
光合成速度とは?(定義・単位・概念の整理と実務での使い方)
光合成速度は、植物が光エネルギーを使って二酸化炭素を取り込み、有機物(主に糖)を合成する速さを数量化した指標である。研究・生産現場では通常、単位葉面積あたりに一定時間内でどれだけのCO2が同化されたかを表し、μmol CO2 m⁻² s⁻¹が標準的に用いられる。葉レベルでは「同化速度」や「純光合成速度(net photosynthetic rate, A)」と呼ばれ、群落・圃場スケールでは総一次生産(GPP)や純一次生産(NPP)、さらには生態系炭素収支(NEP)へと拡張される。
葉が光を受けると、光化学系で電子伝達が進みATPとNADPHがつくられ、カルビン回路でCO2が固定される。その一方で、葉は常に呼吸を行っておりCO2を放出する。純光合成速度は「総光合成速度(gross)-暗呼吸(day respiration)」として定義され、現場で一般に測定・報告されるのはこの純光合成である。さらに、CO2取り込みだけでなくO2放出で表す場合もあるが、現代の葉面ガス交換ではCO2基準が主流である。
単位と基準の違いを正しく理解する
光合成速度は測定目的に応じて「何を基準に割るか」が変わる。最も一般的なのは葉面積基準(m²)だが、バイオマス当量(gDW)やクロロフィル量基準(mg Chl)で表すこともある。葉面積基準は作物生理・育種・環境応答解析で比較しやすい利点がある一方、厚葉・薄葉や葉齢差の影響が残る。生理メカニズムに迫る場合はクロロフィル基準、生産性や資源配分を議論する場合は面積・群落基準を選ぶのが実務的である。
光合成速度の生理学的上限と律速
葉の同化速度は常に一定ではない。光、葉温、CO2濃度、水分状態、栄養、気孔の開閉、葉内CO2拡散(メソフィル伝導度)、電子伝達速度、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(RuBisCO)の量と活性、三炭糖リン酸(TPU)利用能、炭水化物の受容能力(sink strength)など、複数の要因で律速が切り替わる。光が弱いときは光反応が律速、強光下ではカルビン回路やTPUが律速になりやすい。CO2が低いとRuBisCOのカルボキシラーゼ反応が、葉温が高いとフォトレスピレーション(光呼吸)が相対的に強まり純光合成が下がる。
C3・C4・CAM植物で異なる「速度」の意味合い
C3植物(コムギ、イネ、ダイズなど)はRuBisCOがCO2だけでなくO2とも反応するため光呼吸の影響を受けやすく、高温・低CO2条件で純光合成が落ちやすい。C4植物(トウモロコシ、ソルガム、キビなど)は葉内でCO2濃縮機構を持ち、RuBisCOが高CO2局所環境で働くため、強光・高温下で高い光合成速度を維持しやすい。CAM植物(サボテン、アロエなど)は夜間にCO2を有機酸として蓄え、日中にそれを脱炭酸して同化するため、水分ストレス環境での炭素獲得効率が高い。したがって「高い光合成速度」といっても、種・機能型ごとに最適条件や日内変動のパターンは大きく異なる。
光応答曲線とCO2応答曲線という基本図式
光合成速度の理解に不可欠なのが、光応答曲線(光強度に対するAの変化)とCO2応答曲線(葉内または外気CO2濃度に対するAの変化)である。光応答曲線では、低光で直線的に増え、やがて光飽和に近づき増加率が鈍化する。切片は呼吸起源のCO2放出を反映し、補償点(光合成と呼吸が釣り合う光強度)と飽和点(これ以上強光にしてもAがほぼ増えない光強度)が読み取れる。CO2応答曲線では、低CO2域でRuBisCO律速、やがて電子伝達律速、さらに高CO2・強光ではTPU律速が現れる。これらの曲線は育種・環境制御・診断に直結する基礎データであり、作物改良や施設園芸のチューニングに実務的価値が高い。
