文によると、この香りには次のような働きがあります。
- 害虫を遠ざける
- その害虫を食べたり寄生したりする天敵を呼び寄せる
- 周りの植物に危険を知らせ、まだ食べられていない植物の防御を「準備状態」にする(プライミング)
植物と害虫、そして天敵の3者が関わるこうした関係は、「三者間相互作用」と呼ばれます。論文で紹介されている具体例を整理すると、次のとおりです。
| 食害された植物 | 害虫 | 呼び寄せられる天敵 |
|---|---|---|
| トウガラシ、キャベツ | モモアカアブラムシ | 寄生バチ(アフェリヌス・バリペス) |
| トマト | チューリップヒゲナガアブラムシ | 寄生バチ(アフィディウス・エルビ) |
| トマト | トマトキバガ | 捕食性のカスミカメムシ(ネシディオコリス・テヌイス) |
| キュウリ、ジャガイモ | (食害を受けた株) | アリの一種(フォルミカ・プラテンシス) |
さらに、食害されたジャガイモが出す香りは、近くの植物のガの幼虫(シロイチモジヨトウ)に対する抵抗性を高めることが報告されています。トマトやトウガラシでは、害虫が寄生すると香りの放出が増え、それがコナジラミの行動や個体数をかく乱することも紹介されています。
天敵の側が植物の防御を強めることもあります。捕食性のカスミカメムシ(ネシディオコリス・テヌイス)が植物の汁を吸うと、植物の防御ホルモン(JAとABA)の経路が準備状態になり、タバココナジラミを遠ざけると同時に、別の天敵である寄生バチ(オンシツツヤコバチ)を呼び寄せるようになるといいます。このカスミカメムシが誘導する香り成分((Z)-3-ヘキセニルプロパノエート)は、まだ被害を受けていない周囲の植物の抵抗性まで高めるそうです。
香りの成分そのものを害虫対策に使う研究も進んでいます。論文では、虫を遠ざける作用のある成分(7-エピジンギベレンやサリチル酸メチル)を活用することが、タバココナジラミのような、病気を媒介する害虫を管理するための、環境に優しい有望な方法だと紹介されています。植物が香りでSOSを出すしくみの別の例については、メチルサリチル酸とイネの香りのSOSを解説した記事で詳しく紹介しています。
害虫に強い品種は、どんなしくみで虫を防いでいるの?
害虫に強い品種が持つ性質は、「寄主植物抵抗性(HPR)」と呼ばれます。論文では、HPRを大きく3つのタイプに分けて説明しています。
| タイプ | 呼び名 | 何をするか | 虫への影響 |
|---|---|---|---|
| アンチゼノーシス | 非選好性(寄せつけない) | 虫に「ここは食べたくない・卵を産みたくない」と思わせる | 虫が寄りつかず、定着や産卵が減る |
| アンチバイオーシス | 抗生性(弱らせる) | 食べた虫の体に悪影響を与える | 成長が遅れ、繁殖力が下がり、死亡率が上がる |
| 耐性(トレランス) | 耐える・立ち直る | 被害を受けても収量を保つ | 虫には直接影響しないが、植物の損失が小さくなる |
寄せつけない「アンチゼノーシス」
アンチゼノーシスは、大きな被害が出る前に、虫の行動そのものを変えてしまう防御です。葉の硬さ、表面のろう、色、組織の厚さなどが、虫が植物を選ぶかどうかに影響します。
特に重要なのが、葉や茎の毛(トライコーム)です。論文では、次のような例が紹介されています。
