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植物生育促進細菌とは、植物の根のまわりや体の中にすみ、養分の吸収を助けたり病気をおさえたりして、植物の成長を後押しする細菌のことです。2026年に発表された総説論文では、これまでほとんど調べられてこなかった「昆虫」の体の中が、植物生育促進細菌の新しい供給源として有望だと報告されています。実際に、畑の害虫であるハムシやガの幼虫から取り出した細菌で、トマトの病気の広がりが大きく減ったり、エンバクの地上部の重さが約89%増えたりした研究も紹介されています。この記事では、植物生育促進細菌の基本的な仕組みから、昆虫由来の細菌の研究成果と課題、家庭菜園での土づくりへの活かし方までを、論文の内容に沿ってわかりやすく解説します。
- 植物生育促進細菌(PGPB)とは?
- なぜ今、植物生育促進細菌が注目されているの?
- 植物生育促進細菌はどんな仕組みで植物を助けるの?
- 植物生育促進細菌はこれまでどこから見つかってきたの?
- なぜ昆虫が新しい探し場所として注目されているの?
- 昆虫の体にはどんな細菌がすんでいるの?
- 昆虫はどうやって細菌を植物に運ぶの?
- 昆虫から植物生育促進細菌を見つけるにはどうするの?
- 昆虫由来の細菌にはどんな働きが確認されているの?
- 昆虫由来の細菌でトマトの病気は本当に減ったの?
- 昆虫由来の細菌で作物の生育や収量は増えたの?
- 昆虫由来の細菌を畑で使うにはどんな課題があるの?
- これから昆虫由来の細菌はどう活用されていくの?
- 家庭菜園で土の微生物を活かすにはどうすればいい?
- まとめ
- よくある質問(Q&A)
- 参考文献
植物生育促進細菌(PGPB)とは?
植物生育促進細菌(PGPB:Plant Growth Promoting Bacteria)とは、植物と共生し、養分の供給や植物ホルモンの産生、病原菌の抑制などを通じて植物の生育を促す細菌の総称です。
土の中や植物の表面、植物の組織の中には、数えきれないほどの細菌がすんでいます。その多くは植物に害も益も与えませんが、一部の細菌は植物の成長を助けたり、病気から守ったりする働きを持っています。こうした「植物の味方になる細菌」をまとめて呼ぶ言葉が、植物生育促進細菌です。
似た言葉に「PGPR(Plant Growth Promoting Rhizobacteria:植物生育促進根圏細菌)」があります。根圏(こんけん)とは、植物の根のまわりの、根から出る物質の影響を受けている土の領域のことです。PGPRは植物生育促進細菌のうち、とくに根圏にすむものを指します。つまり、PGPBのほうが少し広い意味の言葉だと考えるとわかりやすいでしょう。
また、植物の組織の中にすみついて、病気を起こさずに共存している微生物は「エンドファイト(内生菌)」と呼ばれます。植物生育促進細菌の中には、根から植物の中に入り込み、茎や葉、塊茎(イモ)にまで移動してエンドファイトとして暮らすものもいます。エンドファイトについては、植物の中にすむ微生物エンドファイトと持続可能な農業で詳しく紹介しています。
今回紹介するのは、ポーランド国立植物保護研究所の研究グループが、2026年に学術誌「Microbial Ecology」に発表した総説論文です(論文本文(Microbial Ecology))。総説とは、特定のテーマについて多くの研究を集め、整理してまとめた論文のことです。著者らは2025年1月から6月にかけて、2000年から2025年に発表された論文をデータベースで体系的に検索し、「昆虫から分離され、植物の生育を促す性質を示した細菌」を扱った研究を中心に整理しています。
なぜ今、植物生育促進細菌が注目されているの?
植物生育促進細菌が注目されている最大の理由は、化学肥料や農薬に頼りすぎた農業のひずみを和らげる手段として期待されているからです。
論文の冒頭では、次のような背景が説明されています。
- 世界の人口は、21世紀の終わりまでに100億人を超えると予測されている
- 食料の需要を満たすために農業の集約化が進み、化学合成肥料の使用量が増えてきた
- その結果、生物多様性、土壌の質、水資源に悪い影響が出ている
- こうした問題への意識が高まり、環境にとってより安全な代わりの方法が求められている
その「代わりの方法」の一つが、植物生育促進細菌の利用です。細菌の力を借りて養分を植物に届ける資材は「生物肥料(バイオ肥料)」、病害虫をおさえる資材は「生物農薬」と呼ばれ、いずれも化学肥料や化学農薬の使用量を減らす手段として研究が進んでいます。
とくに無駄が大きいとされているのがリンです。論文によると、畑にまいたリンの肥料のうち、植物に実際に利用されるのは約20%にすぎません。残りの多くは土の中のカルシウムや鉄などと結びついて、植物が吸収できない形になってしまいます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施用したリン肥料のうち植物が利用する割合 | 約20% |
| 残りのリンの主な行方 | 土の中でカルシウムや鉄と結びつき、溶けにくい形(リン酸三カルシウム、リン酸鉄など)になる |
| 植物生育促進細菌による解決策 | 有機酸やホスファターゼ(リン酸を切り離す酵素)を出して、溶けにくいリンを植物が使える形に戻す |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
化学肥料や化学農薬にできるだけ頼らない農業への関心は、野菜を買って食べる側にも広がっています。こうした方法で育てられた野菜がどんな味なのか、まずは食卓で確かめてみたい方には、次のような野菜の定期宅配を試してみるのも一つの方法です。
化学合成農薬・化学肥料不使用。環境負荷の小さい農法で育てられたお野菜
植物生育促進細菌はどんな仕組みで植物を助けるの?
