
光合成速度とは、植物の葉が一定の時間に、一定の面積あたりでどれだけの二酸化炭素(CO2)を取り込んでいるかを表す「光合成の速さ」のことです。光合成速度は光の強さ、CO2濃度、温度、湿度といった環境によって大きく変わり、野菜の生育や収量を左右します。ただし、農研機構の研究者の資料では、収量を増やすうえで大切なのは、1枚の葉の光合成速度を最大にすることよりも、畑やハウス全体として「どれだけ多くの光を葉で受け止められるか」だと説明されています。
本記事では、農研機構(国の農業研究機関)の講義資料、神奈川県の環境制御マニュアル、測定機器メーカーのLI-COR社の技術解説、アメリカ・ユタ州立大学の研究者の資料をもとに、光合成速度の基本から、光・CO2・温度・湿度との関係、そして家庭菜園やハウス栽培での活かし方までを、できるだけ専門用語をかみ砕いて解説します。
光合成速度とは?
光合成とは、植物が光のエネルギーを使って、空気中のCO2と根から吸い上げた水から、糖などの養分をつくるはたらきです。このはたらきがどのくらいの勢いで進んでいるかを数字で表したものが、光合成速度です。
植物の研究では、光合成速度は「1秒間に、葉の面積1平方メートルあたり、何マイクロモルのCO2を取り込んだか」という形で表すのが一般的です。単位は次のように書きます。
- 光合成速度の単位:μmol CO2 m⁻² s⁻¹(マイクロモル・シーオーツー・パー・平方メートル・パー・秒)
「マイクロモル」は、分子の数を数えるための単位です。数字の意味を細かく覚える必要はありませんが、「葉の広さと時間をそろえたうえで、CO2を取り込む量を比べている」と理解しておくと、ほかの資料を読むときにも役立ちます。
光合成速度が「速い」ということは、同じ時間・同じ葉の広さで、より多くの養分をつくれるということです。反対に、光が足りない、CO2が薄い、暑すぎる、乾燥して葉の気孔(CO2の出入り口になる小さな穴)が閉じている、といった状態では、光合成速度は下がります。野菜づくりで環境を整えることは、突き詰めると「光合成が進みやすい条件をつくること」だと言い換えることもできます。
光合成そのものの仕組みや、地球全体で果たしている役割については、光合成が止まったら地球はどうなるのかを解説した記事で詳しく紹介しています。
純光合成速度と総光合成速度はどう違う?
光合成速度には、大きく分けて「純光合成速度」と「総光合成速度」の2つの考え方があります。違いを理解するカギは、植物が光合成と同時に行っている「呼吸」です。
植物も、私たち動物と同じように呼吸をしています。呼吸では、光合成でつくった糖を分解してエネルギーを取り出し、そのときにCO2を放出します。昼間の葉では、光合成でCO2を取り込みながら、同時に呼吸でCO2を出しているのです。
| 指標 | 意味 | どうやって求めるか |
|---|---|---|
| 純光合成速度 | 光合成で取り込んだCO2から、呼吸で出したCO2を差し引いた「差し引きの取り込み量」 | 葉のまわりの空気のCO2の減り方を測ると、そのまま得られる |
| 総光合成速度 | 呼吸で出ていく分も含めた、光合成そのものの速さ | 純光合成速度に、暗いところで測った呼吸の速さ(暗呼吸速度)を足して推定する |
測定機器で葉のまわりの空気を調べたときに直接わかるのは、純光合成速度のほうです。研究論文や測定データで「光合成速度」と書かれている場合も、多くは純光合成速度を指しています。
真っ暗な状態では光合成が行われないので、植物は呼吸でCO2を出すだけになります。このとき、純光合成速度はマイナスの値になります。光を少しずつ強くしていくと、ある明るさで光合成による取り込みと呼吸による放出がちょうど釣り合い、純光合成速度はゼロになります。この明るさを「光補償点」と呼びます。光補償点については、次の測定方法や光応答曲線の章で、あらためて説明します。
光合成速度はどうやって測るの?

