
家庭菜園やプランター栽培をしていると、ある日突然、新芽にびっしりとアブラムシがついていて青ざめた経験がある方は多いのではないでしょうか。実は近年の研究で、自然界にはアブラムシを内側から弱らせて死に至らしめる「アブラムシを殺す細菌」が、想像以上に幅広く存在することが分かってきました。2026年にFrontiers in Microbiology誌で発表された総説論文では、こうした細菌の多様性・由来・攻撃方法・生物的防除への応用可能性が、これまでの研究をもとに整理されています。この記事では、その内容を、専門的な論文を読み慣れていない方にも分かるように、かみくだいて紹介します。
論文をまとめたのは、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)の研究チームです。アブラムシに関する既存の研究を幅広く調べ、アブラムシを殺す細菌の分類群・生態的な起源・作用の仕組み・実際の防除効果、そして実用化に向けた課題までを1本の総説として整理しています。化学殺虫剤に頼りすぎない害虫対策に関心がある方にとって、示唆に富む内容です。
この記事で分かること
- アブラムシを殺す細菌とは、どのような存在なのか
- なぜ今、こうした細菌が注目されているのか
- 細菌がアブラムシを攻撃する5つの仕組み
- 実験や温室試験で、どのくらいの効果が確認されているのか
- 化学殺虫剤や天敵の虫(寄生蜂・捕食者)と比べた場合の長所・短所
- 実用化に向けて残っている課題と、家庭菜園に活かせるヒント
なお、この記事は論文の内容を紹介するものであり、特定の商品や薬剤の効果を保証するものではありません。実際の防除にあたっては、登録のある農薬や資材を、ラベルの表示に従って使用してください。
アブラムシ 天敵 細菌とは?
アブラムシ 天敵 細菌とは、植物の葉の表面やアブラムシ自身の体内にすみつき、アブラムシに感染して死亡させたり、著しく弱らせたりする細菌の総称です。てんとう虫や寄生蜂のような「目に見える天敵」とは違い、肉眼では見えないほど小さな微生物でありながら、アブラムシの生存や繁殖に大きな影響を与えることが、近年の研究で次々と報告されています。
論文によると、こうした細菌はグラム陽性・グラム陰性の両方にまたがり、バチルス属、パントエア属、エルウィニア属、ディケヤ属、シュードモナス属など、非常に幅広い分類群に見つかっています。共通しているのは、経口摂取(アブラムシが吸汁の際に取り込む)または接触によって感染が成立し、多くの場合1〜3日という短い期間で、アブラムシの死亡や著しい個体数の減少を引き起こす点です。
アブラムシは、農作物の収量に直接的・間接的なダメージを与える世界的な害虫です。吸汁による被害に加え、ウイルスを媒介したり、排せつ物(甘露)にすす病菌が繁殖して光合成を妨げたりすることもあり、世界全体での経済的損失は年間数千万から数十億ユーロ規模にのぼるとされています。イギリス国内だけでも、穀物へのアブラムシ被害額は年間6,000万〜1億2,000万ポンド相当と試算されており、決して軽視できない存在です。アブラムシそのものの生態や発生しやすい条件については、アブラムシの生態と発生する原因、対策について紹介でも詳しく解説しています。
なぜ今、アブラムシを殺す細菌が注目されているのか
これまでのアブラムシ対策は、長年にわたり化学殺虫剤が中心でした。導入当初は高い効果を発揮したものの、使用が広がるにつれてアブラムシ側が薬剤への抵抗性を獲得する事例が増えています。加えて、欧州連合(EU)をはじめとする各地域で農薬に対する規制が年々厳しくなっており、化学的な資材の投入量を減らしながら効果的な防除を目指す「総合的病害虫管理(IPM)」への転換が進められています。
IPMの中で近年注目されているのが、微生物を利用した防除資材です。中でも昆虫病原性の糸状菌(カビの仲間)や細菌は、特定の害虫にしか作用しにくい高い特異性、環境への負荷の小ささ、そして農地で自己増殖・持続できる可能性から、化学農薬に代わる選択肢として期待されています。
ただし、アブラムシに対してはこれまで「細菌はあまり効かない」というのが定説でした。理由は大きく2つあります。1つは、アブラムシが「刺して吸う」という独特の摂食方法をとるため、植物の表面に散布された細菌や毒素を口から取り込みにくいこと。もう1つは、これまで害虫防除用の細菌として最も研究・利用が進んできたバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis、通称BT菌)の殺虫性たんぱく質(CytやCryと呼ばれる毒素)が、アブラムシを含む半翅目(カメムシの仲間)の昆虫に対してはあまり効果を示さなかったためです。
しかし近年、この常識を覆す研究が相次いでいます。論文によれば、アブラムシは実は驚くほど幅広い種類の環境細菌に対して弱さを見せることが、複数の研究グループによって報告されるようになってきました。これらの細菌の多くは、従来型の「昆虫病原体」ではなく、むしろ植物の葉の表面(フィロスフィア)に暮らす微生物や、アブラムシ自身に付随する微生物に由来しています。こうした発見の積み重ねが、アブラムシに対する新しい生物的防除の可能性を切り開きつつあるのです。
アブラムシを殺す細菌には、どんな種類がいる?