気孔と葉内拡散:表面から葉緑体までの“ボトルネック”
光合成速度は単に「葉が欲しがるCO2」と「光供給」のバランスで決まるのではない。大気から葉内へのCO2拡散過程において、気孔伝導度(gs)とメソフィル伝導度(gm)がボトルネックとなる。乾燥や高VPD(飽差)環境では気孔が閉じてCO2供給が制限され、純光合成が低下する。メソフィル伝導度は葉肉組織の拡散抵抗や細胞壁特性に左右され、葉齢や栄養状態、種差の影響を強く受ける。実務では、同じ光・CO2でも水分ストレスによるgs低下が実効的Aを大きく左右することを常に念頭に置く必要がある。
日内・季節変動とソース–シンク関係
晴天日の午前にAが高く午後に落ちる「午後落ち」は、葉温上昇、VPD上昇による気孔閉鎖、デンプン蓄積によるTPU制限、受容器官(根・果実・新葉)側の需要不足などが絡む。シンクが弱いと葉内で糖が滞留し、光合成産物の利用が飽和してAが抑制される。逆に強いシンク(結実期、旺盛な根成長)があると、同じ環境でも高いAを維持しやすい。季節スケールでは葉齢・葉位、窒素再配分、気温推移、日長、病害虫の影響が重なり、年間の潜在生産量に直結する。
群落スケール:葉からキャノピー、地域・地球へ
単葉で得たAを群落に積み上げるときは、葉角度分布や日射の層別分配、葉群の自己遮蔽、風速と境界層、土壌水分・根系深度などを考慮する。群落光合成はしばしば放射の拡散成分に敏感で、薄曇り条件で総同化量が増える事例も珍しくない。フラックスタワー(渦相関法)によるCO2フラックス観測は、圃場~生態系レベルでNEE(実測の正味交換量)を評価し、気象と管理が生産・吸収に及ぼす影響を把握するのに不可欠である。作物現場では、群落吸光係数、LAI(葉面積指数)、日射利用効率(RUE)などと組み合わせて、施肥・灌漑・品種選択の最適化に用いられる。
模型化の要点:Farquhar型の考え方
葉の光合成速度を機構的に表す代表的枠組みがFarquhar–von Caemmerer–Berryモデルで、RuBisCO律速、電子伝達律速、TPU律速の三つを切り替えてAを計算する。入力として光強度、葉温、外気CO2、気孔伝導度、葉内CO2、酵素容量(Vcmax)、電子伝達容量(Jmax)などを用い、温度依存や窒素施肥によるパラメータ変化を扱う。温室や植物工場の環境制御、作物モデル(例:WOFOST、DSSAT、APSIM)への組み込み、育種ターゲットの同定など実用の幅が広い。
なぜ光合成「速度」を測るのか
育種では高A型遺伝子型の探索、環境生理ではストレス応答の診断、営農ではCO2施用・遮光・灌漑・施肥の効果検証に直結する。たとえば高温期のC3作物はフォトレスピレーション増大でAが落ちるが、CO2施用や夜温管理、耐暑性品種の選抜で緩和できる。窒素施肥はクロロフィル・RuBisCO含量を介してVcmaxを押し上げるが、過剰施肥は呼吸増大や倒伏リスク、病害感受性を招くため、光環境・LAI・シンク能力との整合が重要になる。
よくある誤解と注意点
光が強いほど常にAが上がるわけではなく、ある強度を超えると飽和・過剰光で光阻害が生じる。葉温は「高いほど良い」わけでもない。最適葉温域を外れると酵素反応や膜安定性が崩れAが低下する。水分ストレス回避のための気孔閉鎖は水の節約には寄与するが、CO2供給が減りAが犠牲になる。さらに病害虫やオゾン等の大気汚染物質は電子伝達・気孔機能・葉内拡散に悪影響を及ぼし、同化速度を長期的に押し下げることがある。
実務での読み替え