光合成速度の測定で最も広く使われているのは、「ガス交換法」と呼ばれる方法です。葉の一部を透明な小さな箱(リーフチャンバー)ではさみ込み、箱に入る空気と出ていく空気のCO2濃度の差から、葉がどれだけCO2を取り込んだかを計算します。同時に水蒸気の量も測ることで、葉からどれだけ水が出ていったか(蒸散速度)や、気孔がどのくらい開いているか(気孔コンダクタンス)もわかります。
こうした携帯型の測定装置をつくっているメーカーの一つが、アメリカのLI-COR(ライコア)社です。同社の光応答曲線の技術解説では、光合成速度を光の強さを変えながら測る「光応答曲線」の測定について、次のような進め方が紹介されています。
- 急いで測る方法:強い光から弱い光へ段階的に下げていき、各段階で1〜2分ずつ測る。短時間で済むが、気孔の開き具合が光の変化に追いつかないまま測ることになる点に注意が必要
- じっくり測る方法:各段階で15〜20分待ってから測る。気孔の開き具合が落ち着き、葉の内部のCO2濃度がほぼ一定になるため、より安定した値が得られる
- 複数の葉を使う方法:別々の葉を、それぞれ異なる明るさに慣らしてから測る
- 測定時の条件:葉の温度を一定に保ち、箱に送り込む空気のCO2濃度はまわりの空気と同じにする。光の強さの上限は、2,000 μmol m⁻² s⁻¹が標準的な値とされる
この解説からわかるのは、光合成速度は「ボタンを押せば一瞬で出る数字」ではなく、測るときの光・温度・CO2の条件や、葉がその条件にどれだけ慣れているかによって変わる、繊細な値だということです。論文やカタログで光合成速度の数値を見るときは、どんな条件で測ったものかを確認することが大切です。
ガス交換法のほかにも、葉に光を当てたときに出るわずかな光(クロロフィル蛍光)を使って光合成の状態を推定する方法や、人工衛星やドローンのデータから広い範囲の光合成を推定する方法など、目的や規模に応じたさまざまな方法が研究されています。
光の強さで光合成速度はどう変わる?(光応答曲線)
光の強さと光合成速度の関係をグラフにしたものを「光応答曲線」と呼びます。横軸に光の強さ、縦軸に光合成速度をとると、多くの植物で次のような形になります。
- 真っ暗なとき:光合成は行われず、呼吸だけが進むため、光合成速度はマイナス
- 光が弱いうち:光を強くするほど、光合成速度がぐんぐん上がる
- 光がある程度強くなると:上がり方がだんだん鈍くなる
- さらに強くしても:光合成速度がほとんど上がらなくなり、頭打ちになる
LI-COR社の技術解説では、この光応答曲線から、次の4つの大切な指標が読み取れると説明されています。
| 指標 | 意味 | 野菜づくりでのイメージ |
|---|---|---|
| 暗呼吸速度 | 光がないときに、呼吸でCO2を出す速さ | 夜の間に消費される養分の目安 |
| 光補償点 | 光合成による取り込みと、呼吸による放出が釣り合う明るさ | これより暗い場所では、葉は差し引きで養分を減らしてしまう |
| 量子収率 | 光が弱い範囲での、グラフの立ち上がりの傾き | 弱い光を、どれだけ効率よく光合成に使えるか |
| 光飽和光合成速度 | 光を強くしても、それ以上ほとんど変わらなくなったときの最大の速さ | その葉が出せる光合成の「上限」 |
光合成速度が頭打ちになり始める明るさは「光飽和点」と呼ばれます。光飽和点が高い植物は強い日差しを活かせるタイプ、低い植物は比較的弱い光でも光合成を進められるタイプです。光飽和点と光補償点の違いや、作物ごとの特徴については、光飽和点とは何かを解説した記事で詳しく紹介しています。
光が弱いうちは、光のエネルギーを受け取る反応が光合成のブレーキになります。光が強くなると、今度は取り込んだCO2を糖に組み立てる反応や、葉の内部に届くCO2の量がブレーキになり、光をいくら増やしても速度が上がらなくなります。光応答曲線が頭打ちになるのは、このためです。
なお、植物の光合成には、多くの野菜が行っている一般的なタイプ(C3植物)のほかに、トウモロコシなどに見られる、強い光や高温のもとで効率よくCO2を取り込めるタイプ(C4植物)や、サボテンなどに見られる、夜に気孔を開いてCO2をため込むタイプ(CAM植物)があります。タイプによって光やCO2への反応が違うため、光合成速度を比べるときは、どのタイプの植物かにも注意が必要です。夜にCO2を取り込むCAM植物のしくみは、サボテンやアロエのCAM型光合成を解説した記事で紹介しています。
1枚の葉と畑全体で、光合成の考え方は違うの?