論文では、これまでに報告されているアブラムシ殺傷性の細菌が、複数の科にわたって整理されています。代表的なものを、論文中の実験データとあわせて一部抜粋すると、以下のようになります。
| 細菌の仲間(科・属) | 代表的な菌 | 実験での効果の例 |
|---|---|---|
| バチルス科(Bacillus属) | バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・プミルス、バチルス・ズブチリス | ハチミツ由来株を経口投与した実験で、モモアカアブラムシの死亡率100% |
| エルウィニア科(Erwinia属・Pantoea属) | エルウィニア・アフィディコラ、パントエア・アグロメランス | エンドウヒゲナガアブラムシの腸から分離された株で、死亡率81〜100% |
| ペクトバクテリウム科(Dickeya属) | ディケヤ・ダダンティイ | エンドウヒゲナガアブラムシへの経口投与で死亡率100%(Cyt様毒素による) |
| シュードモナス科(Pseudomonas属) | シュードモナス・フルオレセンスPpR24株、シュードモナス・シリンゲ | 複数のアブラムシ種で死亡率57〜100%、殺虫剤抵抗性系統にも有効との報告あり |
| 腸内細菌科(Enterobacter属) | エンテロバクター・シアンファンゲンシス | 6種のアブラムシに対して死亡率20〜67% |
※効果(%)は、いずれも論文で引用されている個別の実験(人工飼料を用いた摂食試験や塗布試験など)での数値であり、実際の圃場での効果を保証するものではありません。
これらの表からも分かるように、細菌の「腕前」はかなりばらつきがあります。同じシュードモナス属の細菌でも、株が違えば効果はまったく異なりますし、アブラムシの種類によっても効きやすさに差が出ます。この点は、家庭菜園での資材選びを考えるうえでも、頭の片隅に置いておきたいポイントです。

細菌はどこからやってくる?①植物の葉(フィロスフィア)育ちのタイプ
論文が指摘する興味深い点の一つが、アブラムシを殺す細菌の「出身地」が、大きく2つのタイプに分かれるということです。
1つ目は、植物の葉の表面(フィロスフィア)に暮らす着生性の微生物に由来するタイプです。ディケヤ・ダダンティイ、パントエア・アグロメランス、パントエア・ステワルティイ、シュードモナス・シリンゲなど、その多くはもともと植物病原菌、あるいは日和見的な植物病原菌として知られています。
フィロスフィアは、栄養が乏しく、紫外線や乾燥・湿度の変動にさらされる、細菌にとって決して楽ではない環境です。こうした植物病原細菌にとって、アブラムシは急速な増殖と分散を可能にしてくれる、一時的な「乗り物」のような存在になっていると考えられています。アブラムシが吸汁する際、これらの細菌は植物表面から取り込まれ、消化管内で大量に増殖したのち、甘露(アブラムシの排せつ物)として同じ株や別の株の葉の上に、濃縮された状態で再びまき散らされます。葉に戻った細菌は、甘露に含まれる糖分を利用して他の微生物より優位に立ち、さらに増殖とアブラムシ殺傷活性を高めていく、という循環が起きているというわけです。