植物生育促進細菌が植物を助ける仕組みは、大きく「直接的な仕組み」と「間接的な仕組み」に分けられます。直接的な仕組みは、養分や植物ホルモンを通じて植物の成長そのものを促すもの、間接的な仕組みは、病原菌をおさえたりストレスを和らげたりして、植物が育ちやすい環境を整えるものです。
論文で紹介されている主な働きを、表にまとめました。
| 働き | 内容 | 代表的な細菌の例 |
|---|---|---|
| 窒素固定 | 空気中の窒素を、ニトロゲナーゼという酵素で植物が使えるアンモニアに変える | アゾスピリラム属(トウモロコシやコムギの窒素利用を高め、収量を増やす) |
| リン酸の可溶化 | 有機酸で土を酸性にしたり、ホスファターゼを出したりして、溶けにくいリンを溶かす | バチルス・メガテリウム、シュードモナス・フルオレッセンス |
| 植物ホルモンの産生 | オーキシン(IAA)、ジベレリン、サイトカイニンなどをつくり、根の伸びや発芽、細胞分裂を促す | アゾスピリラム・ブラシレンセ、枯草菌 |
| 誘導全身抵抗性(ISR) | 植物の体全体の防御スイッチを入りやすくし、病害虫にすばやく反応できる状態にする | バチルス・アミロリクエファシエンス(アブラムシへの抵抗性を高める) |
| シデロフォアの産生 | 鉄と強く結びつく物質をつくり、植物が鉄を吸収しやすくする。病原菌が鉄を使えないようにもする | パエニバチルス属、バチルス属(ラッカセイの生育と収量を改善) |
| 病原体への拮抗作用 | 抗菌物質を出したり、すみかや養分を奪い合ったり、病原細菌どうしの情報伝達を妨害したりする | 枯草菌(フザリウム属や灰色かび病菌の仲間をおさえる物質をつくる) |
| 非生物的ストレスの緩和 | 抗酸化酵素の働きを高め、乾燥や塩害、高温などのストレスを和らげる | セラチア・マルセッセンス(コムギの塩ストレスへの耐性を高める) |
| 土壌構造の改善 | ネバネバした多糖やバイオフィルムをつくり、土の団粒化や保水性を高める | ミネラルを溶かす細菌の仲間 |
| 酵素の産生 | エチレンのもとを分解するACCデアミナーゼや、病原菌の細胞壁を壊すキチナーゼなどをつくる | バチルス・サフェンシス(ストレス下のデュラムコムギの生育を支える) |
| バイオレメディエーション | 石油系の汚染物質や重金属、農薬の残留物を分解・無害化する | ロドコッカス属、ジオバクター属 |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
この中でも、植物ホルモンの働きは少し補足しておきましょう。植物ホルモンとは、植物が自分でつくり、ごく少ない量で成長や開花、ストレスへの反応を調節する物質のことです。植物生育促進細菌は、こうしたホルモンを自らつくったり、植物のホルモンのバランスを変えたりすることで、根を伸ばしたり、ストレスに耐えやすくしたりしています。植物ホルモンの種類や働きの全体像は、植物ホルモンの種類と働きをまとめた記事で詳しく紹介しています。
また、誘導全身抵抗性(ISR)は、有用な微生物が根にいることで、植物の体全体が病害虫に備えた「準備万端」の状態になる現象です。植物がもともと持っている防御の仕組みについては、植物の抵抗性のしくみを解説した記事もあわせて読むと理解が深まります。

植物生育促進細菌はこれまでどこから見つかってきたの?
植物生育促進細菌は、これまで主に「土」と「植物の組織」から見つけられてきました。論文では、ほかにも水、牛乳、牛ふんから分離された例まで紹介されています。
これらの環境の微生物は長年にわたって詳しく研究されており、植物生育促進細菌の信頼できる供給源とみなされています。例えば、空気中の窒素を植物が使える形に変える細菌については、窒素固定菌の役割と種類を解説した記事で詳しく紹介しています。
一方で、昆虫から見つかった植物生育促進細菌の情報はごくわずかです。論文では、昆虫由来の細菌の研究が進んでこなかった理由として、次の4つが挙げられています。
- 生きた昆虫を採集しなければならない
- 1匹が小さいため、調べられる試料の量がもともと少ない
- 昆虫と共生している細菌は、実験室で培養するのが難しいものが多い
- 培養せずに遺伝子を直接調べる方法(メタゲノム解析)に頼ることが多く、その方法では生きた菌株が手に入らない
植物生育促進細菌を資材として使うには、生きた菌株を取り出して増やす必要があります。遺伝子を読むだけでは「どんな細菌がいるか」はわかっても、それを畑で使うことはできません。この壁が、昆虫由来の細菌の研究を遅らせてきたのです。
なぜ昆虫が新しい探し場所として注目されているの?