光応答曲線は、基本的に「1枚の葉」を測ったものです。ところが、実際の畑やハウスでは、たくさんの葉が上下に重なり合って茂っています。この葉の集まりを「群落(ぐんらく)」と呼びます。ここで、1枚の葉と群落とでは、光に対する反応が大きく違うことがわかっています。
ユタ州立大学のブルース・バグビー教授の資料(光の質・強さ・時間が光合成と生育に与える影響)では、次のように説明されています。
- 1枚の葉の光合成は、光の強さが約1,000 μmol m⁻² s⁻¹で頭打ちになる(光飽和)
- 一方、葉がよく茂った群落全体では、真夏の晴天に相当する約2,000 μmol m⁻² s⁻¹まで、光合成が光の強さにほぼ比例して増え続ける
- その理由は、群落の中では上の葉が強い光を受けても、下の葉には弱い光しか届いておらず、下の葉にとっては光がまだ足りない状態だから
つまり、「1枚の葉が光飽和しているから、これ以上の光は無駄」とは言えないのです。上の葉が受けきれなかった光が下の葉に届けば、群落全体の光合成はまだ増やせます。
農研機構の東出忠桐氏の講義資料(キュウリの環境制御/日本施設園芸協会 共通テキスト所収)でも、同じ考え方が示されています。群落の中の光の強さは、葉の量が増えるほど下に行くにつれて弱まり、群落全体で受け止める光の割合(受光量)は、葉の量が増えるにつれて100%に近づいていきます。葉の量は「葉面積指数(LAI)」という、地面の面積に対して葉の面積が何倍あるかを表す数字で表されます。
さらに資料では、「1枚1枚の葉の光合成の性質(光応答曲線)が同じでも、葉の並び方や重なり方(受光態勢)によって、群落全体の光合成速度は変わる」と説明されています。上のほうの葉は光飽和に近い状態で働き、中ほどの葉は光の増減に敏感に反応し、下のほうの葉は光補償点に近い弱い光の中にある、というように、群落の中では葉ごとに置かれた状況が違うのです。
家庭菜園で「わき芽かき」や「摘葉(てきよう)」、支柱やネットへの誘引を行うのは、この受光態勢を整えて、群落の奥まで光が届くようにするためだと考えると、作業の意味がよくわかります。
CO2濃度は光合成速度にどう影響する?