アブラムシを殺しながらも、アブラムシを利用して分散するというのは一見矛盾しているように思えますが、論文はこれを「病原性と伝播のトレードオフ理論」という進化生物学の考え方で説明しています。宿主が死ぬ前に急速に増えて効率よく伝播できるのであれば、多少宿主に負担をかけてでも高い病原性(毒力)を持つ方が、細菌にとっては有利になるというわけです。さらに、多くのアブラムシ殺傷細菌は、昆虫とは独立して葉の上だけで生き延びる「環境貯蔵庫」的な段階も維持しており、風や雨、他の昆虫による媒介によって畑全体に広がっていくことも報告されています。
細菌はどこからやってくる?②アブラムシの体の中育ちのタイプ
もう1つのタイプは、もともとアブラムシの腸内や体内に暮らしている細菌に由来するものです。アブラムシに対する病原性が最初に報告された細菌は、健康なエンドウヒゲナガアブラムシの腸から分離されたエルウィニア・アフィディコラでした。無菌状態で飼育されたアブラムシに人工飼料を通じてこの菌を与えたところ、死亡が引き起こされたのです。研究者らは、腸内での高密度な定着や、競合する他の腸内細菌の不在、あるいは宿主のストレスなどが引き金となって、本来はただ同居しているだけの細菌が、病原体としての性質を発揮するようになるのではないかと考察しています。
さらに興味深いのは、本来はアブラムシを助ける存在として知られる共生細菌までもが、アブラムシを死なせてしまう場合があるという報告です。セラチア・シンビオティカは、環境ストレスへのアブラムシの耐性を高める通性共生細菌として知られていますが、一部の系統は経口曝露後にアブラムシの死亡を引き起こすことが示されています。このセラチア・シンビオティカは、幅広い昆虫病原性で知られるセラチア・マルセッセンスという細菌と系統的に近縁であることも分かっており、宿主と微生物の関係における、ほんのわずかな違いが「味方」と「敵」を分けてしまう可能性を示しています。

細菌はアブラムシをどうやって殺すのか?5つの攻撃パターン
論文では、アブラムシを殺す細菌の作用機序(攻撃の仕組み)を、部分的に重なり合う5つのパターンに整理しています。単純に「毒を出して終わり」ではなく、複数の仕組みが組み合わさって働いているケースが多いことが特徴です。
- 直接的な細胞毒性:細菌が出す毒素が、アブラムシの腸の細胞膜に穴を開けたり、破壊したりする攻撃です。ディケヤ・ダダンティイが産生するCyt様毒素は、腸の上皮に損傷を与え、細菌のさらなる侵入を助けることが分かっています。
- 腸内定着と敗血症:腸に定着した細菌が、体液(血リンパ)の中にまで侵入し、コントロールが効かないほど全身で増殖してしまうパターンです。腸から体内へ細菌が移行し、最終的に敗血症によって死に至ります。
- 代謝の破綻と酸化ストレス:感染によって活性酸素種(ROS)が過剰に作られ、解毒や代謝に関わる仕組みが乱れてしまうパターンです。トランスクリプトーム解析(遺伝子の発現パターンを調べる手法)では、感染したアブラムシで代謝関連の遺伝子発現に大きな変化が起きていることが確認されています。
- 共生細菌を標的とした撹乱:アブラムシは、体内に共生する必須の細菌「ブフネラ」から、植物の師管液だけでは不足する必須アミノ酸を供給してもらって生きています。このブフネラの働きが妨げられると、アブラムシは栄養不足で弱ってしまいます。バチルス・チューリンゲンシス由来のある毒素は、ブフネラの代謝に関わる酵素に結合し、その機能を阻害することでアブラムシを死に至らしめると報告されています。
- 物理的な閉塞:細菌が腸の中で凝集して塊を作り、物理的に通り道をふさいでしまうパターンです。パントエア・ステワルティイが作るたんぱく質は、アブラムシの腸内で細菌どうしの凝集を促し、摂食障害や飢餓による死を引き起こすことが報告されています。