圃場での“速い光合成”は、そのまま増収に直結しないことがある。日長とシンク、器官成長段階、源流・貯蔵配分、夜間呼吸、転流・代謝コストなど収支全体を見ないと、投入資源(光・CO2・水・肥料)に対する最終産出(収量・品質)を誤解する。光合成速度の絶対値に加えて、時間積分(1日の同化総量)、季節積分(栽培期間の累積同化)、ストレス下での安定性(レジリエンス)を併記して評価するのが望ましい。
まとめ
光合成速度は、葉や群落がCO2をどれだけの速さで有機物に変換できるかを示す核となる指標であり、単位(μmol CO2 m⁻² s⁻¹)や定義(純・総)、基準(面積・クロロフィル・乾物)、スケール(葉・群落・生態系)を正しく使い分けることが重要である。律速は環境と生理状態により切り替わり、光・CO2・温度・水分・栄養、気孔・メソフィル伝導度、電子伝達、RuBisCO容量、TPU、シンク能力が複合的に決める。C3・C4・CAMの機能型差、光・CO2応答曲線、日内・季節変動、ソース–シンク関係を踏まえることで、育種・環境制御・営農判断の精度が上がる。最終的な収量・品質に結び付けるには、瞬間的な「速度」だけでなく、累積同化量とストレス下の安定性、そして資源配分の最適化を同時に設計する視点が不可欠である。
光合成速度の測定方法について
光合成速度は、植物が二酸化炭素を取り込み光エネルギーを有機物へ変換する能力を表す重要な指標である。これを正確に評価するためには、目的やスケールに応じて適切な測定方法を選ぶ必要がある。ここでは、研究や農業現場で利用される代表的な測定手法を体系的に解説し、それぞれの利点と限界を示す。
ガス交換法
最も広く用いられる方法がガス交換法である。葉を小型チャンバーに入れ、出入りする空気の二酸化炭素濃度と水蒸気濃度を測定することで、光合成速度や蒸散速度を算出する。ポータブル光合成測定装置(LI-6400やLI-6800など)が代表的で、光強度、葉温、CO2濃度を制御でき、光応答曲線やCO2応答曲線を作成できるのが強みである。高精度な測定が可能だが、装置が高価で操作に熟練を要する点、単一の葉に限定される点が制約となる。
クロロフィル蛍光法
クロロフィルが吸収した光の一部を蛍光として放出する現象を利用するのがクロロフィル蛍光法である。この蛍光の強度や変化を解析することで、光化学系II(PSII)の効率や電子伝達速度を推定できる。非破壊的で迅速に測定できるため、ストレス診断や光阻害の検出に特に有効である。ただし、光合成速度そのものを直接測定するわけではなく、ガス交換法と組み合わせることでより実態に近い評価が可能となる。
放射計測・リモートセンシング
群落や広域スケールで光合成活動を把握する際には、反射スペクトルや衛星観測を活用する。特に、太陽光誘起クロロフィル蛍光(SIF)は、地球規模での光合成活動の推定に利用されている。さらに、NDVI(正規化植生指数)やPRI(光化学反射指数)などの植生指数は、作物群落や森林における光合成能力やストレス状態を把握する手段として広く普及している。これらは直接的なCO2吸収速度の測定ではないが、大規模評価において不可欠である。
渦相関法
生態系全体の光合成活動を評価するために用いられるのが渦相関法である。タワーに高精度センサーを設置し、大気乱流の中でのCO2やH2Oの濃度変化を測定することで、正味の二酸化炭素交換量(NEE)を把握する。森林や農地、草原などでの炭素収支の把握に利用され、地球規模の炭素循環研究に欠かせない。ただし、大規模で高価な設備が必要となり、研究機関や国際的な観測ネットワークでの運用が中心である。
酸素発生測定
古典的な方法として酸素の発生量を測定する手法もある。酸素電極や化学的定量法を用い、水生植物や藻類の光合成速度を調べるのに適している。現在はCO2吸収を基準にする測定が主流だが、基礎研究や特殊な環境での解析に利用され続けている。