光合成の材料であるCO2の濃度も、光合成速度を大きく左右します。空気中のCO2濃度は、現在おおむね400ppm(空気100万あたり400)前後です。
意外に知られていないのが、ビニールハウスや温室の中では、日中にCO2濃度がかなり下がってしまうという事実です。農研機構の資料で紹介されているキュウリのハウスの測定例では、CO2を補っていないハウスでは、日射が強まる昼にかけてCO2濃度が下がり、施用しているハウスとの差が大きく開いていました。資料では、「窓が全開でも、ハウス内のCO2濃度は外より低い」と注意がうながされています。
神奈川県の環境制御マニュアル(かながわスマート農業普及推進研究会)に掲載されたトマトのハウスの例でも、CO2を補っていない場合、日中のハウス内のCO2濃度は、外気(約400ppm)を大きく下回る200ppm前後まで下がっていました。マニュアルでは、日中のCO2濃度が思っていたよりずっと低い状態について、「光合成速度が低下している」サインとして注意をうながしています。植物が光合成でCO2を盛んに使うのに、閉め切ったハウスでは外から補給されないためです。
CO2を補うと、何が変わるの?
農研機構の資料では、CO2を補う(施用する)ことの目的が、次の2段階で整理されています。
| 段階 | 目的 | 内容 |
|---|---|---|
| レベル1 | 使われて減ったCO2を補う | 換気が少ないと、ハウス内のCO2濃度は簡単に下がる。まずは外気並みに戻す |
| レベル2 | 高いCO2濃度で光合成速度を上げる | 光合成速度が上がると、光を養分に変える効率(光利用効率)が上がり、生産量が増える |
資料で紹介されたトマトの試験では、CO2濃度を平均745ppmに保った場合、509ppmの場合に比べて、同じ量の光を受けたときにつくられる植物体の重さ(光利用効率)がはっきりと高くなっていました。資料には「光利用効率はCO2濃度に比例」とまとめられており、光が弱い日でもCO2施用は必要だとされています。
一方で、CO2は多ければ多いほど良いわけではありません。資料では、次のような実践上のポイントが挙げられています。
- 日中、できるだけ一定の濃度を保つことが大切で、朝だけ高くしても意味がない
- ハウスを閉め切るときは、必ずCO2を補う(特に冬場に効果的)
- 極端に高い濃度は効率が悪い(1,000ppmを2,000ppmに上げても、それに見合う効果は得にくい)
- 1回の施用量が多すぎると、濃度が安定せず、無駄が多くなる
- CO2センサーは定期的に校正(正しい値を示すよう調整)しないと、実際には補えていないことがある
神奈川県のマニュアルでも、ハウス内のCO2濃度を外気と同じ400ppm程度に保つ「ゼロ濃度差施用法」と、400〜1,000ppm程度まで高める「高濃度施用法」が紹介されています。前者は換気窓が開いていても無駄が少なく、後者は光合成速度をより高められる一方、換気によってCO2が逃げやすいという特徴があります。
家庭菜園の露地栽培では、CO2濃度を自分で調整することはまずありません。ただ、小さなビニールハウスやトンネルで、晴れた日に閉め切ったままにしていると、温度が上がりすぎるだけでなく、中のCO2も不足しがちになります。日中の換気には、「暑さを逃がす」だけでなく、「CO2を入れ替える」という意味もあるのです。
温度は光合成速度にどう影響する?