これらの攻撃パターンは、単独ではなく組み合わさって働くことが多いとされています。例えば、細胞毒性によって腸にダメージを与えつつ、そこから体内に侵入して敗血症を引き起こし、同時に代謝の混乱も重なる、といった「多重攻撃」によって、アブラムシは複数の方向から追い詰められていくというわけです。

どのくらいの効果があるのか?実験データで見る威力
論文で紹介されている実験データを見ると、細菌の殺傷力の高さがうかがえます。アブラムシは、細菌性の病原体に対する防御に重要ないくつかの遺伝子を欠いているとされ、そのために幅広い細菌グループに対して感受性が高いと考えられています。
最も強い効果が確認されているのは、塗布よりも経口摂取(人工飼料に細菌を混ぜて食べさせる方式)による実験です。細菌懸濁液を含む人工飼料での摂食試験では、2〜3日以内に死亡率が最大100%に達することも珍しくありません。ただし、効果を出すためには、一般的にアブラムシ1個体あたり約100万個体(10の6乗個)程度の細菌濃度が必要になるとされ、ごく少量の細菌が付着しただけで死んでしまうわけではない点には注意が必要です。
特に注目されているのが、パプリカ(Capsicum annuum)などの植物から分離されたシュードモナス・フルオレセンスの「PpR24株」です。人工飼料を用いた実験では、摂取から72時間以内に、複数のアブラムシ種に対して次のような死亡率が確認されています。
| 対象アブラムシ | 死亡率 |
|---|---|
| モモアカアブラムシ(Myzus persicae) | 100% |
| ソラマメを好むアブラムシ(Aphis fabae) | 100% |
| ジャガイモヒゲナガアブラムシ(Aulacorthum solani) | 100% |
| レタスに付くアブラムシ(Nasonovia ribisnigri) | 100% |
| ルーピンに付くアブラムシ(Macrosiphum albifrons) | 83% |
| アブラナ科に付くアブラムシ(Brevicoryne brassicae) | 100% |
ほとんどの種類でほぼ全滅に近い結果となっている一方で、1種類だけやや効きにくい相手がいる点も見逃せません。さらに興味深いのは、このPpR24株が、殺虫剤への感受性が高い系統だけでなく、殺虫剤抵抗性を獲得したアブラムシの系統に対しても有効だったと報告されている点です。薬剤抵抗性の広がりに悩む現場にとって、これは注目すべきポイントといえるでしょう。なお、このPpR24株はシロイヌナズナのほか、ピーマンの仲間であるトウガラシ(Capsicum annuum)の葉に散布する実験でも使われています。家庭菜園で育てる機会の多いピーマンにつくアブラムシについては、【ピーマンの大敵その④】アブラムシ類が発生する原因と対策について紹介でも詳しく取り上げています。
論文はまた、この幅広い病原性が、アブラムシ以外の吸汁性の半翅目昆虫にも及ぶ可能性を示唆しています。例えば、特定のシュードモナス・シリンゲ株に曝露されたタバココナジラミ(Bemisia tabaci)は、エンドウヒゲナガアブラムシと同程度の死亡率を示したと報告されています。ただし、この傾向を他の種にも当てはめられるかどうかは、今後の研究課題とされています。コナジラミ類の生態については、【トマトの大敵その⑥】オンシツコナジラミが発生する原因と対策について紹介もあわせてご覧ください。
温室での実証試験ではどうだったのか?