昆虫が注目される理由は、昆虫が「非常に多様で、植物と深く関わり、厳しい環境でも生きている生き物」だからです。論文では、主に次のような理由が挙げられています。
| 注目される理由 | 内容 |
|---|---|
| 種類がとても多い | 昆虫は100万種以上が記載されている、最も多様な動物のグループ。あらゆる環境にすみ、それぞれ多様な微生物と関わっている |
| 細菌の数が多い | 種類によっては、腸1本あたり約10億個(10の9乗個)の細菌がすんでいることがある |
| 植物と共進化してきた | 多くの昆虫は植物と長い時間をかけて共に進化してきたため、特定の植物とのつき合いに特化した細菌を持っている可能性がある |
| 厳しい環境にすんでいる | 乾燥や高温などのストレスが大きい環境にすむ昆虫も多く、その細菌はストレスに強い性質を持っている可能性がある |
| 未利用の性質が眠っている | 生息環境や食べ物が多様なため、まだ農業に使われていない独自の性質を持つ細菌が見つかる可能性がある |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
論文ではさらに、どんな昆虫の細菌が植物生育促進細菌の候補になりやすいかについても整理しています。ポイントは、細菌が「どうやって昆虫の体に入ったか」です。
- 親から子へ受け継がれる細菌(垂直伝播):アブラムシの体内にすむブフネラ属や、多くの昆虫にすむボルバキア属など。昆虫と安定した関係を結んでいるが、昆虫の体の外では培養できないものが多い
- 周りの環境から取り込まれる細菌(水平伝播):餌や土、植物の表面から取り込まれるもの。種類が多様で、培養できるものも多く、植物生育促進細菌の候補として最も有望
つまり、植物生育促進細菌の候補を探すなら、昆虫と一生を共にする特殊な共生細菌よりも、昆虫が環境から取り込んだ細菌や、状況に応じて昆虫と関わる細菌のほうが狙い目だということです。
ただし論文は、培養できない共生細菌にも価値があると指摘しています。そうした細菌のゲノムに、植物ホルモンをつくる遺伝子やストレスに強くなる遺伝子が見つかれば、将来的に研究の手がかりになるかもしれないからです。
昆虫の体にはどんな細菌がすんでいるの?
昆虫の細菌は、主に「腸」「体の表面(クチクラ)」「体内の共生細菌」の3か所にすんでいます。それぞれが昆虫の生活に深く関わっています。
腸にすむ細菌は、昆虫の消化に欠かせない存在です。植物の葉や茎は、かたくて消化しにくいうえに、栄養が少なく、ときには毒となる成分も含んでいます。腸内細菌は、こうした複雑な植物の成分を分解し、有害な物質を無毒化し、不足しがちな栄養素をつくることで、昆虫の成長と繁殖を支えています。
昆虫と腸内細菌の関係が初めて注目されたのは、1929年のことです。一生を通じて血液だけを吸って生きる吸血性のサシガメ類が、血液に足りないビタミンB群を共生細菌から得ているのではないか、という仮説が立てられました。それから約100年、昆虫と細菌の関係は、最もよく研究されている微生物の世界の一つになっています。
腸内細菌の顔ぶれは、決して固定されたものではありません。論文では、腸内細菌の構成を左右する要因として次のものが挙げられています。
| 要因 | 具体例 |
|---|---|
| 昆虫の種類 | 同じ餌を食べていても、種類によって細菌の構成が異なる |
| 餌 | キャベツの害虫コナガでは、腸内細菌と餌の成分の間に強い相関がある。広い範囲の植物を食べるハムシの仲間ほど、腸内細菌の構成が複雑になる |
| 発育段階 | カメムシの仲間の一部は、幼虫のはじめは共生細菌をほとんど持たず、成長の途中で腸にバークホルデリア属の細菌が定着する。ツマジロクサヨトウの幼虫では、成長段階ごとに優勢な細菌が入れ替わる |
| 環境 | 温度、湿度、重金属や農薬などの汚染が、細菌の構成を変える |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
体の表面のクチクラ(昆虫の体を覆うかたい外皮)にも、多様な細菌がすんでいます。クチクラと、そこにすむ細菌は、寄生者や病原体、有害な化学物質から昆虫を守る「防御壁」の役割を果たしています。表面の細菌が有害な病原体との競争に勝ったり、昆虫の免疫を刺激したりすることで、防御がより強くなるのです。論文によると、表面の細菌の群集が豊かな昆虫ほど、繁殖の成功率が高い傾向があるとされています。

昆虫はどうやって細菌を植物に運ぶの?