温度も光合成速度に影響します。光合成は多くの化学反応の組み合わせなので、低温では反応がゆっくりになり、高すぎる温度では葉の中のしくみが傷みやすくなります。そのため、光合成速度が高くなる「適温」の範囲があります。
農研機構の資料では、温度管理の考え方が次の3つのレベルで整理されています。
| レベル | 目的 | ポイント |
|---|---|---|
| レベル1 | 生育に適さない低温などを避ける | 枯れる、障害が出るといった事態を防ぐ |
| レベル2 | 光合成に適した温度にする | 気温がおおむね20〜28℃であれば光合成の適温の範囲。長い目で見ると、この範囲内の気温の違いは生産量にあまり影響しない |
| レベル3 | 成長のスピードをコントロールする | 葉が展開する速さや、果実が熟す速さを温度で調整し、サイズ・品質・出荷量を整える |
ここで注目したいのは、「光合成の適温の範囲内であれば、気温を少し上げ下げしても、長い目で見た生産量はあまり変わらない」という点です。温度が強く影響するのは、光合成速度そのものよりも、葉が次々と展開する速さや、果実が熟すまでの日数のほうだと説明されています。
資料では、キュウリの葉の展開速度が温度とともに速くなる例が紹介されています。17℃、20℃、23℃で比べると、温度が高いほど、同じ日数で展開する葉の数が多くなっていました。さらに、葉の展開の速さは温度以外の要因(CO2濃度や株の密度、実の付き具合)にはほとんど左右されないとされています。キュウリは葉のつけ根ごとに花がつくので、葉が早く展開すれば、花の数も増えます。
温度が間接的に生産量に効いてくる流れは、次のように整理されています。
- 高温側:葉の数が増える → 葉面積が大きくなる → 受け止める光の量が増える → 生産量が増える
- 低温側:葉の数が少ない → 葉面積が小さい → 受け止める光の量が少ない → 生産量が少ない
つまり温度は、「光合成速度を直接上げる」よりも、「光を受け止める葉を増やす」という形で生産量に影響しているのです。ただし高温側でも、葉が小さくなりすぎると、かえって受光量が減ることがあるとされています。
根の温度(地温)も大切
資料では、根のまわりの温度(地温)についても触れられています。地温は1日の平均気温とほぼ同じになり、1日の平均で15〜30℃が適正な範囲とされています。15℃未満や30℃以上では、養分の吸収や根の伸びが抑えられます。
トマトでは、1日の平均地温が14℃のとき、カルシウムとマグネシウムの吸収量が、20℃のときの約半分だったという例も紹介されています。カルシウムの不足は、トマトの実のお尻が黒く腐る「尻腐れ病」の原因にもなるため、春先の低い地温には注意が必要です。尻腐れ病の原因と対策については、トマトの尻腐れ病を解説した記事で詳しく紹介しています。
湿度や水分は光合成速度と関係ある?
湿度と光合成速度の関係は、少し誤解されやすいところです。「湿度を上げると気孔がよく開くので、光合成速度も上がる」と考えられがちですが、農研機構の資料では、この考え方に注意がうながされています。
資料のポイントは次のとおりです。
- 気孔が大きく開いていることは、必ずしも光合成が盛んであることを意味しない
- 湿度と光合成は、直接的にはほぼ関係がなく、湿度を高めても光合成量は増えない
- ただし、極端な低湿度のときには、気孔が閉じてCO2を取り込めなくなり、光合成が低下する場合がある
キュウリのハウスでの測定例では、細霧(ミスト)による加湿をしていないハウスで、夏の日中に湿度が30%以下まで下がっていました。一方、細霧で加湿したハウスでは、日中の湿度が70〜80%に保たれていました。日中のハウス内は、夏は気温が高いため、冬は換気で乾いた外気と入れ替わるため、どちらも乾燥しやすいと説明されています。
神奈川県のマニュアルでも、日中に「飽差(ほうさ)」が高い状態、つまり空気が乾いている状態が続くと、気孔が閉じてCO2を吸えなくなると注意をうながしています。飽差とは、空気があとどれくらいの水蒸気を含むことができるかを表す数字で、大きいほど乾燥していることを意味します。
低湿度は「伸びる力」を先に奪う
資料によると、低湿度で最初に抑えられるのは、光合成よりも、茎が伸びたり1枚の葉が広がったりする「伸長成長」と、わき芽の発生(葉の数や実のつく節が増えること)です。
植物が吸った水の役割は、大きく2つあります。
- 伸長:細胞の中の水が、風船をふくらませるように細胞そのものを大きくして、成長を支える
- 蒸散:植物が吸収する水の90%以上は、葉から水蒸気として出ていく。光合成の材料として使われる水はごくわずかで、蒸散には葉の温度を下げる役割もある
低湿度で伸長成長が抑えられると、葉の面積が広がらず、受け止められる光の量が減ります。キュウリの場合は、わき芽の発生も減るため、受光量だけでなく実のつく場所も減ってしまいます。つまり湿度は、光合成速度を直接左右するというより、「葉を広げる力」を通じて間接的に生産量に効いているのです。
気孔のしくみや、蒸散が植物の体温調節に果たしている役割については、気孔のはたらきを解説した記事で紹介しています。
光合成速度は、収量とどうつながっているの?

