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RNAi農薬とは、害虫が生きていくのに欠かせない遺伝子の働きだけを止めて、害虫を狙い撃ちにする新しいタイプの病害虫対策です。2026年に学術誌Frontiers in Plant Scienceに掲載された論説では、RNAi、ゲノム編集、合成生物学、AIを組み合わせることが、化学農薬に頼りすぎない次世代の作物保護の土台になると述べられています。一方で、RNAiは畑での分解されやすさやコストといった課題から、まだ広く普及するには至っていないことも指摘されています。
この記事では、この論説の内容をもとに、それぞれの技術がどんなしくみで作物を守ろうとしているのか、そして実際の畑で使われるまでに何が必要なのかを、専門用語をかみくだいて解説します。
- RNAi農薬とは?ひとことで言うと何?
- なぜ今、化学農薬だけに頼らない病害虫対策が求められているの?
- 今回の論文はどんな論文なの?
- ゲノム編集は病害虫対策にどう使われているの?
- RNAi(RNA干渉)はどんなしくみで害虫を抑えるの?
- RNAi農薬が畑でなかなか広がらないのはなぜ?
- 合成生物学は作物の守り方をどう変えるの?
- AIは病害虫対策でどんな役割を果たすの?
- 論文で紹介された6つの研究では何がわかったの?
- 新しい技術を畑で使うには、どんな課題があるの?
- これからの作物保護はどう変わっていくの?
- この論文から言えること・まだ言えないことは?
- 家庭菜園でできる「狙いを定めた」病害虫対策は?
- まとめ
- よくある質問(Q&A)
- 参考文献
RNAi農薬とは?ひとことで言うと何?
RNAi農薬とは、「二本鎖RNA(dsRNA)」と呼ばれる物質を使い、害虫や病原体の特定の遺伝子の働きを止める(サイレンシングする)ことで被害を抑える資材や技術のことです。
RNAiは「RNA interference(RNA干渉)」の略です。生き物の遺伝子は、DNAの情報がRNAという「設計図のコピー」に写し取られ、そのコピーをもとにタンパク質が作られることで働きます。RNAiは、このコピーを狙って壊すしくみで、コピーが壊されれば、その遺伝子はDNAに残っていても働けなくなります。
この技術の特徴を、化学合成農薬と比べると次のようになります。
| 比べる点 | 化学合成農薬 | RNAi農薬 |
|---|---|---|
| 効くしくみ | 神経や呼吸など、多くの生き物に共通するしくみを化学物質で妨げる | 塩基配列が一致する特定の遺伝子だけを働かなくする |
| 狙える範囲 | 幅広い(益虫や対象外の生き物にも影響しやすい) | 狭い(配列が一致する生き物に限られやすい) |
| 生態系への影響 | 大きくなりやすい | 論説では「最小限」とされている |
| 主な課題 | 抵抗性の発達、残留、規制の強化 | 野外での分解、害虫の取り込みの低さ、生産コスト |
出典:Balasubramani et al. (2026) Editorial: Advancing plant defense: genome editing, RNAi, and synthetic biology for sustainable pest control. Frontiers in Plant Science 17:1785705 の本文をもとに作成
なお、「RNAi農薬」という呼び方は、この記事でわかりやすく説明するための呼び名です。論文では、RNAiを基盤とする作物保護技術(RNAi-based crop protection technologies)と表現されています。
なぜ今、化学農薬だけに頼らない病害虫対策が求められているの?
結論から言うと、化学農薬の効き目が落ちてきていることと、気候変動によって病害虫の脅威が増していることの2つが重なっているためです。
病害虫と環境ストレスが、世界の作物生産を制限している
論説はまず、細菌・ウイルス・昆虫による病害虫の被害に、干ばつ・塩害・高温・養分の偏りといった「非生物的ストレス」(生き物以外の環境要因によるストレス)が重なり、世界の作物生産が今も大きく制限されていると述べています。
病害虫による被害の大きさについては、主要な5つの作物(コムギ、イネ、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ)を対象に、世界の病害虫による収量損失を推定したSavaryらの研究(Nature Ecology & Evolution, 2019)が、論説の中でも根拠として引用されています。
化学農薬の「効き目」が揺らいでいる
合成農薬は、これまで病害虫と戦うための中心的な役割を果たしてきました。しかし論説によると、その長期的な効き目は、次のような理由で揺らいでいます。
- 抵抗性の発達:同じ農薬を繰り返し、無差別に使ってきた結果、薬が効かない害虫や病原体の集団が増えている
- 対象外の生き物への毒性:防除したい相手以外の生き物(天敵や花粉を運ぶ昆虫など)にも影響がおよぶ
- 規制の強化:環境汚染、生物多様性の損失、人の健康へのリスクから、広く使われてきた農薬のいくつかが使用禁止や使用制限の対象になっている
農薬抵抗性がどのように生まれてきたのかについては、Hawkinsらの総説(Biological Reviews, 2019)が、論説の中で引用されています。
気候変動が、病害虫の問題をさらに複雑にしている
さらに論説は、気候変動の影響を指摘しています。気候変動は害虫の個体数の増減に影響するだけでなく、病原体や昆虫がすめる地域を広げ、植物の防御システムを弱めるような複数のストレスが同時に起こる機会も増やしています。
気温が上がると害虫による作物の損失が増えると予測した研究として、Deutschらの研究(Science, 2018)も引用されています。
こうした背景から、論説は「従来の化学的な対策は次第に不十分になりつつあり、作物保護の新たな戦略への発想の転換(パラダイムシフト)が進んでいる」とまとめています。
農薬に代わる選択肢としては、自然界の生き物がつくる化合物を利用する研究も進んでいます。海の微生物がつくる物質を使った研究については、海洋微生物由来の天然農薬の効果と仕組みを解説した記事で詳しく紹介しています。

今回の論文はどんな論文なの?