昆虫は、植物を食べたり花を訪れたりする過程で、細菌を植物へ運ぶ「運び屋」の役割も果たしています。昆虫が病原菌を運ぶことはよく知られていますが、論文では、有益な細菌も同じように運ばれていることが紹介されています。
論文で挙げられている主な運び方は、次のとおりです。
- 食害の傷口から:葉や茎、根がかじられてできた傷は、病原菌だけでなく、植物生育促進細菌などの有益な細菌の入り口にもなる
- 唾液を通して:植物を食べるときに、唾液とともに腸内細菌が植物へ移る
- 土と植物の橋渡し:土の中の細菌を取り込み、あとで食べている植物の表面に残していく。これにより、土の細菌と昆虫の腸内細菌の間で双方向のやり取りが起こる
- 花から花へ:ハチなどの花粉を運ぶ昆虫が、花の表面の微生物をほかの植物へ運ぶ
- 産卵や排せつ、直接の接触:卵を産みつけたり、ふんをしたり、体が触れたりすることでも細菌が移る
花粉を運ぶ昆虫が畑にもたらす恵みについては、ポリネーター(花粉を運ぶ昆虫)とソラマメ畑の関係を紹介した記事でも詳しく取り上げています。
論文では、身近な害虫であるアブラムシとコナジラミの例も紹介されています。
| 昆虫 | 細菌との関わり方 |
|---|---|
| アブラムシ | 土と植物の間で細菌をやり取りする。汁を吸うときに病原細菌を持ち込むこともある。甘い排せつ物(甘露)が葉の表面で微生物の増殖を促し、有益な細菌も病原細菌も広がりやすくなる。一方、植物にあらかじめシュードモナス・フルオレッセンスなどの有益な細菌が定着していると、全身抵抗性が誘導され、植物がアブラムシに好まれにくくなることがある |
| コナジラミ | 葉などの地上部に寄生すると、その影響が根にまで及び、根のまわりで有益なシュードモナス属の細菌が増えることがある |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
アブラムシと細菌の関係は、ほかにもさまざまな研究が進んでいます。アブラムシに病気を起こす細菌を利用する研究については、アブラムシを殺す細菌の研究を紹介した記事もあわせてご覧ください。
また論文は、昆虫・細菌・植物の関係が、植物ホルモンを介しても結びついていると説明しています。植物食性の昆虫に食べられると、植物の中でサリチル酸、ジャスモン酸、エチレンといったホルモンの量が変わります。すると植物全体の反応が引き起こされ、植物の中や根のまわりの細菌の顔ぶれまで変わるのです。虫にかじられることが、めぐりめぐって土の中の細菌にまで影響している、というのは興味深いところです。
一方で、論文は農業のやり方がこうしたつながりを壊してしまう危険性も指摘しています。
- 同じ作物を広い面積で作り続ける単一栽培は、土の微生物の量と種類を減らし、養分の循環や土壌構造を乱す
- 単一栽培では害虫が作物の防御に早く適応しやすくなり、害虫と天敵のバランスが崩れて化学農薬への依存が高まる
- 化学的な処理は土の微生物の多様性を下げ、植物と細菌の共生を乱す
- 除草剤は、天敵を呼び寄せる植物の香り成分(揮発性有機化合物)の合成を妨げることがある
- アブラムシやヨコバイでは、ごく少量の農薬でも食べ方が変わり、植物に付く微生物にまで影響が及ぶ
昆虫から植物生育促進細菌を見つけるにはどうするの?
昆虫から植物生育促進細菌を見つけるには、主に「メタゲノミクス」「カルチャロミクス」「生物検定(バイオアッセイ)」の3つの方法を組み合わせます。
| 方法 | どんな方法? | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|
| メタゲノミクス | 昆虫などの試料からDNAをまとめて取り出し、大量の配列を読み取って、どんな細菌がいるか、どんな遺伝子を持っているかを調べる | 培養できない細菌も含めて、全体像を把握できる。窒素固定遺伝子などの有用な遺伝子も見つけられる | 生きた菌株が手に入らないため、資材として使えない |
| カルチャロミクス | 培地の種類、pH、温度、酸素の量、炭素源などの条件を変えながら、細菌を網羅的に培養する | 生きた菌株が得られる。昆虫の腸内の環境(酸素が少ない、栄養が限られているなど)を再現すれば、ふつうは育たない細菌も取り出せる | 手間がかかる。どうしても培養できない細菌もいる |
| 生物検定(バイオアッセイ) | 取り出した細菌を植物に接種し、根の長さ、茎葉の高さ、植物体の重さ、収量などを測る | 植物への効果を直接確かめられる。温室で条件をそろえて比べられる | 温室の結果が、そのまま畑で再現できるとは限らない |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
論文がとくに重視しているのは、カルチャロミクスです。昆虫の体の中の細菌の多くは宿主に高度に適応していて、実験室の標準的な条件では育ちません。そこで、昆虫の腸内の化学的な環境や、栄養の少なさ、酸素の少なさなどを再現した条件で培養することで、ほかの方法では手の届かない細菌を取り出せるのです。
生きた菌株が手に入れば、そのゲノムを調べて、植物ホルモンをつくる遺伝子や、病原菌をおさえる物質をつくる遺伝子のまとまりを探すこともできます。こうした性質は、培養株がなければ検出も試験もできません。「遺伝子で全体を見わたし、培養で菌株を手に入れ、植物で効果を確かめる」という流れが、昆虫由来の植物生育促進細菌を探す基本の道筋だといえます。
カルチャロミクスの成功例としては、昆虫の腸から取り出したセラチア・マルセッセンスが人工培地での試験で殺虫性を示した例や、チョウやガの幼虫から取り出したバチルス・チューリンゲンシス(BT菌)の殺虫性が明らかになり、生物農薬として広く使われるようになった例が紹介されています。BT剤は家庭菜園でも使われている生物農薬なので、身近に感じる方も多いのではないでしょうか。

昆虫由来の細菌にはどんな働きが確認されているの?