実験室での高い効果が、実際の栽培現場でも再現されるかどうかは、また別の問題です。論文では、温室で行われた実証試験の例も紹介されています。
キュウリを使った試験では、すでにワタアブラムシ(Aphis gossypii)が発生している温室栽培のキュウリに対し、バチルス・プミルスとバチルス・ズブチリスという2種類の細菌を、単独または組み合わせて治療的に散布しました。その結果、散布9日後の生存アブラムシ数は、無処理の対照区と比べて平均26%減少しました。ワタアブラムシはキュウリだけでなくナスにもよく発生する害虫で、それぞれの発生条件や見分け方は、【キュウリの大敵その④】ワタアブラムシが発生する原因と対策について紹介や【ナスの大敵その②】ワタアブラムシが発生する原因と対策について紹介で詳しく紹介しています。
同様に、トマトを使った試験では、ジャガイモヒゲナガアブラムシ(Aulacorthum solani、別名キツネノテブクロアブラムシ)が発生した温室栽培のトマトに同じ細菌処理を施したところ、散布9日後の累積死亡率は、対照区より有意に高く、43〜46%に達したと報告されています。
劇的に全滅させるというほどの効果ではありませんが、すでにアブラムシが発生してしまった株に後から散布しても、はっきりとした効果が確認されている点は注目に値します。また、論文によれば、アブラムシを殺す細菌は葉の表面で1平方センチメートルあたり10万〜100万個体(10の5〜6乗CFU)程度の密度を数週間にわたって維持できるとされており、治療的な用途だけでなく、予防的に散布しておくという使い方の可能性も示唆されています。ただし、この予防的な使い方の効果は、まだ実際の圃場条件下で十分に検証されていない段階です。

化学殺虫剤・天敵の虫と比べてどう違うのか?
アブラムシを殺す細菌は、既存の防除手段と比べてどのような位置づけになるのでしょうか。論文では、化学殺虫剤・天敵(寄生蜂や捕食者)・アブラムシ殺傷細菌の3つを、複数の観点から比較しています。
| 比較項目 | 化学殺虫剤 | 天敵(寄生蜂・捕食者) | アブラムシ殺傷細菌 |
|---|---|---|---|
| 死亡までの時間 | 有効成分によるが即効性〜短時間 | 捕食者は即効的、寄生蜂は最大1〜2週間かかることも | 条件がそろえば比較的短時間(1〜3日) |
| 効果の大きさ | 高く、個体群をほぼ完全に抑えられる | 好条件下では高いが、環境や餌の有無に左右されやすい | 実験室では高いが、温室・圃場では部分的な減少にとどまりやすい |
| 抵抗性発達のリスク | 非常に高い(頻繁に抵抗性が生じる) | 非常に低い | 複数の仕組みで攻撃するためおそらく低いが、長期データはまだ少ない |
| 対象の広さ(特異性) | 広範囲に効き、有益な昆虫にも影響しうる | 寄生蜂は特異性が高い、捕食者はやや広食性 | 比較的高い特異性があるとされるが、非標的生物への影響はさらに検証が必要 |
| 環境への影響 | 環境汚染や有益昆虫への被害が懸念される場合がある | 環境に優しく非標的への影響は最小限 | おそらく環境に優しいが、さらなる研究が必要 |
| 持続性 | 短命で繰り返しの散布が必要になりやすい | 天敵の個体群が維持される限り持続 | 葉の表面で数日〜数週間持続する可能性 |
表からも分かるとおり、アブラムシ殺傷細菌は「化学殺虫剤ほど即効性はないが、天敵の虫よりも速く効きやすく、抵抗性のリスクが比較的低い」という、ちょうど中間的な立ち位置にいる資材だといえそうです。ただし、論文はこの表について「現時点での知見に基づく相対的な比較であり、長期的な圃場データの蓄積が今後さらに必要」だとも述べています。
なお、こうした微生物由来の防除資材への注目は、アブラムシに限った動きではありません。海洋由来の微生物が作る化合物を天然農薬として活用する研究など、化学農薬に頼らない防除の選択肢は他の分野でも広がりつつあります。関心のある方は、海洋微生物由来の天然農薬とは?126種の化合物からわかった効果と仕組みもあわせてご覧ください。
実用化にはどんな課題が残っているのか?