今回参照したのは、原著論文(新しい実験結果を報告する論文)ではなく、「論説(Editorial)」と呼ばれる種類の論文です。
学術誌Frontiers in Plant Scienceでは、特定のテーマについて複数の研究者から論文を集める「研究トピック(Research Topic)」という企画があります。論説は、その企画をまとめる編集者たちが、集まった論文の内容を紹介しながら、分野全体の現状や今後の方向性を見渡すために書く記事です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文の種類 | 論説(Editorial) |
| 掲載誌 | Frontiers in Plant Science 17巻 1785705 |
| 公開日 | 2026年2月4日 |
| 著者 | Sundararajan Balasubramani、Zhiqian Li、Ekambaram Gayathri、Dhandapani Gurusamy、Archana Singh |
| 著者の所属 | アメリカ・ケンタッキー大学、中国・西北農林科技大学、インドの複数の大学など |
| 研究トピック名 | Advancing plant defense: genome editing, RNAi, and synthetic biology for sustainable pest control(植物の防御を高める:持続可能な病害虫防除のためのゲノム編集・RNAi・合成生物学) |
| 収録された研究 | 6本(総説と原著論文) |
出典:Balasubramani et al. (2026) Editorial: Advancing plant defense: genome editing, RNAi, and synthetic biology for sustainable pest control. Frontiers in Plant Science 17:1785705 をもとに作成
論説であるため、この論文自体に新しい実験データは含まれていません。この記事で紹介する内容は、「この分野の研究者たちが、現状と課題をどう整理しているか」を知るためのものだと考えてください。論文本体はFrontiers in Plant Scienceの掲載ページで誰でも無料で読むことができます。
ゲノム編集は病害虫対策にどう使われているの?
ゲノム編集とは、生き物のDNAの狙った場所をピンポイントで書き換える技術です。論説では、なかでもCRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)を用いたゲノム編集が、さまざまなストレスに強い作物を開発するための注目の技術になっていると述べられています。
CRISPR-Cas9はどんな道具なの?
CRISPR-Cas9は、「ガイドRNA」と「Cas9」という2つの部品でできた道具です。
- ガイドRNA:書き換えたいDNAの場所を探し出す「住所ラベル」の役割
- Cas9:ガイドRNAが見つけた場所でDNAを切断する「はさみ」の役割
DNAが切断されると、細胞は自分で切れ目を修復しようとします。このとき、ごくわずかに配列が変わることがあり、その結果、狙った遺伝子が働かなくなります。この性質を利用して、特定の遺伝子の働きを止めたり変えたりするのが、ゲノム編集の基本的な考え方です。

ゲノム編集で、どんな作物が作られてきたの?
論説によると、ゲノム編集を使えば、次のような改良を、長い年月のかかる交配による品種改良(育種)を経ずに、短期間で行えるとされています。
- 植物を病気にかかりやすくしている遺伝子(感受性遺伝子)を取り除く
- 植物にもともと備わっている抵抗性を高める
- ストレスに対応する遺伝子の働きを変える
そして実際に、CRISPR/Cas9のしくみを使って、さまざまな植物種で、細菌・カビ(糸状菌)・ウイルスによる感染に強い作物が開発されてきたと述べられています。さらに、干ばつ・塩害・高温により強く耐える植物も作られています。
「感受性遺伝子を取り除く」という考え方は、少し意外に感じるかもしれません。病原体の中には、植物がもともと持っている特定のタンパク質を「足がかり」として利用して感染するものがあります。その足がかりになる遺伝子を働かなくすれば、病原体が入り込みにくくなる、というわけです。
交配による品種改良と、何が違うの?
| 比べる点 | 交配による品種改良 | ゲノム編集 |
|---|---|---|
| 改良のしかた | 性質の違う品種どうしをかけ合わせ、望ましい性質の個体を選び続ける | 狙った遺伝子を直接書き換える |
| かかる時間 | 長い年月がかかることが多い | 短期間で行えるとされる |
| 狙いの正確さ | 望まない性質もいっしょに受け継がれることがある | 狙った場所をピンポイントで変えられる |
| 外来のDNA | 使わない | 外来のDNAを最終的な作物に残さずに作ることができる |
出典:Balasubramani et al. (2026) Frontiers in Plant Science 17:1785705 の本文をもとに、一般的な育種の説明を加えて作成
「外来DNAを残さない」ことがなぜ大事なの?