- 分泌物を出さない毛は、虫の移動をじゃまし、その寿命を縮めることがある(インゲンマメ)
- 分泌物を出す毛(腺毛)は、粘着性や毒性のある液を出して、ハダニやコナジラミを遠ざける(キュウリ)
- 毛の密度が高く葉が厚いことで、ガの幼虫(オオタバコガ)やコナジラミの寄生が減る(ダイズ)
- 野生のジャガイモの仲間では、特定の遺伝子が、アブラムシの定着や吸汁の継続を妨げる
- イネやトマトの抵抗性品種は、構造や化学的な手がかりを使って、ウンカやタマバエ、果実を食害するガの幼虫などの産卵・定着を抑える
食べた虫を弱らせる「アンチバイオーシス」
アンチバイオーシスは、虫が植物を食べた後に効いてくる防御です。毒になる物質をためる、栄養の組成を変える、消化をじゃまするタンパク質をつくるといった変化によって、植物は虫にとって「居心地の悪い体の中」をつくり出します。その結果、虫の成長に時間がかかり、産む卵が減り、死にやすくなるため、害虫の数が増えにくくなります。
論文では、次のような例が紹介されています。
- コムギ:特定の抵抗性遺伝子が、アブラムシ(ムギミドリアブラムシ、ロシアコムギアブラムシ)の寿命と発育の速さを低下させる
- イネ:トビイロウンカへの抵抗性遺伝子Bph31を、DNAマーカーを使った選抜でインドの品種に導入したところ、複数の系統のトビイロウンカに対する抵抗性が大きく高まった
- ワタ、ヒヨコマメ:コナジラミやガの幼虫に対して、同様の効果を持つ系統が報告されている
イネのトビイロウンカ抵抗性では、遺伝子によって組み合わせている作戦が違うことも紹介されています。Bph1が「弱らせる」と「耐える」で中程度の抵抗性をもたらすのに対し、Bph31は「寄せつけない」と「耐える」を組み合わせて、より総合的な防御を強めるとされています。
食べられても立ち直る「耐性」
耐性は、虫の生存や行動には直接手を出さず、被害を受けても植物が成長や繁殖を続けられるようにする防御です。論文によると、植物は次のような方法で被害を補います。
- 失った部分を補うように成長する(新しい枝、分げつ、根を増やす)
- 葉緑素(クロロフィルa・b)やカロテノイド、炭素を取り込む酵素を増やして、光合成の力を高める
- 蓄えていた養分を、被害を受けた組織に回す
- 抗酸化酵素(ペルオキシダーゼなど)を増やして、ストレスをやわらげる
耐性は、植物が大きく育つほど強くなる傾向があります。成熟した株のほうが養分の蓄えが多く、資源を集める効率も高いためです。また、耐性は虫を直接攻撃しないため、虫の側がそれを打ち破るように進化しにくく、長く効き続ける防御だと考えられています。
遺伝によらない「見かけの抵抗性」
論文では、本当の意味での抵抗性ではないものの、結果として被害を減らす「見かけの抵抗性(偽抵抗性)」も紹介されています。たとえば、害虫が大発生する前に、被害を受けやすい生育段階を終えてしまうといった「時期のずれ」による回避です。
周りの植生によって害虫が寄りつきにくくなる「連合抵抗性」もこれにあたります。家庭菜園で種まきや植え付けの時期を工夫したり、いろいろな植物を混ぜて植えたりすることは、この考え方にも通じます。
アブラムシが発生しやすい条件については、アブラムシの生態と発生原因、対策を紹介した記事で、トマトのコナジラミについては、トマトのオンシツコナジラミの原因と対策を紹介した記事でも解説しています。
虫や病気に強い品種は、どうやって作られているの?