方法の選択と活用
光合成速度を評価する際には、研究目的や対象スケールによって適切な方法を選ぶ必要がある。
- 葉レベルの精密解析にはガス交換法
- ストレス影響や光化学効率評価にはクロロフィル蛍光法
- 群落や圃場レベルではリモートセンシングや植生指数
- 生態系や地球規模では渦相関法や衛星観測
複数の方法を組み合わせ、多角的にデータを取得することで、光合成の理解と応用が一層深まる。
まとめ
光合成速度の測定にはガス交換法、クロロフィル蛍光法、リモートセンシング、渦相関法、酸素発生測定などがある。どの方法も一長一短があり、目的に応じた選択が重要である。葉から生態系まで多層的に測定技術を駆使することで、作物の収量予測、環境ストレス診断、地球規模の炭素循環評価に活用できる。
光合成速度の指標の種類について
光合成速度は単一の数値で表されるものではなく、目的や対象スケールに応じて複数の指標が用いられる。研究、農業、環境科学の分野では、それぞれの指標を正しく理解し使い分けることが不可欠である。ここでは、葉レベルから群落・生態系レベルまでの代表的な光合成速度の指標について整理する。
純光合成速度(Net Photosynthetic Rate, A)
最も一般的に用いられるのが純光合成速度である。これは葉が吸収する二酸化炭素の量から、同時に行われる呼吸による二酸化炭素放出を差し引いたもので、実際に植物が有機物として固定できる炭素の量を表す。
- 単位は通常 μmol CO2 m⁻² s⁻¹
- 葉面積あたりにどれだけ効率的に炭素を固定できるかを示す
- 作物の生産性や耐ストレス性評価に最も利用される
純光合成速度は環境要因(光、温度、CO2濃度、水分)や品種特性を直接反映するため、農業現場でも育種や施肥・灌漑管理の指標として重要である。
総光合成速度(Gross Photosynthetic Rate, GPP)
純光合成速度に呼吸による放出量を加えた値が総光合成速度である。光合成そのものの潜在能力を知るために利用される。
- 「光合成のエンジンがどれだけ回っているか」を示す値
- 純光合成との違いは、植物が内部で消費する呼吸分を含むかどうかにある
- 実験室では呼吸を補正して算出できるが、フィールドでは測定が難しい
GPPは生態系スケールでの炭素循環研究にも使われ、森林や農地がどの程度CO2を吸収しているかを評価する際に欠かせない。
光合成補償点(Compensation Point)
光合成速度がゼロになる光強度またはCO2濃度を補償点という。これは光合成による二酸化炭素固定と呼吸による二酸化炭素放出がちょうど釣り合った状態である。
- 光補償点は、葉が光を吸収しても成長には寄与しない限界の光強度を示す
- CO2補償点は、CO2濃度が低すぎて光合成が成り立たなくなる境界を示す
- 光合成能力の比較や環境ストレスの影響評価に用いられる
光補償点が低い植物は弱光環境でも光合成を維持できるため、林床植物や耐陰性植物の特性評価に利用される。
光合成飽和点(Saturation Point)
光強度が高まってもそれ以上光合成速度が上がらなくなる点が光合成飽和点である。
- 葉が利用できる光の限界を示す指標
- 強光環境に適応する植物は飽和点が高く、弱光植物は低い
- 温室や植物工場における照明設計や遮光管理に応用される
飽和点を超える光を当てても光合成は増加せず、過剰な光は光阻害を引き起こすリスクがあるため、栽培管理において重要な基準となる。
光合成量子収率(Quantum Yield)
吸収した光子あたりにどれだけのCO2が固定されるかを示す効率の指標である。特に低光条件での光合成性能を比較する際に用いられる。