論説では、ゲノム編集作物は外来のDNAを安定的に組み込まずに作ることができ、それによってバイオセーフティ(生物学的な安全性)の水準が高まるだけでなく、いくつかの地域では市民や規制当局に受け入れられやすくなっていると述べられています。
従来の遺伝子組換え作物は、ほかの生き物の遺伝子を作物のDNAに組み込んで作られます。一方、ゲノム編集では、作業の途中で道具となる遺伝子を使うことがあっても、最終的な作物にはそれを残さず、作物自身の遺伝子をわずかに変えただけの状態にできます。この違いから、ゲノム編集作物を従来の遺伝子組換え作物とは別の枠組みで扱う国や地域もあります。日本でも、ゲノム編集で作られたトマトなどが、国への届出を経て流通しています。
RNAi(RNA干渉)はどんなしくみで害虫を抑えるの?
RNAiは、二本鎖RNAをきっかけにして、配列が一致する遺伝子の働きだけを止めるしくみです。論説では、RNAiを基盤とする技術が、環境にやさしい病害虫管理の手段として大きな注目を集めていると述べられています。
遺伝子サイレンシングの流れ
RNAiによって遺伝子の働きが止まるまでの流れを、ごくかんたんにまとめると次のようになります。
- 害虫の特定の遺伝子と同じ配列を持つ二本鎖RNA(dsRNA)を用意する
- 害虫がdsRNAを体の中に取り込む(植物を食べる、表面に付いたものを口にする、など)
- 害虫の細胞の中で、dsRNAが短い断片に切り分けられる
- 短い断片が「目印」となり、配列が一致する遺伝子のコピー(メッセンジャーRNA)を見つけて壊す
- コピーが壊されるため、その遺伝子のタンパク質が作られなくなる
- 生存や摂食に欠かせない遺伝子であれば、害虫は弱ったり、食べる量が減ったりする
この「配列が一致するものだけを壊す」という性質が、RNAiの狙いの細かさの理由です。論説では、RNAiによって、害虫・線虫・病原体の生存に不可欠な遺伝子を、狙いを定めて抑え込むことができると説明されています。

RNAiを害虫に届ける2つの方法
論説によると、RNAiを害虫に届ける方法には、大きく分けて2つの戦略があります。
| 方法 | しくみ | 特徴 |
|---|---|---|
| 宿主誘導型遺伝子サイレンシング(HIGS) | 作物を遺伝子組換えし、害虫の遺伝子を標的とするdsRNAを植物自身に作らせる | 植物を食べた害虫がdsRNAを取り込む。作物そのものの遺伝子組換えが必要 |
| 散布型遺伝子サイレンシング(SIGS) | 作ったdsRNAを植物の表面に散布する | 作物を遺伝子組換えしなくて済む。散布した場所・時期に合わせて使える |
出典:Balasubramani et al. (2026) Frontiers in Plant Science 17:1785705 の本文をもとに作成
論説では、どちらの方法も、従来の農薬と比べて次のような利点があるとされています。
- 狙いの正確さが高い
- 標的以外の生き物への影響が大幅に少ない
- 生態系をほとんど乱さない
このうち散布型の方法は、いわば「dsRNAを有効成分とする散布剤」であり、一般に「RNA農薬」「RNAi農薬」と呼ばれるのは主にこのタイプです。アメリカでは、ジャガイモの害虫であるコロラドハムシを対象に、dsRNAを有効成分とする散布剤が登録されるなど、実用化の動きも出てきています。
RNAiは害虫だけでなく、ウイルスや病原菌にも使えるの?
論説の中では、RNAiの標的として、害虫だけでなく線虫や病原体も挙げられています。実は、RNAiはもともと、植物がウイルスから身を守るために持っている防御のしくみでもあります。植物の細胞にウイルスが入り込むと、ウイルスの複製の過程で二本鎖RNAが生じ、植物はそれを目印にウイルスのRNAを壊そうとします。
つまり、RNAi農薬は、植物がもともと持っている防御のしくみを、害虫や病原体への対策に応用したものとも言えます。植物がウイルスと戦うしくみについては、この後の「論文で紹介された6つの研究」でも取り上げます。植物のウイルス病の症状や広がり方については、モザイク病の原因と拡散のメカニズムを解説した記事もあわせてご覧ください。
RNAi農薬が畑でなかなか広がらないのはなぜ?
RNAi農薬が畑でなかなか広がらない主な理由は、自然環境の中でdsRNAが壊れやすいこと、害虫がdsRNAを十分に取り込まないこと、大量生産のコストが高いことの3つです。
論説は、RNAiを基盤とする作物保護技術について、当初は大きなブレイクスルーとしてもてはやされたものの、実用上の課題があるため、露地(屋外の畑)ではまだ広く普及していないと、率直に述べています。
RNAi農薬の前に立ちはだかる3つの壁
| 壁 | 何が起きるのか | なぜ問題になるのか |
|---|---|---|
| 分解されやすさ | 自然環境の中でdsRNAが分解されてしまう | 散布しても、害虫が口にする前に効き目が失われてしまう |
| 取り込まれにくさ | 標的の害虫がdsRNAを十分に取り込まない | 害虫の種類によっては、体内に入っても働く前に壊されたり、細胞に届かなかったりする |
| 生産コスト | dsRNAを大量に作るのに費用がかかる | 広い畑で使うには、従来の農薬と比べて割高になりやすい |
出典:Balasubramani et al. (2026) Frontiers in Plant Science 17:1785705 の本文をもとに作成
畑は、日光(紫外線)、雨、土の中や葉の表面にいる微生物など、RNAにとって過酷な環境です。研究室の中でうまくいっても、畑では同じ効果が出るとは限らないのです。
また、「取り込まれにくさ」は害虫の種類によって大きく違うことが知られています。一般に、甲虫の仲間はRNAiが効きやすく、チョウやガの仲間は効きにくいものが多いとされています。どの害虫に使えるかが限られることも、普及の壁の一つです。
研究者たちはどんな解決策を探っているの?