論文によると、昆虫由来の細菌は、土や植物から見つかる植物生育促進細菌と同じ種類の働きを、ひと通りすべて持っています。窒素固定、リン酸の可溶化、植物ホルモンの産生、シデロフォアの産生、病原菌への拮抗作用、酵素の産生、そして汚染物質の分解まで、さまざまな働きが報告されています。
論文の表1にまとめられた、植物生育促進の性質が報告された昆虫由来の細菌のうち、主なものを紹介します。
| 宿主の昆虫 | 細菌を取り出した場所 | 主な細菌 | 確認された働き | 試験した植物 |
|---|---|---|---|---|
| コナガ(キャベツなどの害虫) | 幼虫の腸 | アシネトバクター属、シュードモナス属、セラチア属 | 窒素固定、リン酸の可溶化、植物ホルモン、シデロフォア、病原菌への拮抗、酵素 | セイヨウアブラナ、トマト |
| キノコシロアリの仲間 | 腸 | バチルス・セレウス、枯草菌 | リン酸の可溶化、シデロフォア、病原菌への拮抗、土壌構造の改善 | カイラン(中国野菜) |
| アメリカタバコガ(トウモロコシやトマトの害虫) | 腸 | エンテロバクター・ルドウィギイ | 病原菌・害虫への拮抗、酵素 | トマト |
| ツマジロクサヨトウ(トウモロコシなどの害虫) | 唾液 | パントエア・アナナティスなど | 誘導全身抵抗性 | トマト、トウモロコシ |
| 捕食性のカスミカメムシ類(天敵昆虫) | 体表、体内 | パラバークホルデリア属、エンテロバクター属 | 誘導全身抵抗性、病原菌・害虫への拮抗 | トマト |
| ミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシ) | 腸 | クレブシエラ属 | 窒素固定、汚染物質の分解 | 試験なし |
| キクイムシ類、カミキリムシの一種 | 腸 | エンテロバクター属、クレブシエラ属など | 窒素固定 | 試験なし |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の表1をもとに一部を抜粋・再構成
働きごとに見ると、昆虫由来の細菌の研究の進み具合には、かなりばらつきがあります。
窒素固定については、甲虫、ハエ、カメムシ、ハチ、チョウ・ガ、アザミウマなど、多くの昆虫のグループで窒素固定細菌が見つかっています。論文によると、窒素固定細菌を持つのは植物食性の昆虫が中心で、捕食性の昆虫は見当たらないことから、窒素の少ない餌を食べる昆虫ほど窒素固定細菌に頼っていると考えられています。例えば、イネの害虫イナズマヨコバイの腸からは窒素固定遺伝子を持つ細菌が見つかり、シロアリやゴキブリも共生細菌の力で窒素不足を補っています。ただし、昆虫由来の窒素固定細菌を植物の試験に使った報告は、まだありません。
病原菌への拮抗作用については、コナガの腸から取り出したシュードモナス属の菌株が、試験した8種類の病原性のカビのうち5種類の生育を強くおさえ、とくに炭疽病菌とリゾクトニア菌(苗立枯病などの原因菌)に強い効果を示したことが紹介されています。シロアリから取り出した細菌も、疫病菌の仲間などをおさえました。
キャベツの害虫コナガについては、コナガの食害と薬剤に頼らない対策をまとめた記事で生態や対策を紹介しています。
酵素の産生は、昆虫由来の細菌の中で最もよく研究されている分野です。昆虫の消化を研究する中で、酵素をつくる細菌が数多く見つかってきたためです。カイコの腸からはセルロースやペクチン、デンプンを分解する11種類の細菌が見つかり、ツマジロクサヨトウの幼虫からは、病原菌の細胞壁や害虫の外骨格の成分であるキチンを分解する細菌が見つかっています。オオタバコガの幼虫から取り出したセラチア・マルセッセンスのキチン分解酵素は、ガの幼虫に対する殺虫性も示しました。
一方で、誘導全身抵抗性については、昆虫由来の細菌に絞った研究はまだないと論文は述べています。また、乾燥や塩害などのストレスを和らげる働きも、昆虫由来の細菌については信頼できるデータが少ない段階です。
昆虫由来の細菌でトマトの病気は本当に減ったの?
はい。温室でトマトを使った実験で、害虫から取り出した細菌を散布したところ、病気が広がった葉の面積が大きく減ったと報告されています。
この研究では、麦の葉を食べる「ムギクビボソハムシ」と、トウモロコシの茎にもぐり込む「ヨーロッパアワノメイガ」という2種類の害虫から、次の細菌が取り出されました。
- ラクトコッカス・ラクティス(ムギクビボソハムシ由来):チーズづくりにも使われる乳酸菌の一種
- パントエア・アナナティス(ムギクビボソハムシ由来)
- セラチア・リクエファシエンス(ヨーロッパアワノメイガ由来)
ヨーロッパアワノメイガは、日本のトウモロコシの害虫アワノメイガの近縁種です。アワノメイガの生態や被害については、アワノメイガの生態と対策をまとめた記事で紹介しています。
取り出した細菌をトマトに散布し、トマトの葉に同心円状の斑点ができる「輪紋病」の菌(アルタナリア・ソラニ)と、カビで葉や実が腐る「灰色かび病」の菌(ボトリチス・シネレア)をわざと感染させて、病気が広がった葉の面積の割合を比べました。
トマト輪紋病の結果:
| 処理 | 病気が広がった葉の面積の割合 |
|---|---|
| 細菌なし(対照) | 42.64% |
| セラチア・リクエファシエンス On036株 | 22.91%(統計的な有意差なし) |
| パントエア・アナナティス Om041株 | 15.03%(統計的な有意差なし) |
| ラクトコッカス・ラクティス Om040株 | 10.19% |
| すべての細菌を混ぜたもの | 8.93% |
| セラチア・リクエファシエンス On035株 | 7.45% |
トマト灰色かび病の結果:
| 処理 | 病気が広がった葉の面積の割合 |
|---|---|
| 細菌なし(対照) | 27.14% |
| セラチア・リクエファシエンス On035株 | 13.61%(統計的な有意差なし) |
| セラチア・リクエファシエンス On036株 | 11.82%(統計的な有意差なし) |
| ラクトコッカス・ラクティス Om040株 | 5.7% |
| パントエア・アナナティス Om041株 | 4.73% |
| すべての細菌を混ぜたもの | 4.31% |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
輪紋病では、いちばん効果の大きかったOn035株で、病気が広がった面積が細菌なしの約6分の1にまで減っています。灰色かび病でも、数種類の細菌を混ぜたものは約6分の1に減りました。
おもしろいのは、同じセラチア・リクエファシエンスでも、On035株は輪紋病によく効いた一方、灰色かび病では有意な差が出なかったことです。細菌の効果は、菌の種類だけでなく株ごとに、そして相手の病原菌ごとに違うことがわかります。
なぜ病気が減ったのか、その仕組みはまだはっきりとはわかっていません。論文では、これらの細菌がセルロース(植物の細胞壁の成分)を分解する力を持っていたことに注目しています。この力によって細菌が植物の上に住みつきやすくなり、すみかや養分をめぐる競争で病原菌より優位に立てたのではないかと考えられています。

昆虫由来の細菌で作物の生育や収量は増えたの?