有望な結果が報告されている一方で、論文はアブラムシ殺傷細菌の実用化に向けて、いくつもの課題が残っていることも率直に指摘しています。
圃場での効果データがまだ少ない:現時点では、実際の栽培条件下でアブラムシ殺傷細菌の効果を評価した温室試験・圃場試験のデータそのものが限られています。用量、施用方法、施用のタイミングなど、実用化に向けた最適化はこれからの課題です。
抵抗性発達のリスクがゼロではない:複数の仕組みで攻撃するため抵抗性は生じにくいと考えられていますが、細菌毒素による強い選択圧が抵抗性の発達を促す可能性も指摘されています。実際、集中的な使用下でいくつかの鱗翅目害虫がバチルス・チューリンゲンシスの毒素に対する抵抗性を獲得した例があり、油断はできません。
アブラムシ側にも「防御策」がある:アブラムシに付随する微生物叢が、細菌感染への耐性に影響を与える可能性が指摘されているほか、アブラムシ殺傷性のシュードモナス属細菌が発する紫外線由来の蛍光を、アブラムシが視覚的な手がかりとして感知し、定着した葉での吸汁を避けている可能性も報告されています。
製剤化と施用方法の工夫が必要:細菌の保存性を高め、乾燥や紫外線から細胞を保護し、葉面への付着性を高める製剤化技術が、実用化の成否を左右するとされています。特定の栄養源や界面活性剤、保護担体などの添加が、持続性と効果の向上につながる可能性があると論文は述べています。
安全性の確認がまだ十分ではない:アブラムシ殺傷細菌の中には、ディケヤ属、パントエア属、シュードモナス・シリンゲのように、植物病原菌として知られる仲間を含むグループもあります。同じグループでも株によって性質が大きく異なるため、防除資材として利用する際には、種だけでなく株のレベルまで正確に見極める必要があるとされています。これまでのところ植物への害(フィトトキシシティ)は報告されておらず、ミツバチの幼虫を用いた予備的な実験でも目立った悪影響は確認されていませんが、送粉者や天敵といった非標的の昆虫への影響は、引き続き調査が必要な段階です。加えて、細菌が持つ毒素や病原性に関わる遺伝子が、葉の上の他の微生物へ水平伝播する可能性についても、慎重なリスク評価が求められています。
こうした課題を踏まえ、論文は「アブラムシ殺傷細菌は、化学的・生物的・耕種的な防除と組み合わせながら、既存のIPMプログラムを補完する形で導入されるべきだ」と結論づけています。単独の“魔法の弾丸”としてではなく、複数の防除手段を組み合わせた総合的な管理の一部として位置づけることが、実用化への近道だといえそうです。
なお、化学農薬の使用量を減らしながら病害虫を管理するというIPMの考え方は、欧州連合(EU)の農薬の持続的な利用に関する政策(EUの農薬の持続可能な利用に関する枠組み)でも推進されており、今回の論文が示すような微生物由来の防除資材への期待は、こうした政策的な後押しとも重なっています。家庭での防除の基本的な考え方については、UC IPM(カリフォルニア大学の総合的病害虫管理プログラム)によるアブラムシ対策の解説も参考になります。

家庭菜園・農業の現場にどう活かせるのか?
ここまで紹介してきた内容は、基礎研究や小規模な実証試験の段階のものが中心で、家庭菜園向けの市販資材として、すぐに手に入るわけではありません。それでも、論文の内容からは、栽培の現場に持ち帰れるヒントがいくつか見えてきます。
- アブラムシは複数の細菌に対して幅広く弱さを見せる一方、細菌の種類やアブラムシの種類によって効果に差があります。1種類の資材だけに頼らず、他の対策と組み合わせる発想が大切です。
- 治療的な散布でも、散布から1週間程度で一定の効果が確認されています。「もうアブラムシがついてしまったから手遅れ」と諦める前に、早期発見・早期対応を心がけることに意味があります。
- 細菌は葉の表面で数週間持続する可能性があるとされており、将来的には予防的な使い方も期待されています。ただし、これは現時点では研究段階の話であり、実際の商品化にあたっては安全性の検証が前提になります。
- アブラムシは作物の種類を問わず発生する害虫です。キュウリ・ナス・ピーマン・トマトだけでなく、トウモロコシにつくムギクビレアブラムシのように、作物ごとに発生しやすい種類が異なります。詳しくは【トウモロコシの大敵その④】ムギクビレアブラムシが発生する原因と対策について紹介でも紹介していますので、育てている作物に合わせて確認してみてください。

よくある質問(Q&A)
Q1. アブラムシを殺す細菌は、もう市販の農薬として買えますか?