論説によると、研究者たちは、野外の条件でRNAiの効果とその持続期間を最大限に高めるため、次のような戦略を探り続けています。
- ナノキャリアによる送達:ナノサイズの「運び役」でdsRNAを包み、分解から守りながら害虫の細胞まで届ける
- dsRNAを保護する製剤:紫外線や微生物による分解を受けにくくする工夫
- 最適な標的遺伝子の選び方:少ない量でも効き目が出やすく、ほかの生き物には影響しにくい遺伝子を選ぶ
こうした課題と今後の展望については、論説の中で引用されているKoeppeらの総説(International Journal of Molecular Sciences, 2023)で、RNAiのこれまでと今後の応用がまとめられています。
合成生物学は作物の守り方をどう変えるの?
合成生物学とは、遺伝子の回路や、生き物の体の中で物質が作られる道筋(代謝経路)を人工的に設計・組み立てて、生き物に新しい機能を持たせる学問・技術のことです。論説では、ゲノム編集とRNAiに加え、合成生物学も次世代の作物保護戦略を開発するための多用途な「道具箱」として急速に注目を集めていると述べられています。
合成生物学でできること
論説が挙げている、合成生物学でできることは次の3つです。
- 人工の遺伝子ネットワーク(遺伝子の回路)を作り出す
- 代謝の経路を組み替える
- 植物のストレスを効果的に管理できるよう、生物的防除資材を目的に合わせて設計する
「いつも守りをオン」にしなくて済む
合成生物学の応用で特に興味深いのは、植物の守り方そのものを変えられる可能性がある点です。
植物の防御反応は、エネルギーや養分を多く使います。そのため、守りを常に働かせたままにしておくと、生育や収量が落ちてしまうことが知られています。論説によると、合成生物学の技術によって、植物は病原体の攻撃やストレス条件を感知し、新しいやり方で対処する能力を身につけられるとされています。これは、生育や収量を落とすことが知られている「常に働き続ける防御のしくみ」に頼らずに済むということです。
たとえるなら、一日中警報を鳴らし続ける防犯システムではなく、侵入者を感知したときにだけ作動する防犯システムに切り替えるようなものです。
| 比べる点 | 常に働く防御 | 感知して働く防御(合成生物学がめざす形) |
|---|---|---|
| 防御が働くタイミング | いつも | 病原体の攻撃やストレスを感知したとき |
| 生育・収量への影響 | 落ちやすい | 抑えられる可能性がある |
| エネルギーの使い方 | 常に消費する | 必要なときに集中して使う |
出典:Balasubramani et al. (2026) Frontiers in Plant Science 17:1785705 の本文をもとに作成
微生物のチームを設計して、植物を守る
論説によると、科学者たちは、病原体を倒し、植物を健康に保ち、養分を効率よく利用させる微生物の集団(微生物群集)や、生物的防除資材の設計にも取り組んでいます。これにより、化学肥料や農薬の必要量を減らすことがめざされています。
土の中や根のまわりには、植物の養分の吸収を助けたり、病原体から植物を守ったりする微生物がたくさんすんでいます。その代表例が、植物の根と共生して、リン酸などの養分や水分の吸収を助ける菌根菌です。菌根菌の働きや、家庭菜園での活かし方については、菌根菌の効果と増やし方を紹介した記事で詳しく解説しています。
合成生物学がめざしているのは、こうした有用な微生物の力を、より狙いどおりに引き出すことだと言えます。家庭菜園でも、土の微生物を意識した土づくりや、微生物を含む肥料を取り入れる人が増えています。その選択肢の一つとして、次のような有機液体肥料もあります。
なお、この肥料は今回の論文で扱われたものではなく、論文の内容は特定の資材の効果を示すものではありません。土づくりを考えるときの選択肢の一つとしてご覧ください。
AIは病害虫対策でどんな役割を果たすの?