ここまで、光・CO2・温度・湿度と光合成速度の関係を見てきました。では、光合成速度が上がれば、そのまま収量も増えるのでしょうか。農研機構の資料では、収量と光合成の関係が、次のシンプルな式で説明されています。
- 植物全体がつくる重さ(総乾物生産)= 光利用効率 × 受光量
- 収量 ≒ 総乾物生産 × 果実に配分される割合
光利用効率とは、受け止めた光の量あたりにどれだけの植物体の重さ(乾物)をつくれるかという効率のことで、光合成速度が高いほど大きくなります。受光量は、群落全体でどれだけの光を葉で受け止めたかです。そして、つくられた養分のうち一定の割合が果実に回り、それが収量になります。
資料で紹介されたトマトの試験では、株間(株と株の距離)や、植え付けるときの苗の大きさを変えると、収量や植物体の重さは大きく変わりました。ところが、受け止めた光の量と植物体の重さの関係をグラフにすると、すべての区が1本の直線の上にほぼ並びました。株間や苗の大きさの違いは光利用効率には影響しておらず、違っていたのは「受け止めた光の量」だけだったのです。
さらに、オランダの研究をもとにした、光が1%増えたときに収量が何%増えるかの目安も紹介されています。
| 作物 | 光が1%増えたときの収量の変化 |
|---|---|
| レタス | 約0.8% |
| ラディッシュ | 約1% |
| キュウリ | 約0.7〜1% |
| トマト | 約0.7〜1% |
| バラ | 約0.8〜1% |
| キク | 約0.6% |
トマトやキュウリでは、光が1%増えると収量もおよそ0.7〜1%増える計算です。ハウスの被覆資材の汚れを落としたり、光を遮る部材を減らしたりすることが収量アップにつながると言われるのは、このためです。
「葉1枚の最大値」より「全体の受光量」
資料には、印象的なたとえも載っています。
- 環境が最適で、光合成量が100の葉が3枚ある株 → 合計300
- 環境は最適ではなく、光合成量が70の葉が5枚ある株 → 合計350
1枚1枚の葉の能力は下がっていても、光を受け止める葉の量が多ければ、全体の光合成量は多くなります。資料ではこれを「光合成の最大化よりも、十分な受光量」と表現しています。
また、オランダのトマト品種を発表年順に比べると、新しい品種ほど収量も光利用効率も高くなる傾向があったことも紹介されています。品種改良によって、光を養分に変える効率そのものも少しずつ高まってきたと考えられます。
家庭菜園で光合成を上手に活かすには?