- 理論的最大値は約0.08 mol CO2 mol⁻¹ photon
- 実際には種や環境条件によって低下する
- 光利用効率を評価する上で必須の指標
耐陰性や光阻害耐性の評価、さらに人工照明下の作物栽培において光資源利用効率を高める指標として活用されている。
日光合成量(Daily Photosynthesis, または日積算同化量)
瞬間的な光合成速度だけでなく、1日を通じてどれだけの炭素が固定されたかを積算した値も重要である。
- 日長や気象条件を反映する実用的な指標
- 作物収量や群落生産性を評価する際に欠かせない
- 日中の午後落ち(午後に光合成速度が下がる現象)も含めて把握できる
積算値は最終的な収量に直結するため、瞬間的な光合成速度よりも農業実務に近い視点を与える。
生態系スケールの指標(GPP・NPP・NEE)
群落や生態系全体での光合成速度を評価する場合、以下のような指標が用いられる。
- GPP(Gross Primary Production): 総一次生産、光合成によって生態系全体で固定された炭素量
- NPP(Net Primary Production): 純一次生産、GPPから植物呼吸を引いた実際の炭素蓄積量
- NEE(Net Ecosystem Exchange): 生態系全体と大気の間で交換される炭素収支
これらはフラックスタワー観測や衛星リモートセンシングによって推定され、気候変動研究や森林管理、農業の環境負荷評価に直結する。
指標の選び方と活用の実際
研究目的によって使う指標は異なる。
- 葉単位での生理機能を評価するなら純光合成速度や量子収率
- 環境ストレスの診断なら補償点や飽和点
- 作物の収量予測には日積算光合成量
- 地球規模の炭素循環評価にはGPP・NPP・NEE
複数の指標を組み合わせて解析することで、瞬間的な速度だけでなく、長期的な生産性や環境適応性を包括的に評価できる。
まとめ
光合成速度を表す指標には、純光合成速度や総光合成速度といった基本的なものから、補償点・飽和点・量子収率など環境応答を示すもの、さらには日積算光合成量や生態系スケールのGPP・NPP・NEEまで多様な種類がある。これらの指標は研究目的や対象スケールによって使い分けられ、作物育種、環境ストレス診断、農業管理、地球環境研究といった幅広い分野で役立つ。
光合成速度に影響する要因について
光合成速度は一定の値ではなく、植物の種類や環境条件、栄養状態など多様な要因によって変動する。これらの要因を理解することは、作物の生産性向上や温室での栽培環境の最適化、さらには地球規模での炭素循環の把握に直結する。ここでは、光合成速度に影響を与える主要な要因を整理し、それぞれがどのように作用するかを詳しく解説する。
光(光強度・光質)
光合成は光エネルギーを駆動力とするため、光の量と質が直接的な影響を及ぼす。
- 光強度: 低光下では光量子数が不足し光合成速度は直線的に増加するが、一定以上の光で飽和点に達する。強光では光阻害が起こり、逆に速度が低下する場合がある。
- 光質: 青色光や赤色光は光合成効率が高く、緑色光は効率が低いとされる。しかし群落レベルでは緑色光が葉層深部に届き、全体的な光合成に寄与する。近年はLED照明による光質制御が研究・応用されている。
二酸化炭素濃度
CO2は光合成の主要な原料であり、その濃度が上昇すれば光合成速度は増加する。ただし無制限に上がるわけではなく、以下の点に注意が必要である。
- 低濃度ではRuBisCOのカルボキシラーゼ反応が律速し、速度が大きく低下する。
- 高濃度では飽和に達し、光合成速度は頭打ちになる。
- 長期的には葉の光合成能力が調整され、窒素代謝やシンク能力によって制限を受ける。