AI(人工知能)は、病害虫の発生を予測したり、防除のタイミングを判断したり、新しい農薬の候補を探したりする「頭脳」の役割を担っています。論説では、AIを活用したシステムが、さまざまな形で作物保護のあり方を変えつつあると述べられています。
AIが担っている4つの役割
| 役割 | 具体的な内容 |
|---|---|
| リアルタイムの監視 | 病害虫の発生をリアルタイムで監視し、簡単かつ正確に見分ける |
| 発生の予測 | 深層学習(ディープラーニング)のモデルで害虫の個体数を予測し、防除の判断を助ける |
| 防除のタイミングの判断 | 処理を行う最適なタイミングを決める |
| 農薬の使用量の削減 | リモートセンシング(人工衛星やドローンなどによる遠隔観測)、畑のセンサー、過去の記録といった大量のデータを分析し、化学物質の使用を減らす方法を見つける |
出典:Balasubramani et al. (2026) Frontiers in Plant Science 17:1785705 の本文をもとに作成
新しい農薬の開発も、AIで加速している
論説によると、コンピューターを使った農薬の探索(計算による農薬探索)でのAIの活用も主流になりつつあります。その結果、毒性が低く、狙った相手への特異性が高い新しい化合物の開発が、飛躍的に速まっているとされています。
さらに、大量のサンプルを高速で処理できる表現型解析(フェノタイピング)のプラットフォームや、さまざまなマルチオミクス技術も、次世代の作物保護に欠かせないと述べられています。マルチオミクスとは、次のような情報を組み合わせて、生き物の状態を網羅的に調べる方法です。
- ゲノミクス:遺伝情報(DNA)全体を調べる
- トランスクリプトミクス:どの遺伝子がどれくらい働いているかを調べる
- プロテオミクス:どんなタンパク質がどれくらいあるかを調べる
- メタボロミクス:どんな代謝物(体の中で作られる物質)がどれくらいあるかを調べる
AIは、ゲノム編集やRNAiの「司令塔」にもなる
論説は、植物とストレスの相互作用を深く理解できれば、ゲノム編集・RNAi・合成生物学を応用するための主要な制御ネットワークや、標的の候補を特定できると述べています。さらに、AIによるデータ分析と組み合わせることで、マルチオミクスのデータは、特定の農業生態系に合わせて設計された「予測的・先制的・適応的」な作物保護戦略を支えられるとしています。
つまり、AIは単独で害虫を防ぐ道具ではなく、「どの遺伝子を狙えばよいか」「いつ、どこで手を打てばよいか」をデータから導き出す司令塔の役割も果たせる、ということです。

論文で紹介された6つの研究では何がわかったの?
この論説は、研究トピックに収録された6本の研究を紹介しています。論説はこれらを、分子レベルの技術革新と、畑での検証をつなぐ研究として位置づけ、持続可能な農業の強靭さ(レジリエンス)と害虫防除のための確かな土台を示していると評価しています。
| 研究(第一著者) | テーマ | 主なポイント |
|---|---|---|
| Anwarら | 細菌のクオラムセンシングの操作とゲノム編集の組み合わせ | 細菌どうしの情報伝達を妨げると、バイオフィルムの形成や病原性が抑えられる |
| Govindarajuら | 葉面散布によるRNAi | ATPアーゼの遺伝子を標的にすると、害虫の摂食が大きく減った |
| Ramalingamら | 麹菌の仲間から作ったβ-グルカンのナノ粒子 | トマトの種子の発芽と生育を促進した |
| Vasantha-Srinivasanら | 植食性昆虫に対する作物の免疫応答 | 遺伝子の積み重ね(ジーンスタッキング)などが、長続きする抵抗性の鍵になる |
| Krzysztonら | 植物のRNAi経路のネットワーク | 異常なRNAの分解がRNAiを引き起こすしくみを整理 |
| Ñañezら | イネのウイルスとAGO4 | AGO4がウイルスへの防御に重要で、ウイルスに強い作物づくりの標的になりうる |
出典:Balasubramani et al. (2026) Frontiers in Plant Science 17:1785705 の本文をもとに作成(各研究の掲載年は論説本文に記載がないため省略)
細菌の「会話」を妨げて病気を防ぐ(Anwarら)
多くの病原細菌は、化学物質をやり取りして仲間の数を感じ取り、数が十分にそろったところで一斉に病原性を発揮します。このしくみを「クオラムセンシング」と呼び、いわば細菌どうしの「会話」です。
この総説では、クオラムセンシングを操作することと、ゲノム編集の道具を組み合わせて植物の病原体を防除する考え方が整理されています。細菌どうしの情報伝達を妨げると、細菌が集まって作る膜状のかたまり(バイオフィルム)の形成や病原性が抑えられます。同時に、CRISPRやRNAiを基盤とする技術によって、病気に強い作物を作り出すことも可能になるとされています。
論説は、この研究が、研究室の成果を畑に届ける「ラボ・トゥ・ランド」を実現するには、規制の複雑さ、規模を拡大する際の問題、大規模な野外試験に向けた技術移転といった課題を乗り越える必要があることを浮き彫りにしていると述べています。

葉に散布するRNAiで害虫の食害を減らす(Govindarajuら)
この研究では、葉面散布によるRNAiを、畑に近い条件で害虫の防除に使う取り組みが報告されています。ATPアーゼ(細胞がエネルギーを使うときに働く酵素)の遺伝子を標的にしたところ、昆虫・害虫の摂食が著しく減少し、散布量と標的遺伝子の選び方の最適化につながったとされています。