ここまでの内容を、家庭菜園やプランター栽培で実践できる形にまとめます。どれも特別な機械は必要なく、「光を葉で受け止める量を増やす」「光合成が止まる条件を避ける」という考え方にもとづいています。
1. 日当たりの良い場所を選び、株間をしっかりとる
受光量が収量を左右するので、まずは日当たりの良い場所を選ぶことが基本です。苗をたくさん植えたくなりますが、株間が狭すぎると葉が重なり合い、下の葉に光が届きません。種袋や苗のラベルに書かれた株間を目安に、余裕をもって植え付けましょう。
2. わき芽かき・誘引で、光の通り道をつくる
トマトのわき芽かきや、キュウリのつるをネットに誘引する作業は、葉の重なりを減らし、群落の奥まで光を届けるための作業です。ただし、光を受け止める葉そのものを減らしすぎると受光量が下がるので、摘葉は、病気の葉や、込み合って日陰になった古い下葉を中心に行うのが無難です。
3. ビニールトンネルやミニハウスは、晴れた日にこまめに換気する
小型のトンネルやハウスは保温には便利ですが、晴れた日に閉め切ったままだと、高温になるだけでなく、中のCO2も不足しがちです。日中は裾を開けるなどして換気し、新しい空気を入れましょう。
4. 春先の地温に気をつける
1日の平均地温が15℃を下回ると、養分の吸収や根の伸びが抑えられます。春先の植え付けは、地温が十分に上がってから行う、黒いマルチ(地面を覆うフィルム)で地温を上げる、といった工夫が有効です。
5. 真夏の極端な乾燥を避ける
真夏の日中に株がしおれるほど乾くと、気孔が閉じて光合成が止まりやすくなります。水やりは、気温が上がる前の朝に、株元にたっぷり与えるのが基本です。
6. 肥料は「多ければ良い」ではない
光合成を支える葉を育てるには、窒素などの養分も欠かせません。ただ、肥料が多すぎると、葉ばかり茂って実がつきにくくなったり、病気が広がりやすくなったりすることがあります。肥料の濃さと病気の関係は、キュウリの病気と肥料の濃さの関係を解説した記事で紹介しています。また、根に共生して養分の吸収を助ける微生物については、菌根菌の効果と増やし方を解説した記事も参考になります。
室内でLEDを使って育てる場合
室内でLEDライトを使って葉物野菜やハーブを育てる場合は、光の「強さ」と「当てる時間」の掛け算、つまり1日に受け取る光の合計量が大切です。バグビー教授の資料では、この1日の合計量(日積算光量)が、植物の葉のつくりや生育をより直接的に決めると説明されています。夏の晴天の屋外では、1日の合計量は1平方メートルあたり約50〜60モルに達するとされ、室内の照明だけでこの量に近づけるのは簡単ではありません。
一方、同じ資料では、一般的な6種類の照明ランプで比べたとき、光の色(スペクトル)の違いによる光合成の効率の差は「驚くほど小さい」とも述べられています。室内栽培で生育が思わしくないときは、ライトの色よりも、まずライトと植物の距離や、点灯している時間を見直すほうが効果的な場合が多いと考えられます。
光合成速度についてのよくある誤解
光合成速度については、直感とは違う点がいくつもあります。ここまでの内容をもとに、よくある誤解を整理します。
| よくある誤解 | 資料からわかること |
|---|---|
| 1枚の葉が光飽和しているなら、それ以上の光は無駄 | 群落全体では、真夏の晴天に近い強さまで、光合成は光にほぼ比例して増える(バグビー教授の資料) |
| CO2は濃ければ濃いほど良い | 極端な高濃度は効率が悪く、1,000ppmを2,000ppmにしても見合う効果は得にくい(農研機構の資料) |
| 窓を開けていれば、ハウス内のCO2は足りている | 窓が全開でも、日中のハウス内のCO2濃度は外より低くなりやすい(農研機構の資料) |
| 湿度を上げれば光合成が増える | 湿度と光合成は直接的にはほぼ関係がない。ただし極端な乾燥は光合成を下げる(農研機構の資料) |
| 気温を上げるほど光合成が増える | 20〜28℃の範囲なら光合成の適温。温度の影響は、葉の展開や果実の成熟の速さに強く出る(農研機構の資料) |
| 光合成速度が高い葉が多いほど良い、が全て | 収量を決めるのは「光利用効率×受光量」。葉1枚の能力より、全体で受け止める光の量が大切(農研機構の資料) |
こうして並べてみると、光合成速度は「1つの条件を最大にすれば上がる」ものではなく、光・CO2・温度・水分がバランスよくそろったときに、群落全体として力を発揮するものだとわかります。

よくある質問(Q&A)
Q1. 光合成速度の単位「μmol CO2 m⁻² s⁻¹」は、どう読めばいいですか?