はい。論文では、昆虫由来の細菌で麦の生育が大きく伸びた研究と、トマトの収量が増えた研究が紹介されています。
リンを溶かす昆虫由来の細菌で、麦がよく育った
一つめは、リンを溶かす力を持つ昆虫由来の細菌を使った研究です。ウエスタンコーンルートワーム(トウモロコシの根を食べるハムシの仲間)やムギクビボソハムシなどから、ラクトコッカス・ガルビエアエ、ラクトコッカス・ラクティス、アシネトバクター属、ロチア・クリスティナエといった細菌が取り出されました。
まず、試験管内の試験で、リンを溶かす力が確かめられました。使われたのは「ピコフスカヤ培地」と呼ばれる、溶けにくいリン酸カルシウムを含む培地です。リンを溶かせる細菌は、周りのリン酸カルシウムを溶かして透明な輪をつくるため、ひと目で見分けることができます。
続いて温室で、エンバク、コムギ、ライムギ、オオムギ、ダイズを育て、細菌を接種したときの地上部の生育を比べました。
| 作物 | 接種した細菌 | 地上部の重さの増え方(細菌なしと比べて) |
|---|---|---|
| エンバク | ラクトコッカス・ラクティス | 約89%増(88.98%) |
| コムギ | ラクトコッカス・ガルビエアエ | 約31%増(31.43%) |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
エンバクでは、地上部の重さが2倍近くに増えたことになります。さらに、細菌を加えた土ではリンを切り離す酵素(ホスファターゼ)の働きが高まっており、細菌が土の中のリンを植物に使いやすくしていたことがうかがえます。
セラチア菌で、トマトの実の数と重さが増えた
二つめは、トマトの収量を調べた研究です。ムギクビボソハムシとウエスタンコーンルートワームから取り出した細菌について、リンを溶かす力、セルロースやタンパク質、脂肪を分解する酵素をつくる力、シデロフォアをつくる力などが調べられました。そのうえで、温室でトマトに接種し、収量への影響が評価されました。
| 評価項目 | 最も効果の大きかった細菌(セラチア・リクエファシエンス)を接種した場合の変化 |
|---|---|
| 実の数 | 35%増 |
| 実の重さ | 30%増 |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
論文は、それまでの研究と比べて、昆虫由来の細菌が収量の増加に直接つながることを示した点に注目しています。植物の生育や健康を支えるだけでなく、農業の生産性そのものを高める可能性が示されたわけです。
幼虫の腸内細菌が、コムギの防御反応を強めた
三つめは、少し違う角度からの研究です。ムギクビボソハムシの幼虫を「腸内細菌をそのまま持つグループ」と「抗生物質で腸内細菌を減らしたグループ」に分け、それぞれにコムギの葉を食べさせました。そして、コムギの中で働いている遺伝子を網羅的に調べる解析(トランスクリプトーム解析)で、植物の免疫反応を比べました。
その結果、腸内細菌をそのまま持つ幼虫に食べられたコムギのほうが、食べられた場所でより強い防御反応を示しました。昆虫の腸内細菌が、植物の「身の守り方」にまで影響を与えていることを示す結果です。
これらの研究をまとめると、昆虫由来の細菌は、養分を使いやすくする「バイオスティミュラント(植物の生育を促す資材)」としても、病原菌をおさえる「生物防除資材」としても働く可能性がある、と論文は結論づけています。

昆虫由来の細菌を畑で使うにはどんな課題があるの?