論説は、この研究が研究室での成果を現実の現場での適用可能性と結びつけ、RNAiを実用化するうえで、分子レベルの診断と表現型(目に見える性質や反応)の評価を組み合わせることの重要性を示していると評価しています。
麹菌の仲間から作ったナノ粒子でトマトの生育を促す(Ramalingamら)
この研究では、麹菌の仲間であるアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)から得たβ-グルカン(多糖類の一種)をナノ粒子にしたところ、トマトの種子の発芽と植物の生育が促進されたと報告されています。論説は、これらのナノ粒子が殺菌剤などの化学物質の優れた代替品となりうるもので、ナノテクノロジーが作物の改良にどう役立つかを示していると述べています。
害虫に対する作物の免疫のしくみを整理する(Vasantha-Srinivasanら)
この論文は、植物を食べる昆虫(植食性昆虫)に対する作物の免疫応答を整理しています。取り上げられているのは、次のようなしくみです。
- 植物ホルモンによるシグナル伝達
- 受容体を介した害虫の認識
- エフェクター誘導免疫(害虫や病原体が送り込むタンパク質を植物が見つけて発動する、強い防御反応)
- 代謝の組み替え(防御物質を作るために、体の中の物質の作り方を切り替えること)
そのうえで、さまざまな害虫の攻撃のもとで、長続きし、畑でも安定した抵抗性を実現するための重要な戦略として、遺伝子の積み重ね(ジーンスタッキング、複数の抵抗性遺伝子を1つの品種に集めること)と、合成的な代謝経路の設計が挙げられています。
植物は、化学的な防御だけでなく、葉や茎の表面の毛(毛状体)のような物理的なしくみでも害虫から身を守っています。そのしくみは毛状体の種類と役割を解説した記事で紹介しています。
植物のRNAi経路のネットワークを読み解く(Krzysztonら)
この総説は、厳しい環境条件や病原体の攻撃にさらされてきた植物が、驚くほど複雑なRNAi経路のネットワークを発達させてきたことを明らかにしています。著者らは、遺伝子サイレンシングとRNAの分解・入れ替わり(ターンオーバー)の関係、そして異常なRNAの分解がどのようにRNAiを引き起こすのかを説明することに重点を置いています。論説は、こうした知見が革新的な害虫防除技術を開発するための有望な戦略として注目を集めていると述べています。
イネのウイルスへの守りにAGO4が欠かせない(Ñañezら)
この研究は、イネ・オハ・ブランカ・ウイルス(rice hoja blanca virus、RHBV。イネの葉を白くする病気を起こすウイルス)を対象に、CRISPR/Cas9でイネのAGO4(アルゴノート4)の遺伝子を壊すという手法を使っています。AGO4は、植物のRNAiや遺伝子サイレンシングに関わるタンパク質です。
その結果、ウイルスに対する防御においてAGO4が普遍的に重要であることが示されました。論説は、作物の免疫では、多くの植物に共通して受け継がれてきた遺伝子サイレンシングのしくみが働いていること、そしてウイルスに強い作物を作るための標的としてAGO4が有望であることを示す結果だとまとめています。
イネとウイルスのかけひきについては、イネが香りの物質を使って仲間に危険を知らせ、ウイルスがそれを妨げるという研究を、メチルサリチル酸とイネの香りのSOSを解説した記事で紹介しています。あわせて読むと、植物とウイルスの攻防の奥深さがより見えてきます。
新しい技術を畑で使うには、どんな課題があるの?
新しい技術を畑で使うには、技術面の改良に加えて、規制の整備と社会の信頼づくりという課題があります。論説は、多くの成果が上がっている一方で、次世代の作物保護技術を畑のレベルで効果的に導入するには、解決すべき課題がまだ数多く残っていると述べています。
技術面の課題
- RNAを使った資材の送達システムの改良:狙った場所に、分解されずに届けるための工夫
- 付与した性質の長期的な安定性と有効性の保証:ゲノム編集などで作物に与えた性質が、世代を重ねても、また畑の環境の中でも安定して続くかどうかの確認
- 信頼できる生態リスク評価の枠組みの整備:畑のまわりの生き物や生態系への影響を、きちんと評価するしくみづくり
規制の課題
論説は、国際的な規制の調和も課題として挙げています。特にゲノム編集やRNAiを基盤とする製品では、国や地域ごとに規制が食い違っていると、商業化や普及が遅れる原因になるとされています。
たとえば、ある国ではゲノム編集作物が従来の品種と同じように扱われ、別の国では遺伝子組換え作物と同じ厳しい審査が必要になる、といった違いがあります。こうした違いは、国をまたいだ種子や農産物の流通にも影響します。
植物や農産物は国境を越えて取引されるため、病害虫の持ち込みを防ぐ植物検疫と同じように、新しい技術で作られた作物の扱いについても、国際的なルールづくりが今後の大きなテーマになりそうです。
社会の信頼づくりという課題
論説は、技術や規制と同じくらい重要なこととして、農家、政策立案者、消費者といったさまざまな関係者を巻き込み、信頼を築き、十分な情報にもとづいてこれらの新技術が受け入れられるようにすることを挙げています。この点については、論説の中でKostov & Smagghe(2025)が引用されています。
どれだけ優れた技術でも、それを使う農家や、作物を食べる消費者に信頼されなければ、畑には広がりません。技術の中身と、その安全性の評価のしかたを、わかりやすく公開していくことが求められていると言えます。
これからの作物保護はどう変わっていくの?