温室栽培におけるCO2施用はこの原理を応用しており、特に冬期や密植環境で効果が高い。
温度
温度は酵素反応と気孔の挙動に大きく関わる。
- 最適温度帯: 光合成酵素RuBisCOをはじめとする代謝酵素は一定の温度範囲で最大活性を発揮する。多くのC3植物では20〜30℃が最適である。
- 高温: 光呼吸が増大し、光合成速度は低下する。膜の安定性が失われ、光阻害やクロロフィル分解も起こりやすくなる。
- 低温: 代謝全体が低下し、光利用が不十分となる。特に熱帯性植物では低温ストレスによる光合成抑制が顕著である。
水分と気孔伝導度
水分は気孔の開閉を通じてCO2供給を調整する。
- 水分が十分であれば気孔は開き、CO2が効率的に葉内へ拡散する。
- 乾燥条件下では水分蒸散を防ぐために気孔が閉じ、CO2供給が制限され光合成速度が低下する。
- 大気の湿度や蒸散要求(VPD: 飽差)も関与し、乾燥した空気では気孔が閉じやすい。
灌漑管理は光合成速度維持のための基本的な手段であり、過剰水分による根の酸素不足にも注意が必要である。
栄養状態(特に窒素)
窒素はクロロフィルやRuBisCOなど光合成関連分子の主要成分であるため、窒素不足は直接的に光合成速度を低下させる。
- 窒素施肥はRuBisCO活性や電子伝達速度を高め、光合成能力を増強する。
- ただし過剰施肥は呼吸負担の増大や病害虫リスクを招く。
- リンやカリウムもATP合成や浸透調節を通じて光合成に関与する。
葉齢・葉位
光合成能力は葉の発達段階によって異なる。
- 若葉ではクロロフィル量が少なく光合成速度は低い。
- 成熟葉で最大となり、老化が進むと光合成能力は低下する。
- 群落では上位葉が強光を受け高い光合成速度を維持し、下位葉は弱光下で補償点に近い値を示す。
葉齢や葉位の影響を把握することは、剪定や収穫時期の判断にも役立つ。
植物の種類と光合成型
植物の光合成型によって、環境応答は大きく異なる。
- C3植物: イネ、コムギ、ダイズなど。温帯で一般的だが高温や低CO2に弱く、光呼吸の影響を受けやすい。
- C4植物: トウモロコシ、サトウキビ、キビなど。CO2濃縮機構を持ち、高温・強光下で高い光合成速度を維持する。
- CAM植物: サボテン、アロエなど。夜間にCO2を固定し、日中に光合成を行うため乾燥環境に強い。
作物ごとの特性を理解することは、栽培環境の最適化に直結する。
生物的・非生物的ストレス
病害虫や環境ストレスも光合成速度に大きな影響を与える。
- 病害による葉の損傷やクロロフィル破壊は光合成能力を低下させる。
- 塩害や重金属汚染はイオンバランスを乱し、酵素活性や水分利用を阻害する。
- オゾンや大気汚染物質は電子伝達系や気孔機能を障害する。
これらの影響を早期に診断するためにクロロフィル蛍光法やリモートセンシングが利用されている。
シンク能力(転流先の需要)
光合成産物を受け取る器官(根、果実、茎)の需要も光合成速度を左右する。
- シンクが強ければ葉内での糖蓄積が抑制され、光合成は高いレベルを維持する。
- シンクが弱い場合、糖の滞留によって光合成は制限される。
- 果実肥大期や根の旺盛な成長期は、シンク能力が光合成を引き上げる要因となる。
まとめ
光合成速度は光強度、CO2濃度、温度、水分、栄養状態、葉齢、光合成型、ストレス、シンク能力といった多様な要因の相互作用によって決まる。単一の条件で説明できるものではなく、環境と生理状態のバランスを総合的に理解する必要がある。これらの知識を活用すれば、作物栽培における環境制御、施肥・灌漑管理、品種選択、さらには地球規模での炭素循環の解析に応用できる。


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