虫や病気に強い性質を品種に取り入れるための研究は、近年大きく進んでいます。論文では、従来の育種から、DNAの情報を活用した高精度な育種へと重心が移っていると説明されています。
| 手法 | どんな方法か | 論文で紹介されている成果の例 |
|---|---|---|
| QTLマッピング | 多くの遺伝子が少しずつ関わる性質(抵抗性など)について、関係するゲノム上の場所を探す | トマトで、毛の密度や代謝物に関わる場所とコナジラミ抵抗性が重なることを発見 |
| GWAS(ゲノムワイド関連解析) | 多くの品種・系統のDNAの違いと性質を照らし合わせ、関係する遺伝子を細かく特定する | イネで、茎に食い入るガの幼虫への抵抗性に関わる遺伝子OsRSSB4を特定 |
| マーカー利用育種(MAB) | 抵抗性の遺伝子の近くにあるDNAの目印を使って、苗の段階で強い株を選び出す | キャッサバで、病害虫抵抗性の育種期間を少なくとも4年短縮 |
見た目ではなく、DNAの目印で選ぶ
従来の育種では、実際に虫をつけたり病気にかけたりして、強い株を見た目で選ぶ必要がありました。これには時間も手間もかかります。マーカー利用育種では、抵抗性の遺伝子と一緒に受け継がれるDNAの目印(マーカー)を調べることで、苗の段階で強い株を見分けられます。
この方法の大きな利点は、複数の抵抗性遺伝子を1つの品種に積み重ねられることです。これは「ピラミディング」と呼ばれます。論文では、次のような例が紹介されています。
- イネの品種「Improved Samba Mahsuri」:3つの白葉枯病抵抗性遺伝子を持ち、さらにいもち病の抵抗性遺伝子などを積み重ねて改良された
- コムギ:さび病の抵抗性遺伝子を、広く栽培されている品種に組み込んだ
- オオムギ:うどんこ病や縞萎縮病への抵抗性遺伝子が活用されている
- ダイズ:複数の系統のシストセンチュウに強い品種が開発された
1つの抵抗性遺伝子だけに頼っていると、害虫や病原体が進化してその抵抗性を打ち破ってしまうことがあります。複数の遺伝子を積み重ねることで、抵抗性を長持ちさせることができるのです。
野生の仲間は「抵抗性の宝庫」
論文では、作物の野生の近縁種が、抵抗性の性質の重要な供給源であることも強調されています。栽培作物は、収量などを重視して選抜されてきた結果、遺伝的な多様性が小さくなり、もともと持っていた抵抗性の遺伝子を失っていることがあります。一方、野生の仲間には、腺毛や防御物質など、虫や病気に強い性質が残っていることが多く、それを栽培品種に取り入れる研究が進められています。
ゲノム編集やRNA干渉で、害虫対策はどう変わるの?
最新のバイオテクノロジーは、植物の抵抗性研究を大きく前進させています。論文で特に詳しく紹介されているのが、ゲノム編集とRNA干渉(RNAi)です。
CRISPR/Cas9によるゲノム編集
ゲノム編集とは、生物のDNAの特定の場所をねらって、塩基を付け加えたり、取り除いたり、置き換えたりする技術です。代表的な方法であるCRISPR/Cas9は、細菌がウイルスから身を守るしくみを応用したもので、ガイド役のRNAがDNAの目的の場所を探し、Cas9という酵素がそこを切断します。切断された部分が細胞の修復のしくみで直されるときに、遺伝子の働きを止めたり変えたりできます。
論文では、ゲノム編集を植物の抵抗性に活かす方法として、次のようなものが紹介されています。
- 病気にかかりやすくする遺伝子(感受性遺伝子)の働きを止める
- 抵抗性遺伝子やその調節因子を精密に改変し、成長への悪影響を減らす
- 植物が出す香りの構成を変え、害虫が寄主植物を見つけにくくする可能性
世界で異なるゲノム編集作物の規制
ゲノム編集作物の扱いは、国によって大きく異なります。論文によると、アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、日本では、外から遺伝子を入れずに小さな変異を起こしただけのゲノム編集植物の一部を、遺伝子組換え作物(GMO)と同じ厳しい規制の対象から外しています。一方、ヨーロッパ連合(EU)やニュージーランドは、これまですべてのゲノム編集生物をGMOとして規制してきました。ただしEUでは、2025年12月に新しいゲノム技術に関する暫定合意がまとまり、従来の品種と同等とみなされるものは手続きを簡素化する方向に動いていると紹介されています。
害虫の遺伝子だけを止める「RNA干渉」
RNA干渉(RNAi)は、二本鎖RNAという分子をきっかけに、特定の遺伝子の働きを止めるしくみです。害虫が生きるのに欠かせない遺伝子をねらって止めることで、害虫の発育を妨げたり、繁殖力を下げたり、死亡させたりできます。配列がぴったり合う遺伝子だけに効くため、ねらった害虫以外への影響が小さい、環境に優しい方法として期待されています。
論文では、次のような成果が紹介されています。
- トウモロコシ:根を食害するハムシの仲間の遺伝子を止めることで、抵抗性が高まった
- イネ:茎に食い入るガの幼虫の遺伝子を止めることで、被害を受けにくくなった
- シロイヌナズナ:アブラムシの遺伝子を止めることで、アブラムシの繁殖力が低下した
- ダイズ:ナノ素材を使ってRNAを届ける技術により、アブラムシの高い死亡率が得られた
アメリカ環境保護庁は、害虫の遺伝子を止めるRNAiを用いたトウモロコシを承認しており、RNAiはすでに実用化の段階に入っています。一方で、二本鎖RNAの安定性、害虫に届ける効率、生産コストといった課題も残っており、広く普及させるにはさらなる技術の進歩が必要だとされています。
微生物やAIは、植物の抵抗性にどう関わっているの?