論説は、これからの作物保護が、化学物質に大きく頼り、被害が出てから対処する「後手」の方法から、先手を打ち、狙いを定めた、持続可能な方法へと移っていくと見ています。
| 比べる点 | これまでの作物保護 | これからの作物保護(論説が描く姿) |
|---|---|---|
| 手を打つタイミング | 被害が出てから対処する(後手) | データで予測し、先手を打つ |
| 狙い | 幅広い生き物に効く化学物質で広く叩く | 特定の害虫・病原体の特定の遺伝子を狙う |
| 主な道具 | 化学合成農薬 | RNAi、ゲノム編集、合成生物学、AI の組み合わせ |
| 環境への負担 | 大きくなりやすい | 小さく抑えることをめざす |
| めざす成果 | 目の前の被害を減らす | 環境の安全、経済的な成り立ち、世界の食料安全保障を同時に確保する |
出典:Balasubramani et al. (2026) Frontiers in Plant Science 17:1785705 の本文をもとに作成
論説は、RNAi、ゲノム編集、合成生物学を、次世代の、生態系にとって健全な植物の害虫防除法と位置づけ、将来はこれらが組み合わされて使われるようになると見ています。そして、これらを統合したアプローチが精密農業(データにもとづいて、必要な場所に必要な量だけ手を打つ農業)を後押しし、環境にやさしく、効果があり、長く続く害虫問題の解決策をもたらすとしています。AIは、そのためにRNAi・ゲノム編集・合成生物学を最適化する助けになるとされています。
ただし論説は、その実現には条件があることも明記しています。
- 適切な規制の枠組みが整うこと
- 分野を超えた継続的な協力関係が築かれること
- それを可能にする環境が整うこと
- 基礎研究を実用につなげる橋渡し研究が進むこと
- 社会に受け入れられること
こうした流れの根底にあるのは、農薬や化学肥料による環境への負担を減らしたいという考え方です。研究の世界で技術が育つのを待つだけでなく、化学合成農薬や化学肥料を使わずに育てられた野菜を食卓に取り入れてみるのも、その考え方に触れる身近な方法の一つです。
化学合成農薬・化学肥料不使用。環境負荷の小さい農法で育てられたお野菜
なお、この野菜の宅配サービスは今回の論文とは直接関係ありません。
この論文から言えること・まだ言えないことは?
今回参照したのは論説であり、新しい実験データを示す論文ではありません。その点をふまえて、この論文から言えることと、まだ言えないことを整理します。
この論文から言えること
- 化学合成農薬は、抵抗性の発達、対象外の生き物への毒性、規制の強化によって、長期的な効き目が揺らいでいると、この分野の研究者たちは認識している
- ゲノム編集は、交配による品種改良より短い期間で、病気やストレスに強い作物を作る手段として使われてきた
- RNAiは狙いの細かい防除法として期待されているが、分解されやすさ、取り込まれにくさ、コストという3つの壁から、露地での普及はまだ進んでいない
- 合成生物学とAIは、「必要なときだけ守る」植物づくりや、発生予測・農薬の使用削減・新しい化合物の探索といった形で、作物保護を支える役割が期待されている
- 研究トピックに収録された6本の研究は、細菌の情報伝達の妨害、葉面散布RNAi、ナノ粒子、作物の免疫、植物のRNAi経路、ウイルスへの防御という、幅広い切り口からこの分野を支えている
まだ言えないこと
- RNAi農薬やゲノム編集作物が、個々の畑でどれくらいの効果を上げるのか(論説には具体的な数値は示されていない)
- これらの技術が、いつ、どの作物で、どの国で広く使われるようになるのか
- これらの技術が、化学合成農薬を完全に置き換えられるのかどうか(論説も、化学農薬を補う戦略の必要性を述べている)
- 生態系への長期的な影響(論説自身が、評価の枠組みづくりを課題として挙げている)
論説で紹介された6本の研究の詳しい実験条件や数値は、それぞれの論文を読む必要があります。この記事で紹介した内容は、あくまでこの分野の全体像をつかむための入り口だと考えてください。
家庭菜園でできる「狙いを定めた」病害虫対策は?