「1秒間に、葉の面積1平方メートルあたり、何マイクロモルのCO2を取り込んだか」という意味です。葉の広さと時間をそろえたうえで、CO2の取り込み量を比べるための単位だと考えるとわかりやすいです。研究論文で「光合成速度」と書かれている場合、多くは呼吸の分を差し引いた純光合成速度を指しています。
Q2. 光飽和点を超える強い光は、植物にとって無駄なのですか?
1枚の葉だけを見れば、光飽和点を超えた光は光合成速度をほとんど上げません。しかし、畑やハウスの群落全体では、上の葉が受けきれなかった光が下の葉に届くため、真夏の晴天に近い強さまで、光合成はほぼ光に比例して増えるとされています。家庭菜園では、日当たりの良い場所を選び、葉の重なりを減らすことが大切です。
Q3. 家庭菜園でも、CO2を補ったほうがいいですか?
露地栽培では、外の空気が自然に入れ替わるため、CO2を補う必要はまずありません。小さなビニールトンネルやミニハウスでは、晴れた日に閉め切ったままにすると、中のCO2が不足しがちです。まずは日中にこまめに換気して、新しい空気を入れることから始めましょう。
Q4. 光合成を増やすために、夜も明かりをつけておいたほうがいいですか?
光合成には光が必要なので、夜に明かりをつければ、その間も光合成は行われます。ただし、植物の種類によっては、夜の長さで花芽のつき方が変わるものもあり、照明の当て方によっては生育のリズムが乱れることがあります。屋外の家庭菜園では、日中の日当たりを確保することを優先し、室内のLED栽培では、ライトの説明書に書かれた点灯時間を目安にするのが安心です。
まとめ:光合成速度を知ると、野菜づくりの「なぜ」が見えてくる
光合成速度とは、葉が一定の時間・面積あたりにCO2を取り込む速さのことで、光・CO2・温度・湿度といった環境によって変わります。本記事で紹介したポイントを振り返ります。
- 光合成速度は、光が強くなるほど上がるが、1枚の葉では約1,000 μmol m⁻² s⁻¹で頭打ちになる。一方、群落全体では、真夏の晴天に近い強さまで光にほぼ比例して増える
- ハウス内のCO2濃度は、日中に外気よりも下がりやすい。CO2を補うと光利用効率が上がるが、極端な高濃度は効率が悪い
- 気温20〜28℃の範囲なら光合成の適温。温度は、葉の展開や果実の成熟の速さを通じて、間接的に生産量に効く
- 湿度を上げても光合成は増えないが、極端な乾燥は気孔を閉じさせ、光合成と葉の成長を妨げる
- 収量を決めるのは「光利用効率×受光量」。葉1枚の光合成速度を最大にするより、全体でどれだけ光を受け止めるかが大切
わき芽かきや株間の確保、ハウスの換気、春先の地温対策といった普段の作業も、光合成の視点から見直すと、「なぜそうするのか」がはっきり見えてきます。ぜひ、次の栽培計画に役立ててみてください。
参考文献
Bruce Bugbee(ユタ州立大学)「Effects of Radiation Quality, Intensity, and Duration on Photosynthesis and Growth」NCERA-101 https://www.controlledenvironments.org/effects-of-radiation-quality-intensity-and-duration-on-photosynthesis-and-growth-bruce-bugbee/
東出忠桐(農研機構 野菜花き研究部門)「キュウリの環境制御」平成29年度 栽培技術に関する理論と実際(2018年2月1日)、一般社団法人日本施設園芸協会『大規模施設園芸・植物工場 共通テキスト』所収 https://jgha.com/wp-content/uploads/2020/03/TM04-2-text4_9.pdf
かながわスマート農業普及推進研究会『スマート農業はじめませんか 環境制御編(第2版)施設栽培の収量や品質を向上させたい方へ』 https://www.pref.kanagawa.jp/documents/58224/zentaiban.pdf
LI-COR Biosciences「LI-6800 Light response curves」 https://www.licor.com/support/LI-6800/topics/light-response-curves.html


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