根のまわりの微生物が、植物の防御スイッチを入れる

植物と一緒に暮らす微生物の集団(マイクロバイオーム)も、植物の抵抗性に深く関わっています。論文によると、有用な微生物は次のような形で植物を助けています。
- 植物全体の防御反応(誘導全身抵抗性)を引き起こす
- 防御に関わる二次代謝物の産生を高める
- 免疫反応を「準備状態」にし、養分を吸収しやすくする
- 植物のまわりの微生物の構成を、害虫にとって住みにくい環境に変える
病原菌がいても病気が出にくい「病害抑止土壌」は、根のまわりの特定の微生物の集団が、ほかの土壌にも抵抗性を移せることを示しており、微生物を活かした病害管理の土台になっていると紹介されています。最近では、目的に合わせて微生物を組み合わせた「合成微生物群集(SynComs)」を使い、植物の健康と抵抗性を高める研究も進んでいます。
さらに、トリコデルマ属菌や枯草菌(バチルス・サブチリス)などの「生物防除資材」は、病原体と競合したり、抗菌物質をつくったり、植物の防御反応を引き起こしたりすることで、病害虫を抑える環境に優しい選択肢として注目されています。根に共生して養分の吸収を助ける微生物については、菌根菌の効果と増やし方を解説した記事で詳しく紹介しています。
家庭菜園で土の中の微生物環境を意識した土づくりを試してみたい場合は、安心して食卓に野菜を届けられる液体肥料【生きてる肥料】のような、微生物を含む国産の有機液体肥料も選択肢の一つです。ただし、論文で紹介されている微生物による抵抗性の研究は特定の条件での結果であり、こうした資材を使えば植物の抵抗性が必ず高まる、というものではない点には留意してください。
AIが、強い品種探しを加速させる
人工知能(AI)も、植物の抵抗性研究を大きく変えつつあります。従来の育種で長年のボトルネック(全体の進み具合を制限する部分)だったのは、植物の性質を正確に、たくさん測ることでした。論文では、深層学習や機械学習を使った画像解析で、ブドウの葉の虫の食害を精密に数値化し、DNAのデータと組み合わせて抵抗性を正確に予測した研究が紹介されています。
AIは、重要な遺伝子の予測や、生物由来の農薬の開発、ストレスに強い作物の設計にも活用され始めています。一方で論文は、深層学習のモデルが「なぜその予測になったのか」を説明しにくい「ブラックボックス」になりがちな点を課題として挙げ、慎重な検証と透明性、分野を超えた協力が欠かせないとしています。
植物の抵抗性には、どんなメリットと課題があるの?