RNAi農薬やゲノム編集作物は、まだ家庭菜園で気軽に使えるものではありません。ただ、論説が描く「先手を打ち、狙いを定めた」という考え方そのものは、家庭菜園でも今日から取り入れることができます。以下は、論説の考え方をふまえた一般的な工夫で、論文で検証された方法ではない点にご注意ください。
1. まず「観察」して、相手を見きわめる
AIによる病害虫の監視や予測の考え方は、家庭菜園では「よく観察する」ことにあたります。葉の表だけでなく裏も見る、新芽や花のまわりを確認するなど、こまめに観察することで、どの虫や病気が、どのくらい出ているのかを早めに知ることができます。
相手がわかれば、必要のない薬を使わずに済み、対策の選び方も変わります。
2. 必要な場所・必要なときだけ手を打つ
精密農業の「必要な場所に必要な量だけ」という考え方は、家庭菜園でも応用できます。被害が一部の株や葉に限られていれば、その部分だけを取り除いたり、その株だけに対策をしたりすることで、畑全体に薬をまく必要がなくなることがあります。
農薬を使う場合は、ラベルに書かれた適用作物・使用方法を必ず確認し、同じ種類の薬を続けて使いすぎないことも、抵抗性の発達を防ぐうえで大切です。
3. 病気や害虫に強い品種を選ぶ
ゲノム編集や遺伝子の積み重ねがめざしているのは、病害虫に強い作物です。家庭菜園では、種苗会社が交配などで育成した「耐病性品種」や「抵抗性品種」を選ぶことが、それに近い取り組みです。種や苗の袋に、どの病気に強いかが書かれていることが多いので、確認してみてください。
4. 植物の組み合わせや土の微生物を味方にする
合成生物学が微生物のチームの設計をめざしているように、家庭菜園でも、植物や土の生き物の力を借りることができます。種類の違う作物をいっしょに植えることで病害虫の発生を抑えようとする方法については、間作の効果と病害虫抑制のしくみを紹介した記事で解説しています。
土づくりで堆肥などの有機物を入れ、土の微生物が暮らしやすい環境を整えることも、植物が健康に育つための土台になります。

まとめ
- RNAi農薬とは、二本鎖RNAを使って、害虫や病原体の特定の遺伝子の働きだけを止める新しいタイプの病害虫対策
- 化学合成農薬は、抵抗性の発達、対象外の生き物への毒性、規制の強化、気候変動による病害虫の増加から、それだけに頼るのが難しくなっている
- ゲノム編集は、外来のDNAを残さずに、病気やストレスに強い作物を短期間で作る手段として使われてきた
- RNAiは狙いの細かさが強みだが、分解されやすさ、取り込まれにくさ、コストという3つの壁があり、露地での普及はこれから
- 合成生物学は「必要なときだけ守る」植物や有用な微生物のチームの設計に、AIは発生予測・防除のタイミングの判断・新しい農薬の探索に活かされている
- 論説は、これらを組み合わせた「先手を打ち、狙いを定めた」作物保護が、環境の安全と食料の安定を両立させる鍵になると見ている
- 実現には、技術の改良だけでなく、規制の調和と社会の信頼づくりが欠かせない
よくある質問(Q&A)
Q1. RNAi農薬は人や動物にも影響しますか?
RNAiは、塩基配列が一致する遺伝子だけに働くしくみのため、論説では、従来の農薬と比べて標的以外の生き物への影響が大幅に少ないとされています。ただし論説自身も、信頼できる生態リスク評価の枠組みを整えることを今後の課題として挙げており、安全性の評価は各国の規制のもとで個別に行われる必要があります。
Q2. ゲノム編集作物と遺伝子組換え作物は同じものですか?
同じではありません。遺伝子組換え作物は、ほかの生き物の遺伝子を作物のDNAに組み込んで作られます。一方、論説によると、ゲノム編集作物は外来のDNAを安定的に組み込まずに作ることができ、作物自身の遺伝子を狙って書き換えたものです。この違いから、国や地域によって規制の扱いが異なり、論説は規制の国際的な調和を課題として挙げています。
Q3. RNAi農薬は家庭菜園でも使えますか?
2026年現在、家庭菜園向けに広く流通しているものではありません。論説も、RNAiを基盤とする技術は、分解されやすさ、害虫の取り込みの低さ、生産コストといった課題から、露地ではまだ広く普及していないと述べています。家庭菜園では、よく観察する、必要な場所だけ対策する、耐病性品種を選ぶなど、「狙いを定めた」考え方を取り入れることから始めるのがおすすめです。
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参考文献
- Balasubramani, S., Li, Z., Gayathri, E., Gurusamy, D. & Singh, A. (2026). Editorial: Advancing plant defense: genome editing, RNAi, and synthetic biology for sustainable pest control. Frontiers in Plant Science, 17, 1785705. https://doi.org/10.3389/fpls.2026.1785705
- 論文PDF:論文PDF/fpls-17-1785705.pdf
- 関連ファイル:20260928_翻訳_ゲノム編集・RNAi・合成生物学による持続可能な害虫防除.md、20260928_note_農薬の次にくる作物の守り方.md
- Savary, S., Willocquet, L., Pethybridge, S. J., Esker, P., McRoberts, N. & Nelson, A. (2019). The global burden of pathogens and pests on major food crops. Nature Ecology & Evolution, 3, 430–439. https://doi.org/10.1038/s41559-018-0793-y(上記論説の参考文献)
- Hawkins, N. J., Bass, C., Dixon, A. & Neve, P. (2019). The evolutionary origins of pesticide resistance. Biological Reviews, 94, 135–155. https://doi.org/10.1111/brv.12440(上記論説の参考文献)
- Deutsch, C. A., Tewksbury, J. J., Tigchelaar, M., Battisti, D. S., Merrill, S. C., Huey, R. B. ほか (2018). Increase in crop losses to insect pests in a warming climate. Science, 361, 916–919. https://doi.org/10.1126/science.aat3466(上記論説の参考文献)
- Koeppe, S., Kawchuk, L. & Kalischuk, M. (2023). RNA interference past and future applications in plants. International Journal of Molecular Sciences, 24, 9755. https://doi.org/10.3390/ijms24119755(上記論説の参考文献)
- Kostov, K. & Smagghe, G. (2025). RNA interference: View on its current status since the 2006 Nobel Prize and impact on the agriculture looking to the future. In: RNA Interference in Agriculture: Basic Science to Applications. Springer Nature Switzerland, 25–50. https://doi.org/10.1007/978-3-031-81549-2_2(上記論説の参考文献)


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