論文で紹介されている細菌の多くは、まだ研究段階または小規模な実証試験の段階にあり、家庭菜園向けの一般的な市販農薬として広く流通しているわけではありません。すでに登録・実用化されている生物農薬もありますが、それらはバチルス・チューリンゲンシスのように、もともとチョウ目害虫向けに開発されたものが中心です。アブラムシに特化した細菌製剤については、論文の時点ではまだ実用化に向けた研究途上とされています。実際に資材を選ぶ際は、国内で登録のある製品かどうかを必ず確認してください。
Q2. こうした細菌は、人やペット、ミツバチなどの益虫に害はありませんか?
論文の時点では、アブラムシ殺傷細菌による植物への害(フィトトキシシティ)は報告されておらず、ミツバチの幼虫を用いた予備的な実験でも目立った悪影響は確認されていません。ただし、これは限られた実験の結果であり、送粉者や天敵といった非標的の昆虫全般への影響については、今後さらなる調査が必要と論文自身が述べています。人やペットへの影響を直接検証したデータは、この論文の範囲では紹介されていません。安全性が十分に確認され、登録された資材以外は、家庭で自己判断で使用しないようにしましょう。
Q3. 家庭菜園で、今すぐ実践できることはありますか?
この論文で紹介されている細菌そのものを今すぐ手に入れて使う、ということは難しいのが実情です。ただし、論文が指摘するように、単一の対策に頼らず複数の防除手段を組み合わせるというIPMの考え方は、家庭菜園でもすぐに実践できます。早期発見・早期対応を心がけ、風通しのよい環境を保ち、天敵となる虫(てんとう虫など)が活動しやすい環境をつくることも、有効な選択肢の一つです。アブラムシの基本的な見分け方や対策については、アブラムシの生態と発生する原因、対策について紹介もあわせて参考にしてください。
まとめ:アブラムシ 天敵 細菌の要点
- アブラムシを殺す細菌とは、植物の葉の表面やアブラムシの体内にすみつき、感染や毒素によってアブラムシを死亡・衰弱させる、幅広い分類群の細菌の総称
- 由来は大きく2つに分かれ、植物の葉に暮らす着生性の細菌に由来するタイプと、アブラムシ自身の腸や共生細菌に由来するタイプがある
- 攻撃の仕組みは、直接的な細胞毒性、腸内定着と敗血症、代謝の破綻と酸化ストレス、共生細菌への攻撃、物理的な閉塞という5パターンに整理される
- 実験室での試験では死亡率が100%に達することもあり、温室試験でも治療的な散布で一定の効果(キュウリで平均26%減、トマトで死亡率43〜46%)が確認されている
- 化学殺虫剤ほどの即効性はないものの、天敵の虫よりも速く効きやすく、抵抗性のリスクが比較的低いとされる
- 圃場データの不足、安全性評価、製剤化技術の確立など、実用化にはまだ課題が残っている
アブラムシを退治してくれるのは、殺虫剤や天敵の虫だけではありませんでした。葉っぱの上や、アブラムシ自身の体の中では、私たちの目には見えない細菌たちの静かな攻防が繰り広げられており、その一部はすでに温室栽培での防除効果まで確認され始めています。まだ研究段階の部分も多く残されていますが、化学農薬だけに頼らない選択肢が少しずつ現実味を帯びてきていることは、覚えておいて損はなさそうです。次にプランターや畑のアブラムシを見かけたときは、「この葉の上でも、見えない攻防が起きているのかもしれない」と、少し違った目で眺めてみてはいかがでしょうか。
参考文献
- Berings, L.; Rojas-Preciado, N.; Poppelsdorf, W.; Van Hee, S.; Jacquemyn, H.; Lievens, B. Aphid-killing bacteria: diversity, origin, mechanisms and biocontrol potential. Frontiers in Microbiology 2026, 17, 1805793. https://doi.org/10.3389/fmicb.2026.1805793
- European Commission. Sustainable use of pesticides. https://food.ec.europa.eu/plants/pesticides/sustainable-use-pesticides_en
- UC Statewide IPM Program (UC IPM). Aphids / Home and Landscape. https://ipm.ucanr.edu/home-and-landscape/aphids/
(記事本文中の(〇〇ら、年)に相当する記述は、上記1の総説論文の参考文献リストに掲載されている個別の研究を、論文の記述に基づいて紹介したものです。)


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