植物の抵抗性がもたらすメリット
論文では、植物の抵抗性を活かすことの利点として、次のような点が挙げられています。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 農薬への依存を減らせる | 植物自身の防御で被害が減るため、散布回数や使用量を減らせる。食品や環境中の農薬の残留も減る |
| 害虫の農薬抵抗性の発達を遅らせる | 農薬の使用が減ることで、農薬が効かない害虫が増えるスピードを抑えられる |
| コストを抑えられる | 資材費や人件費が下がる。特に、農薬が手に入りにくい地域や小規模農家にとって利点が大きい |
| 収量が安定する | 害虫の圧力がかかっても、収量を保ちやすい |
| 天敵を守れる | 殺虫剤の使用が減ることで、テントウムシや寄生バチなどの天敵の数を維持しやすい |
| 気候変動への備えになる | 新たに現れる病害虫に対して、作物の強さを保つ助けになる |
植物の抵抗性が抱える課題
一方で、論文は植物の抵抗性の限界や課題についても率直に述べています。
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 抵抗性が打ち破られる | 害虫や病原体は、突然変異や遺伝子の組み換えで速く進化する。たとえば、さび病菌やアブラムシは、広く使われた抵抗性遺伝子を何度も打ち破ってきた |
| 成長や収量とのトレードオフ | 防御にエネルギーを使う分、病気がない環境では、抵抗性を持つ株の育ちや収量が少し落ちることがある |
| 多くの遺伝子が関わる抵抗性は扱いにくい | 環境の影響を受けやすく、効果の小さい遺伝子が多数関わるため、育種が難しい |
| 抵抗性の遺伝子が見つからない病気もある | バナナのパナマ病(新系統トロピカルレース4)や、カンキツのグリーニング病(HLB)のように、野生の仲間にも抵抗性遺伝子が見つかっていない例がある |
特に興味深いのが、成長とのトレードオフの話です。論文によると、抵抗性遺伝子の「代償」はいつでも生じるわけではなく、環境によって大きく変わります。病原体がいない環境では抵抗性を持つ株の収量が少し下がることがあっても、病気が出る環境では、抵抗性を持たない株より良い成績を示すことが多く、その代償を補って余りあるとされています。そのため最近の育種では、必要なときや必要な組織でだけ防御が働くように工夫するなど、防御と成長のバランスをとる研究が進められています。
こうした課題への対策として、論文では、作用のしかたが異なる複数の抵抗性遺伝子を積み重ねること、抵抗性の異なる品種を混ぜて植えたり交互に植えたりすること、天敵などの生物的防除と組み合わせることが挙げられています。また、混作や輪作によって作物の多様性を高めることも、病害虫の発生を抑える方法として紹介されています。
家庭菜園で植物の抵抗性を活かすには?

論文は研究者向けの総説ですが、その内容からは、家庭菜園でも役立つヒントがいくつも読み取れます。ここでは、植物の抵抗性を活かすための実践的なポイントを紹介します。
1. 「〇〇に強い」品種を選ぶ
種袋や苗のラベルに「うどんこ病に強い」「耐病性」「〇〇抵抗性」などと書かれた品種は、今回紹介したような抵抗性を持つよう選び抜かれてきたものです。毎年同じ病気や害虫に悩まされている野菜があれば、まずは品種選びを見直してみるのがおすすめです。
ただし、論文でも指摘されているとおり、抵抗性は「絶対にかからない」という意味ではありません。害虫や病原体の系統によっては効かないこともあるので、抵抗性品種でも日々の観察は欠かせません。
2. 天敵を減らしすぎない
植物が香りで天敵を呼べても、肝心の天敵が周りにいなければ、そのSOSは届きません。殺虫剤を広範囲に何度も散布すると、テントウムシや寄生バチなどの「援軍」まで減らしてしまいます。
農薬を使う場合は、害虫が発生している株や部分に絞って使うなど、天敵への影響を小さくする工夫が大切です。農研機構は、地域にもともといる天敵(土着天敵)を活かす害虫管理について、土着天敵を活用する害虫管理の技術集と事例集を公開しています。
3. いろいろな植物を混ぜて植える
周りの植生によって害虫が寄りつきにくくなる「連合抵抗性」や、作物の多様性が病害虫を抑えるという論文の指摘は、家庭菜園での混植(コンパニオンプランツ)の考え方にも通じます。花を咲かせる植物やハーブを畝の端に植えておくと、天敵のすみかや餌場になることが期待できます。
4. 苗のうちは特にこまめに観察する
「食べられても立ち直る」耐性の力は、株が大きく育つほど強くなる傾向があります。逆に言えば、植え付け直後の小さな苗は、被害から立ち直る体力がまだ十分ではありません。苗の時期は、葉の裏をこまめにチェックし、防虫ネットなどで物理的に守ってあげるのが安心です。
5. 土づくりで根のまわりの微生物を育てる
根のまわりの有用な微生物は、植物の防御スイッチを入れる手助けをしています。堆肥などの有機物を入れて土の中の微生物を豊かにすることは、植物本来の力を引き出す土台づくりにつながります。
6. 肥料の与えすぎに気をつける
植物は、防御と成長のバランスをとりながら生きています。肥料、特に窒素が多すぎると、葉ばかりが茂ってやわらかくなり、害虫や病気が増えやすくなることがあります。肥料と病気の関係については、キュウリの病気と肥料の濃さの関係を紹介した記事も参考になります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 抵抗性のある品種なら、農薬はまったく必要ありませんか?