有望な結果が出ている一方で、昆虫由来の細菌を実際の畑で使うまでには、いくつもの課題があります。論文で挙げられている主な課題を整理しました。
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 本当に昆虫由来か見分けにくい | 昆虫は植物や土と密接に関わっているため、見つかった細菌が昆虫に定着しているものか、たまたま環境から付いただけのものかを区別するのが難しい |
| 昆虫ごとに細菌が大きく違う | 腸内細菌は昆虫の種類、餌、発育段階、すむ環境によって大きく変わるため、有用な菌株を安定して見つけにくい |
| 分離・培養が難しい | 昆虫の体の中でしか生きられない共生細菌が多い。ほかの微生物と一緒でなければ働けない細菌は、1種類だけで培養すると大切な性質を失うこともある |
| 安全性の確認が必要 | トマトの実験で使われたパントエア・アナナティスやセラチア・リクエファシエンスの仲間は、条件によっては植物に病気を起こすことがある |
| 生態系への影響 | 細菌を資材として畑にまいたとき、もともといる昆虫の腸内細菌を乱し、生物多様性に影響しないかがわかっていない |
| 法律・規制 | 微生物を含む資材は、国ごとに食品と環境の安全を守るための規制を受ける |
| 畑での効果が未確認 | 実験の多くは実験室や温室で行われたもので、広い畑で同じ効果が出るかはこれから確かめる段階 |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
「本当に昆虫の細菌なのか」をどう確かめる?
一つめの課題について、論文では確かめるための方法がいくつか紹介されています。
- 実験器具や試薬からの混入を見分けるため、何も入れていない対照試料を用意し、決められた除染の手順を守る
- 昆虫の体の外側と内側の細菌を分けて調べる。例えばイエバエでは、体の外側の細菌は大きくばらつく一方、体内の細菌は比較的安定している
- 餌、寄主植物、土、水などの環境試料も同時に調べ、昆虫にだけ多い細菌を探す
- 同じ細菌が昆虫の組織から繰り返し見つかる、世代を超えて受け継がれる、昆虫の生活に役立つ性質を持つ、といった証拠を積み重ねる
論文は、一つの方法だけで完全に見分けることはできず、複数の方法を組み合わせることが最も確かな裏づけになるとしています。
安全性と規制の壁
安全性について、論文はとくに慎重な姿勢を示しています。パントエア・アナナティスやセラチア・リクエファシエンスは、条件がそろうと植物に病気を起こす「日和見的な病原体」として振る舞うことがある細菌です。そのため畑で使う前に、次のような確認が必要だとしています。
- 安全性の評価
- 病気を起こす遺伝子や、抗生物質が効きにくくなる遺伝子を持っていないかのゲノムでの確認
- どの植物に影響を与えうるかという宿主範囲の試験
規制については、欧州連合(EU)では、生物肥料やバイオスティミュラントの使用を定めたEU規則2019/1009(EUR-Lex)などがあり、製品ごとにヒトの健康と環境への安全性の評価が求められます。アメリカでは、農務省(USDA)や環境保護庁(EPA)が、植物保護法や連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)(米国環境保護庁)などに基づいて監督しています。論文はさらに、生きた微生物がもともと化学物質のような「生きていないもの」を想定した枠組みで評価されることが多い点も、課題として挙げています。
これから昆虫由来の細菌はどう活用されていくの?
論文では、昆虫由来の細菌を害虫防除と組み合わせて使う「害虫と微生物の総合的な管理」という考え方が示されています。化学肥料と化学農薬に頼った従来の方法は、長く続けるほど土の劣化や病原体の薬剤抵抗性、生物多様性への悪影響を招くため、微生物の力を取り入れた新しい方法が必要だというのです。
具体的には、次の3つの方向性が紹介されています。
| 方向性 | 内容 |
|---|---|
| 生物的な防除資材として使う | 昆虫由来の細菌を、病原菌や害虫をおさえる生物農薬として使い、化学農薬の代わりにする。ただし、実験室と同じ効果が畑でも得られるかは確認が必要 |
| 天敵昆虫に細菌を運んでもらう | ハサミムシのような害虫を食べる天敵昆虫に、植物の味方になる細菌を運んでもらう。天敵が害虫を減らしながら、同時に細菌を植物に届けてくれる |
| 害虫の腸内細菌を操作する | 害虫は腸内細菌の力を借りて植物の防御をすり抜けたり、殺虫剤を分解したりしている。その細菌の構成を変えることで、害虫の食害を減らす |
出典:Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review(Zenelt et al., Microbial Ecology, 2026)の本文をもとに作成
二つめの「天敵に運んでもらう」方法は、とくにユニークです。研究では、ハサミムシが、あらかじめ植物の味方になる細菌を接種され、なおかつ害虫にかじられた植物に引き寄せられ、害虫を捕まえる効率が高まることが示されています。バチルス属やコサコニア・ラディシンシタンスといった細菌は天敵昆虫によって運ばれ、病害虫に対する植物の抵抗性を高めうるとされています。
論文は最後に、単一栽培を減らし、生物多様性を高めることが、有益な生き物の多様性を高めることにつながると強調しています。そのうえで、細菌の施用方法の最適化、自然環境で細菌が定着し効果を発揮する条件の解明、そして何より生態系への長期的な影響の検討が必要だと述べています。
家庭菜園で土の微生物を活かすにはどうすればいい?