必ずしもそうとは言えません。抵抗性は被害を受けにくくする性質であって、「絶対に被害を受けない」という意味ではありません。論文でも、害虫や病原体が進化して抵抗性を打ち破ることがあると指摘されています。抵抗性品種を土台にしながら、観察や物理的な防除、必要に応じた農薬の使用などを組み合わせるIPMの考え方で管理するのが基本です。
Q2. 植物が香りで天敵を呼ぶなら、家庭菜園でも天敵が集まってきますか?
周りに天敵がすんでいれば、集まってくることが期待できます。ただし、天敵が少ない環境や、殺虫剤を頻繁に使っている環境では、植物が香りのSOSを出しても応えてくれる天敵がいません。花やハーブを植えて天敵のすみかをつくる、殺虫剤を使う範囲を絞るといった工夫で、天敵が暮らしやすい環境を整えることが大切です。
Q3. ゲノム編集でつくられた作物は、遺伝子組換え作物と同じですか?
論文によると、国によって扱いが異なります。日本やアメリカなどでは、外から遺伝子を入れずに小さな変異を起こしただけのゲノム編集作物の一部を、遺伝子組換え作物と同じ規制の対象から外しています。一方、EUなどはこれまで遺伝子組換え作物と同じように規制してきましたが、制度の見直しが進んでいると紹介されています。
Q4. トライコーム(毛)が多い品種のほうが、虫に強いのですか?
論文では、トライコームの密度が高いことで害虫の寄生が減る例(ダイズやトマトなど)が紹介されています。ただし、虫への強さはトライコームだけで決まるものではなく、化学的な防御や耐性など、ほかのしくみとの組み合わせで決まります。また、作物や害虫の種類によっても効果は異なるため、「毛が多い=必ず強い」とは限りません。
まとめ:植物の抵抗性を知ると、害虫対策の見え方が変わる
植物の抵抗性とは、植物が害虫や病気から身を守るために持っている性質のことです。本記事で紹介したポイントを振り返ります。
- 植物の抵抗性には、いつも備わっている「恒常的抵抗性」、攻撃を受けてから働く「誘導抵抗性」、病原体を見分ける「遺伝的抵抗性」がある
- 植物の免疫は、共通の目印で敵を見つけるPTIと、特定の病原体を見つけるETIの2段構えになっている
- 害虫に強い品種は、「寄せつけない(アンチゼノーシス)」「弱らせる(アンチバイオーシス)」「立ち直る(耐性)」の3つのしくみを組み合わせている
- 食べられた植物は香りで天敵を呼び寄せ、周りの植物にも危険を知らせる
- DNAマーカーを使った育種、ゲノム編集、RNA干渉、微生物の活用、AIといった技術で、抵抗性品種の開発が進んでいる
- 一方で、害虫や病原体の進化、成長とのトレードオフなどの課題もあり、複数の方法を組み合わせるIPMの考え方が大切
家庭菜園では、強い品種を選ぶこと、天敵を減らしすぎないこと、苗のうちの見守り、土づくりといった日々の工夫が、植物本来の力を引き出すことにつながります。次に野菜を育てるときは、ぜひ植物の「見えない防御力」にも目を向けてみてください。
参考文献
- Kumaraswamy, S. & Huang, Y. (2026). Plant resistance: scientific basis and latest research progress. Frontiers in Plant Science, 17, 1789793. https://doi.org/10.3389/fpls.2026.1789793
- 農林水産省 消費・安全局 植物防疫課「総合防除(IPM)の推進について」 https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/g_ipm/
- 農研機構「土着天敵を活用する害虫管理 最新技術集/土着天敵を活用する害虫管理技術 事例集」 https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/069415.html
本記事の図表は、参照論文の図を転載したものではなく、論文の内容をもとに著者が整理したものです。


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