今回紹介した昆虫由来の細菌は、まだ研究段階のもので、家庭菜園で使える製品として販売されているわけではありません。また、虫をつぶして畑にまいても、同じ効果は期待できません。研究では、特定の細菌を選んで取り出し、性質を確かめたうえで使っているからです。
ただ、「目に見えない細菌が、植物の育ちや病気の出方を左右している」という考え方は、家庭菜園の土づくりにもそのまま活かせます。論文で指摘されている「単一栽培や化学肥料・農薬の使いすぎが土の微生物を減らす」という点をふまえると、家庭菜園では次のような工夫が考えられます。以下は論文で検証された方法ではなく、論文の考え方を家庭菜園に応用したものです。
- 堆肥や腐葉土などの有機物を入れる:土の微生物のエサやすみかになり、微生物の量と種類を増やす土台になる
- 同じ科の野菜を続けて植えない:連作を避けて輪作や間作をすることで、土の微生物のかたよりを防ぐ
- 緑肥作物を活用する:畑を休ませる期間に緑肥を育ててすき込むと、有機物が補給され、土の生き物が豊かになる
- 肥料や農薬は必要な分だけ使う:使いすぎは土の微生物の多様性を下げるおそれがある
- 天敵や花粉を運ぶ昆虫がすめる環境を残す:花を植えたり、草を適度に残したりして、生き物の多い畑にする
緑肥の選び方や効果については、緑肥作物の効果と選び方を解説した記事が参考になります。また、根と共生して養分を届ける微生物の代表である菌根菌については、菌根菌の効果と増やし方を紹介した記事で、家庭菜園での増やし方を詳しく紹介しています。
微生物の力を取り入れた土づくりを手軽に始めたい方には、微生物が生きたまま入った有機液体肥料という選択肢もあります。今回の論文で紹介された昆虫由来の細菌が入っているわけではありませんが、土の中の微生物を意識した栽培を試すきっかけの一つになるでしょう。

まとめ
植物生育促進細菌と、その新しい供給源として注目される昆虫について、論文の要点を整理します。
- 植物生育促進細菌とは、窒素固定、リンの可溶化、植物ホルモンの産生、病原菌の抑制などを通じて植物の生育を促す細菌のこと
- 畑にまいたリン肥料のうち植物が使うのは約20%で、リンを溶かす細菌は化学肥料を減らす手段として期待されている
- これまで植物生育促進細菌は主に土や植物から探されてきたが、昆虫はほとんど手つかずの供給源だった
- 昆虫は種類が多く、植物と共進化し、厳しい環境にもすむため、ユニークな性質を持つ細菌を抱えている可能性がある
- ハムシやガの幼虫から取り出した細菌で、トマト輪紋病の被害面積が42.64%から7.45%に減った
- リンを溶かす昆虫由来の細菌で、エンバクの地上部の重さが約89%増え、別の細菌ではトマトの実の数が35%増えた
- 一方で、安全性の確認、培養の難しさ、生態系への影響、規制、畑での効果の確認など、実用化までの課題は多い
畑で見かける害虫も、そのおなかの中には植物の味方になるかもしれない細菌を抱えています。研究はまだ始まったばかりですが、虫と細菌と植物のつながりを知ることは、生き物の多い畑づくりを考えるきっかけになるはずです。
よくある質問(Q&A)
Q1. 植物生育促進細菌は、家庭菜園でも使えますか?
A. 植物生育促進細菌を含む微生物資材は、すでに市販されているものがあります。ただし、今回紹介した昆虫由来の細菌は研究段階で、製品として販売されているものではありません。微生物資材を使う場合は、製品の表示や使い方を確認してください。効果は土の状態や気温、作物によって変わるため、堆肥などの有機物を入れて土の微生物を豊かにする基本の土づくりとあわせて考えるのがおすすめです。
Q2. 害虫の腸内細菌は、植物にとって悪いものではないのですか?
A. 昆虫の腸内細菌には、植物にとって良いものも悪いものも含まれています。論文でも、昆虫は有益な細菌だけでなく、植物の病原細菌の運び手にもなると説明されています。また、ハスモンヨトウの口から出る分泌物には、植物の防御反応を弱めて昆虫が食べやすくなるように働く細菌が含まれていることも紹介されています。有用な細菌を見つけるには、一つひとつの菌株を取り出して、その性質と安全性を調べることが欠かせません。
Q3. 害虫を駆除すると、有益な細菌も減ってしまいますか?
A. 論文では、害虫の駆除と有益な細菌の関係を直接調べた研究は紹介されていません。ただし、化学農薬の使用や単一栽培が、土の微生物の多様性を下げたり、植物と細菌の共生を乱したりするおそれがあることは指摘されています。害虫の被害を放っておく必要はありませんが、農薬は必要な分だけ使い、天敵や花粉を運ぶ昆虫がすめる環境を残すことが、畑全体の生き物のバランスを保つことにつながると考えられます。
この研究のように、国内外の植物・園芸・農業のニュースをXで毎日紹介しています。土の微生物や畑の生き物に関する最新研究を見逃したくない方は、ぜひフォローしてください。
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参考文献
- Zenelt, W., Hoffmann, A., Sadowska, K. & Krawczyk, K. (2026). Insects as a New Source of Plant Growth Promoting Bacteria – Review. Microbial Ecology, 89, 58. https://doi.org/10.1007/s00248-025-02692-0
- 論文PDF:s00248-025-02692-0.pdf(関連する翻訳ファイル:20260929_翻訳_昆虫由来の植物生育促進細菌_総説.md)
- Regulation (EU) 2019/1009 of the European Parliament and of the Council laying down rules on the making available on the market of EU fertilising products. https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2019/1009/oj(上記論文の引用文献)
- U.S. Environmental Protection Agency. Summary of the Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act. https://www.epa.gov/laws-regulations/summary-federal-insecticide-fungicide-and-rodenticide-act(上記論文で言及されている法律の解説ページ)


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